“復讐”
姉がマエダの犠牲になって死んだと聞かされたとき、ミナミは何の感情も抱かなかった マエダと行動をともにするということは、それだけで多くの危険を伴うということを知っていたから もしかしたら、自分も死んでいたかもしれない そう思うと、姉は自分の身代わりになって死んだのかもしれないというような心持ちにさへなった そんなミナミが、マエダに対して怒りを覚えたのは、姉をリンチした奴らを野放しにしていると知ったからである 名古屋に拠点を置くSKEというグループの奴らが犯人らしいのだが、姉のそれまでの素行から判断して不起訴処分となったのだった 遺品の日記にはマエダとの楽しい出来事がたくさん記述されていた かなり仲が良かったみたいである それなのにマエダは、姉の復讐をするそぶりさへ見せない くそっ、腰抜け野郎… ミナミは誰も信じることができなくなってしまった マエダほどのヤンキーでも、己の身が可愛いのだろうか もしかしたら、自分を陥れ
たのもマエダかもしれない だから、急にチームAから姿を消したのではないだろうか…
「遠いところを申し訳ないです マジジョに勝つには、紗智穂昂さんの力が是非とも必要なんです チュリさんはご存知かどうか知りませんが、名古屋で暴れていたマエダアツコがマジジョにいるみたいなんですよ」
ミナミは苦々しい表情でチュリらに訴えた
「マジだがや…」
驚き過ぎて名古屋弁が飛び出してしまったチュリ
「マ、マエダならよく知ってます わたしたちがSKEにいた頃、何度も戦いました」
「めちゃくちゃ強いんです 実は、私とマエダはジュニアの頃、同じチームにいましたから、奴がいかに凶暴かもよく知ってます だからこそ、勇猛なSKE出身のチュリさんたちにお力をお借りしたいと またマジジョには、名古屋出身のゲキカラとセンターもいます こいつらの退治も是非皆さんにお願いしたいと考えてます 名古屋のゴミは名古屋市民の手で掃除願いたい(笑)」
高笑いをするミナミの顔を眺めながら、あの“みなみ”を思い出すチュリ 本当によく似てるだがや… みなみが死んだと聞いたとき、チュリは震えが止まらなかった OBがやったこととはいえ、マエダが黙ってはいまい SKEに復讐にやってくるに違いないと考えたからだ 下手したら、殺されるかもしれない… マエダがチンピラ数人を半殺しにしたと聞いて、不眠症になった 金属バットを抱いて寝た夜もあった だから、マエダが逮捕されたことを知って、お母ちゃんに赤飯を炊いてもらった 喜び過ぎて嘔吐したくらいだから、いかに恐れていたか想像に難くない
「具合はどうだ」
学ラン、ゲキカラ、おたべが見舞いにやってきた
「別にどおってことねえや 尺さんは不死身だぜ」
意識が回復したところなので面会謝絶ではあったが、無理を言って、少しだけという約束で会わせてもらった
「頼もしいな(笑) それにしても、てめえがあんなに強かったとは知らなかったぜ」
学ランが愛しそうに尺の頬を撫でた 実はちょっと怪しいふたりなのである
「実は…」
尺が朧気な記憶をたどりながら話し始めた
「マエダが動き出したんやろか」
オタベと学ランが手をつないでいる
「いったい、あいつはマジジョに何しに来たんだろう ヤンキーの集まる学校に来て、勉強ばかりしてやがる」
何でこいつらは手なんかつないでるんだ ふたりの背中を不思議そうに眺めながらゲキカラが言った
「もう触らんといて」
オタベと学ランがじゃれている
本当にこいつが副部長でいいのだろうか…などと考えながら、ゲキカラは尺の話を思い返していた
「マエダさんはチームAのセンターだったんだ わたしからすれば雲の上のひと あんまり付き合いなかったし、それにどちらかというと寡黙なひとだったから 喧嘩はむちゃくちゃ強かったなあ だから、目の前に現れたときに思わず“助けて”みたいな チームAの頃のマエダさんなら、間髪入れず飛びかかってたと思うんだけど、あの時は躊躇してたなぁ 呆然としていた それで、何度も助けてって言ったわけ するといきなり“みなみぃぃ”って叫んで暴れ出した そりゃもう強いのなんのって ありゃ怪物だね わたしが気を失うまでに十数人は倒してたと思うよ」


