AKB48“モウソウ馬鹿” -28ページ目

AKB48“モウソウ馬鹿”

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“ひとは生まれ変われるのだろうか…”


リングの上に飛び散る汗 二匹の獣が絡みあっている 格闘技はスポーツだ、喧嘩とは違う しかし、彼女たちの基本はたいまんであり、正々堂々と戦っていればルールにとらわれることはない 要するに、レフェリーは必要ないということだ

「センター、腕をあげたな たいまんだったら勝てそうにもないぜ(笑)」
チョウコクがセンターの体を固めた

「ありがとうごさいます しかし、マジきついんっすけど ギブアップしていいですか」

「あははは、わりぃわりぃ」
センターの体を離すと、チョウコクはリングの真ん中で胡坐をかいた

「先輩はやっぱ強いっす レナ、いやゲキカラと戦っても強いなんて思わないっすけど、先輩は強いし、疾い 動きについていけないっす」

「そうか(笑) 一応プロだからなあ ところでセンター、今日来てもらったのは、ちょっと聞きたいことがあってなあ」

「えっ、なんっすか?」

「実はマエダっていう奴のことだ てめえ、マエダとやりに、三年の教室に乗り込んだんだってなあ 新入りの様子を見させるために、ゲキカラをやったらセンターが暴れてたって」

「そうっすか… ラッパッパが動き出したんですね 自分もあんまり知らないんですよ 名古屋にいるとき、あの人はみなみっていうのとふたりで暴れてました 高校ではセンターって呼ばれてて、一年で番はってましたよ ただ、そのみなみってのが死んだらしいんっすよ、マエダの身代わりになって それでマエダが狂ったって 突然、名古屋から姿を消したんですが、サツにぱくられたっていう噂でした だから、奴を校庭で見かけたときは目を疑いましたよ 眼鏡なんかかけてるし、人違いかと しかし、目が合ったんっすよ 奴の目でした、遠くを見る目 虚ろで、儚げで、そして妖気をはらんでいる…」





この学校でわたしを恐れていないのはこいつだけかもしれない 学ランでさへ、わたしの前では神経が張り詰めているのに、こいつは自然体だ なんの隔たりもなく、わたしの傍らにいる それでいて、存在感はまったくない だから、素人には彼女の恐ろしさがわかるまい ただの綺麗なお姉さんだ こいつは忍びだな、かなり使い手の
「おたべよ、てめえはマエダのことをよく知ってるのか 奴はかなりやっかいな奴みてえだ 中坊のときは、サドのチームでセンターはってたんだとよ だから、シブヤとも絡みがある」
「マエダですか… そうどすなぁ… うちが中学生の頃、あのひとは名古屋で暴れてはったみたいどす うちは、京都、大阪、神戸のワルが集まる三都連合の頭として、東海地方で売り出し中のSKEに遠征したんどす SKEの頭はカツオってひとで、凶暴そうな顔のわりには穏やかな性格で、うちも血は好まんので友好条約を結ぶことになったんどす ところが、いきなりマエダとみなみが2人で喧嘩売ってきたんどす SKEの子らは勇敢やったなぁ そのときは大阪の追出夜叉の頭になったタコヤキ、いやユカもいっしょで、あいつらと戦いました めちゃくちゃ強おましたなぁ」

「てめえはユカを知ってるのか 世間は狭いなあ」

「あの子は東京のチームK出身、チョウコクはんやユウコはんがいてはったチームなんどすなあ うちはあの子の薦めでここに来たんどす ここなら生きてることを実感できるんとちゃうかぁ言うさかい(笑)」

「そうだったのか… 不思議だったんだよ、てめえのような普通?のお嬢さんがどうしてこんなところに来たのかがなあ だから、ラッパッパに入部を申し入れに来たときゃ目ん玉ひっくり返ったが、てめえの気に押されてなあ そうか、てめえも修羅場を歩んできたんだ」

「修羅場どすかあ… まあ、生きてる実感はおませんでしたなあ うちにもいろんな事情がおますんや(笑)」







敦子、起きろよ 何やってるんだ 起きろよ てめえ、俺との約束を忘れたのか ちゃんと勉強して介護士になれよ それからミナミのことはどうなった あいつには俺の二の舞になって欲しくないんだ まっとうな人生を送ってもらいたいんだ

