ネズミは怒っていた
この凄惨な教育プログラムに対してはもちろんのこと、自分に腹が立っていた
もし、自分がフラフラせずに、力を合わせて戦っていたとしたら、センターは死ななくて済んだのではないか
どこのどいつか知らないが、爆弾なんか使う卑怯な奴に、唯一無二のダチを奪われなくても済んだのではないか
「一番、卑怯で、弱虫なのはお前だ、ネズミ」
いくら悔いても、センターは戻ってこない ネズミは夜明けまでの時間を埋葬に費やした そして、ツインテールを切り落とすと、墓に手向けた
「センター、ごめんよ 仇は絶対にうってやる…」
空が明らんできた すると、朝靄の中にセンターの姿が 極度の疲労による幻影であることはわかっていた それでもネズミは嬉しかった
「ネズミ、無駄死にするな わたしのぶんまで生きるんだ」
ネズミは、幻を抱き締めた「上から目線はやめろっていってるだろ センタぁぁぁぁぁ」
ネズミの叫び声が、校舎の朝の静寂を引き裂いた
センターの墓の前にネズミの姿はなかった バトルロワイヤルinマジすか学園、三日目の朝 いよいよ、最後の戦いが始まる
サド
「今の叫び声はネズミ まさか、センターが殺られたのか 爆発音が聞こえたからなあ」
シブヤ
「それにしても、爆弾なんか、どうやって手に入れたんだ 山椒姉妹なら、作れるかもしれねぇがな」
坂本金七が校内放送を利用していることからもおわかりのように、バトルロワイヤル運営本部は放送室に設置されている 見張り役の兵士たちに敬礼し、馬路須加女子学園理事長青木春江は静かにドアを開けた
坂本
「チッ、余計なことしやがって」
理事長
「何が余計なことですか?」
坂本
「うわぁっ、り、理事長、いつの間に…」
理事長
「こんなことで大丈夫ですか もし、生徒だったら、あなた、殺されてますよ」
坂本
「面目ない…」
理事長
「で、ゴミ掃除ははかどってますか まさか、ミス前田は死んでないでしょうね」
坂本
「それがなかなか… 横山は死にました 前田がバットで殴り殺しました しかし、まだ大島は生きてます それも、前田と行動を共にしています」
理事長
「まあいいでしょう 大島といっしょなら安全ですから 他に、誰が残ってますか?」
坂本
「篠田、板野、北原、小森、渡辺、高橋です」
理事長
「やっかいねぇ 篠田は強いですよ 大島と同格 器量は篠田の方が上ですから」
坂本
「そ、そこなんです 篠田、大島に限らず、ここの生徒は素晴らしい まず、体力が桁外れです 二日間、何も食ってないんですよ それなのに、まだ十分戦える 今までのデータでは、極度の緊張、疲労、空腹で、三日目の朝には戦意を喪失しています なのに、彼女たちは、今からが勝負だと思ってます たぶん、ここにも攻めてくるでしょう わたしは、渡辺だけは殺したくない」
理事長
「そういえば、ここにも来たそうですね どうせ買収に来たんでしょう あのコは、ある大物国会議員が二号に生ませた子なんですよ(笑)」
坂本
「そうです 彼女は、そういう複雑な家庭環境で育ったせいか、物事を斜めに見る癖がついてます ですから、頭脳明晰にも関わらず、自己評価ができていない 自分を汚い人間だと思い込んでます 見張り2人を素手で倒し、ここに入ってきました なのに、私を倒そうとはしない 汚い方法でしか勝つ意味がないんでしょう…」
理事長
「キチガイなんですよ 私はもっと純粋なヤンキーたちを育てたかった 昔の青春ドラマのような “あなたたちは腐ったみかんじゃない”って叫びたかったんですよ しかし、このコたちは、腐ったどころか、突然変異したみかんです 恐ろしいコたちなんです 早く始末しないと、大変なことになります」
坂本
「そうですかねぇ… いいコたちじゃないですか 極限状態に追い込まれると、本性が出ます 自分さへよければ、他人なんかどうなってもいいんです でも、ここの生徒は仲間をかばって死んでいる 驚きました 新しい知見です 今のこの国の教育の方が間違ってるんじゃないかって感じさせられるんですよ このコたちを見ていると これが、ヤンキーソウルってもんなんですかねぇ 凶暴な大島でさへ、卑怯なまねはしない いや、小嶋のときはちょっと…」