「みなみ、みなみ、みなみぃぃぃ…」

マエダは、名古屋でみなみに出会った 初めて見たときは、チームAのキャプテンをしていたミナミかと見間違うくらいだった 顔が似ているからというわけでもないのだろうが、ふたりは初対面から気が合った マエダは家庭の崩壊から自暴自棄になり、生きている意味を見いだせなくなっていた “前田敦子は東京で死んだんだ…” ところが、みなみはそんなマエダを生き返らせてくれた 彼女といる世界では、すべてのものが輝いて見えた 飛び散る血飛沫はまるでルビーのようだった マエダは、みなみといるときだけ、生きている自分を実感できた だから、みなみが死んだとき、自殺しようと街を彷徨った ナンパしてきたチンピラを何人か半殺しにし、気が付けば鉄格子の中にいた まさに生きる屍だった 食べることを拒絶し、みなみのことだけを考えて過ごしていた そんなある日、車椅子の老婦人が面会に訪れた みなみが世話になった施設の例の職員さんで、マエダの身を案
じて探してくれたのだという 彼女は、みなみの親代わりともいえる人物で、マエダも面識はあった 彼女は、みなみからの手紙をマエダに手渡した そこには、マエダのことがたくさん書かれていた 彼女が話すには、みなみはマエダと出会うまで、独り荒れ狂って、悪さばかりしていた ところが、弱い者虐めをしなくなり、スポーツのように喧嘩を楽しむようになったのだそうだ

「たいまんっていうんですよねえ みなみはいつも“敦子と喧嘩してきたよ 今日のたいまんは最高だった 最後は相手と握手して別れた”って痣だらけの顔で笑ってましたよ」

みなみは、孤児院で育ったっていうだけで、いわれのない差別を受け続けてきたのだった 不良たちの中でさへ平等には扱ってもらえなかった 信じられるのは自分の力だけ 弱い者虐めするのは、弱い方が悪いからだと勝手な理屈をつけていた そんな時、自分をまったく普通に扱ってくれるマエダに出会った 弱い者を虐めても疲れるだけだろ それに後味が悪くないか やるなら自分より強そうな奴とだ そしたら、自分が一番強いことがわかるだろ みなみの前に新しい世界が広がった 暴力は必ずしも悪いものばかりではない 生きてることを実感するためだけに喧嘩をしよう…

そんなとき、彼女が脳梗塞で倒れ、重い後遺症が残った みなみは一生懸命介護した 体力には自信があったが、介護士さんたちの熱意には驚かされるばかりだった
「敦子、介護士さんって凄いんだぞ こんな小さなおばさんがよお、大きな患者を車椅子に移すんだ 俺も手伝ってみたが、勝てねえよ それに患者のおじいちゃん、おばあちゃんは俺を差別しねえ 介護士のひとたちも優しく教えてくれるんだ 学校じゃあよう、馬鹿だのちょんだの言われ続けてきたが、あそこじゃ患者さんが教科書なんだ こうすりゃこうなるって順序だてて教えてくれて、できるまで何回も繰り返す ひとの命がかかってるからなあ 学校の教科書はわからなければ捨てちゃうけどよお、患者さんは捨てられやしねえ 俺を頼ってくれてるんだぜ

マエダは目を輝かせるみなみに自分を重ねていた ひとは変われるんだ みなみと一緒にやり直そう 暖かい血が体中を駆け巡るのが実感できた 喧嘩しなくても、生きてることが実感できた マエダはみなみに負けないように勉強した ところが、マエダがボランティアで県外の施設に出かけている間に悲劇が起きた 帰ってきた敦子を待っていたのは警察の車 みなみがリンチを受けて危篤であるという 病院に着いたとき、ミナミは辛うじて意識があった マエダの手を握りしめ、介護士の勉強を頑張るように念を押した それから、東京に双子の妹のミナミがいるから面倒みてやって欲しいという 最期の言葉は“敦子と出会えて生まれ変われた わたしのぶんまで幸せになって欲しい”だった 冷たくなったみなみの傍らで朝まで泣いた そしてそれ以後、名古屋でマエダを姿を見たものはいなかった
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“二人の関係”


チームホルモンはムクチの退院を、七輪を囲んでのホルモン焼きパーティーで祝っていた

ヲタ
「それにしても、あのメガネが転校してきてから、きな臭くていけねえぜ ヤバメの奴らも校舎の周りをうろついていやがる」

ウナギ
「こないだも、うちの生徒がヤバメにボコられたって」

アキチャ
「ユウコさんも去年ほど勢いないって噂 ゲキカラは卒業を意識して甘口になったって(笑)」

バンジー
「しょうもないこと言うな 聞こえたら殺されるぞ 皆、苛立っている 歌舞伎シスターズなんか荒れまくってるから」

ムクチ
「……」

ヲタ
「メガネの野郎、あれ以来、顔見せねえからなあ なんで謝るんだよ 俺たちにごめんなさいなんて言葉があるのかよ あの野郎はいつも無抵抗だ わけわかんねえ…」





ラッパッパの部室に長身のスーツの女の姿が ソファーに深々と腰掛けたユウコの前に直立不動で立っている

「サドよ、呼び立ててすまねえ」

「いえ…」

「実は、前田敦子って奴の話を聞きてえ 尺が、てめえが知ってるって言うからよお」

「ユウコさん、なんでマエダなんか」

「実は、うちに転校してきたんだ こないだも下のセンターとひと悶着あった」

「そうですか… 敦子がマジジョに…」


「それからシブヤが裏切った ヤバメの頭におさまったってよ 騒々しくなってきたぜ お前がいてくれたら楽勝なんだが まあ、学ランも頑張ってくれてるけどな ゲキカラは何が何でも卒業させてやりてえんで、揉め事には関わらせたくねえんだ」

「そうですか… 自分はいつでも働きますから、声かけてください それにしても、マエダはやっかいですよ 奴はむちゃくちゃ強いです 自分も勝てるとは断言できません」

「サドよー、勝負は時の運だぜ てめえはもってるよ 喧嘩も強いし、頭もいい 現役で、看護師の卵さんだ そう言えばよお、マエダを見たんだよ、病院で 俺が入院してた病院で働いてた あれは確かにマエダだったと思うんだが…」

「そうですか 自分にはなんとも言えません マエダと看護師がリンクしないんで 自分とマエダは同じチームに属してました お恥ずかしながら、自分は3番目だったんです キャプテンがミナミ、センターがマエダ、そしてその次が自分 ミナミはご存知のように、いっこ下で入学してきました しかし、奴も変わってた…」

「何でマエダはうちに来たんだろ… 確かに奴には何かがある ゲキカラに妖気を感じさせるなんて、尋常じゃないだろ しかし、てっぺんを狙ってるって感じじゃないんだ」

「わかりません 自分の知ってるマエダは喧嘩が三度の飯より好きって感じでした 親の都合で引っ越してからは付き合いないんでわかりません マエダは、ミナミとシブヤと仲がよかったんで…」

「そうか… 呼び立ててすまなかった また相談にのってくれ」

ユウコは病院で見たマエダのことを考えていた 何かを埋めるように… そうだ、奴は何かを償っていた オタベは、マエダの身代わりに友達が死んだといった みなみって奴が死んだらしい みなみ、みなみ…




ラッパッパの部室で、チョウコクが豹柄のサンドバッグを叩いている

「サヤカ、相変わらず凄いキレだな」

「久しぶりだな 体調はどうだ 揉め事のときは言えよ てめえは体を大事にしろ」

「ありがとう(笑)」

「センターはどうだ ラッパッパにスカウトしないのか わたしは、あいつが好きだ ネズミと引き離した方がいいと思うが」

「実はサヤカに頼みがあるんだ マエダっていう転校生がいるんだが、センターが奴のことを知ってるみたいなんだ センターに、マエダがなんなのかを聞いてもらえねえか」

「てめえが誰かに興味を持つなんてあり得ねえ(笑) マエダかあ… 中坊のとき、チームAにむちゃくちゃつえー奴がいるって聞いたことがある 確か、あれ、マエダって名前だったような…」

「そうだったっけ…」

「だから、てめえは目の前の敵以外には興味がないんだって(笑)」

ユウコが中坊のとき属していたチームのキャプテンがサヤカ(チョウコク)だった ふたりはスカウトされてマジジョに入学、ユウコはラッパッパに入部、サヤカは百人一首クラブに入った チームのいっこ下の後輩に、サエ(学ラン)とトモミ(大歌舞伎)、 それから、今、大阪を占めてるという噂のユカ(追出夜叉女子・タコヤキ)がいた




センターとネズミが屋上で日向ぼっこをしている ふたり並んでいる姿をみると、恋人同士に見えなくもない
「わたしはお前と見るここからの景色が好きだ 何も邪魔するものがないここからの景色がな」
センターの背中が時々小さく見える ネズミは、自分には知ることのできないであろうセンターの孤独が切なくて仕方なかった

「なあ、ジュリナ お前はどうしてわたしなんかをダチと呼ぶんだ お前はセンター、わたしはドブネズミだ(笑)」

「まゆ、わたしの前でドブネズミなんて言うな お前はこの世でたった独りのわたしのダチ、いや」
センターはネズミを抱きしめた そして…
それは、ふたりにとってのファーストキスだった
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“役者は揃ったか…”