理事長
「そんなのどうだっていいんです あなたは役人なんだから、国の指針通り、仕事をなさい」
マエダ
「今の、ネズミの声じゃない センターに何かあったみたいね」
ユウコ
「もう楽勝だぜ ところで、ミナミってのは強いのか? 喧嘩してるの見たことねえし」
マエダ
「わたしと組むと無敵だったよ 次はラッパッパだって言ってたもん(笑) でも、根本的には優しいから 人殺しはできそうにないよ」
サド
「学ランとオタベは誰が殺したんだろう ユウコがそんなに張り切るかなぁ」
シブヤ
「問題は、ユウコがひとりでいるのか、マエダと合流したのかってことじゃない ミナミが生きてるってことは…」
ミナミ
「ユウコはマエダといっしょだよ」
サド
「ミナミ… お前、独りなのか?」
ミナミ
「ラッパッパの部長はレズなのか? 敦子のやつ…」
シブヤ
「ラッパッパに何か文句あるのかよ」
サド
「やめろ なあ、ミナミ わたしたちは、もう殺し合いをするつもりはないんだ 今夜、坂本を襲撃する」
ミナミ
「そうか… でも、あたしはユウコを殺るよ 腹の虫がおさまらねえんだ あの野郎、拳銃持ってやがった」
サド
「好きにしろ ところで、お前は、誰を殺した?」
ミナミ
「あたしと敦子は誰も殺してないよ ずっと隠れてたからね」
サド
「そうか… 会えてよかったよ いや、爆弾を持ってる奴がいるみたいなんだ お前じゃないことがわかっただけでも動きやすい ユウコには気を付けろ 奴は本気だ トリゴヤとゲキカラを殺りやがった そして、このわたしも…」
ミナミ
「ゲキカラを… 口だけかと思ってたが、なかなかやるんだなぁ わかった ユウコをやったら、合流するよ じゃあまたな」
シブヤ
「さっきのメモを見せてくれ 誰が生きてるんだ 板野、大島、北原、小森、佐藤、篠田、高橋、前田、松井、渡辺かあ たぶん、松井はバツだろう 大島と前田がいっしょだな 問題は佐藤ってやつだな あんまり知んない でも、爆弾持ってるとしたら、こいつだろ やっぱりプレゼントは拳銃だったんだ まさか、おまけに爆弾までついてたんだろうか 自分たちが攻められたらどうするんだ 考えられねぇ いったい、どうやって爆弾を それにしても、何かひっかかるんだよなぁ 他に誰かいなかったかなぁ…」
「放せ、この野郎」
チハルを羽交い締めにするネズミ
サド
「なんだてめぇ」
ネズミ
「サド、近寄るな こいつ、手榴弾を持ってやがる こいつのせいで、センターは…」
チハル
「放せ、てめえ死にたいのか 爆発するぞ」
ネズミ
「そのつもりだ センターが待ってるからなぁ」
シブヤ
「山椒をやったのもてめえか」
チハル
「知るか あたしはお前たちが憎いんだ あんな、チビら、関係ないよ あたしだって、マジ女に憧れてたんだ… 松山千春のファンで悪かったな てめえらのグループがつけたあだ名じゃねえか 忘れてたみたいだなぁ お前たちはいつもそうだ 自分たちが一番偉いって思ってやがる あたしたちみたいな、こっぱのことなんか、これっぽっちも気にかけてねえんだよ」
ネズミ
「演説はもう終わりか じゃあ、行こうか サド、あとは頼んだぞ それから、できたらあっしを10年桜の木の下にあるセンターの墓に入れてくれ… じゃあな、早く逃げろ!!!!」
サドたちは、一目散に逃げた 後ろの方で爆発音がし、風圧で吹っ飛ばされた
サドもシブヤも泣いていた もちろん、ウナギもムクチも ネズミとつるんだことなどない サドって呼ばれたのも、初めてのような気がする そのネズミに“あとは頼む”って言われた わたしたちを助けなければ、ライバルが4人減ったわけだ しかし、奴は死ぬことを選んだ わたしたちに、センターの敵討ちを託したんだ 教室の後ろで、ネズミにつきまとうセンターの姿を思い出した 鬱陶しそうに追い払うネズミの姿を思い出した しかし、人気者のセンターが他の奴らに囲まれている姿を見つめるネズミの切なそうな顔 相思相愛だったんだ 黒焦げになったネズミのリュックが見つかった センターの墓に入れてやろう…