ここは名古屋市の栄という街のとある喫茶店 壁に飾られた大きなフラッグにはオレンジ色で“SKE”と染め抜かれている

「チュリさん、ノンからメールが着ました シブヤさんと久美さんとヤバメに合流したとのことです」
金ちゃんがチュリの前の席に腰掛けた

「そうか… カツオさん、いよいよですね」

「そうだな ジュリナやレナに一泡ふかしてやろうぜ」

「ノンって向こうでは“ミソ”って呼ばれてるらしいです 名古屋の味噌とみそっかすをかけてるらしいんです 舐めてますよね」
金ちゃんとノン(矢場久根女子商一年ミソ)は幼なじみの同級生である

「ふん、でかい口たたけるのも今のうちだけだ こっちにはミナミさんもついてるからな」
チュリはSKEの御旗は見つめた 名古屋が日本を制する

SKEというのは名古屋栄を拠点とするジュニアのヤンキーグループ ほぼ東海一円の小、中学生が集まってくる カツオは初代総長で年齢不詳、紗血穂昂学園の永久3年ということになっている リーダーのチュリをはじめ、紗血穂昂の生徒の多くはSKE出身だ しかし、ジュリナ(馬路須加女子学園二年)は名古屋では有名なヤンキーだったが、団体行動が苦手とかいう理由で、SKE入りを拒否した また、ミナミというのは矢場久根女子商の影の番長ということだが、詳細は不明であった 名古屋にやってきて、チュリと兄弟の契りを結んだ 何でもマジジョを潰すから力を貸して欲しいとのことだった マジジョと言えば、ジュリナがスカウトされて行った学校 相手にとって不足はなかった





「シブヤ、久しぶりだな 矢場久根に来ねえか サドとうまくいってねえんだろ ユウコも入院したそうじゃねえか いっしょにラッパッパをぶっつぶさねえか 俺はラッパッパが嫌いだ 偉そうな顔しやがって だから、マジジョを出て、ここに来た マジジョをたたき潰すために、名古屋の紗血穂昂とも手を結んだぜ てめえの下のダンスは名古屋のSKEっていう族の出身だろ 紗血穂昂にはSKEの息のかかった奴がたくさんいる ミソは、SKEから紹介されてうちに来たんだ」
シブヤとは中学のとき同級生だった しかし、ミナミは少年院に入っていたため卒業は一年遅れ したがって、マジジョではシブヤの一年下であった シブヤはユウコにスカウトされてラッパッパに入った ミナミはマジジョが好きになれず、不登校になった

「ミナミ、てめえ、ヤバメにいやがったのか 急にばっくれたから、この街を出ていったのかと思ったぜ 面白いな… てめえと一緒ならユウコに勝てるかもな しかし、わたしたちが組んだと聞いたら、サドやトリゴヤが黙っちゃいないだろうなあ(笑)」
シブヤは、中学のとき、ミナミ、サド、トリゴヤと同じチームで暴れていた ミナミはそのチームのキャプテンで、誰からも一目置かれていたが、敵対チームの罠に陥ってサツにぱくられ、院送りになった シブヤたちはマジジョにスカウトされて進学し、ミナミは留年した

「入学手続きとか面倒なことは俺がやるから てめえは兵隊連れて裸で来てくれりゃいいんだ そして、ここの頭をてめえに頼みてえ ラッパッパも、てめえが相手の方が燃えるだろう 俺のことは秘密にしといてくれ ヤバメの奴らも、俺のことはほとんど知らねえんだ 普段は可愛いミナミちゃんだからよ(笑)」

「何がミナミちゃんだ(笑) それにしても懐かしいぜ そういや、敦子とはまだ連絡はとってるのか どうしてるんだろうなあ 風の便りでは、向こうでもかなりブイブイいわしてたらしいが」

「敦子のことは言うな…」

ミナミの険しい、いや鬼のような顔に、シブヤは言葉を失った





「話したいことがあるんです」
尺がユウコの前で震えている 別に怒られているわけでも何でもないのだが、ユウコの前に立つと体が震えるのである
「実は、あのマエダって転校生のことを知ってるんです 私は、中坊のとき、サドさんと同じチームにいたんですが、マエダさんはいっこ上の先輩でした だから、サドさんはよくご存知ですよ マエダさんはうちのチームでは“センター”と呼ばれてました むちゃくちゃ喧嘩が強くて、いつも真ん中で戦うんです…」