バトルロワイヤル法では、動員される兵士の数も定められている 学生同士が殺し合うことが前提であり、兵士が武力を行使するということは、運営に不手際があったとみなされる 坂本は自他共に認める優秀な技官である 若かりし頃の過ちを取り戻すために、心理学をはじめあらゆる勉強をし、ミスターバトルロワイヤルと言われるまでになった しかし、今回ばかりは、小手先が通用しないことがわかっている 彼女たちは、生き残ることを考えていない そんな人間を扇動して、殺し合わせることなどできないだろう もうこれ以上、彼女たちを苦しめることもあるまい あと12時間も残っているが、彼女たちのヤンキーソウルというものを拝見させてもらおうか 坂本は、ポケットから女の写真を取出し、ライターで火を点けた そして、ネズミのことを考えた 脱がなかったなあ…(笑)
坂本は兵士たちに召集をかけた
「何度も言いますが、むやみに発砲しないように それから、必ず防弾衣を身に付けるよう 君たちを危険な目にあわせることは本意ではないですが、無能な役人に仕えたとあきらめてください」
ユウコ
「敦子、行こう サドたちを探すぞ おそらくラッパッパの部室に現れるはずだ」
敦子
「いよいよクライマックスだね 疲れちゃったよ」
ふたりは、まさかこんなに早い段階で、坂本たちが臨戦体制に入っているとは想像していなかった また、兵士の中には、ユウコの凄まじい戦いっぷりに恐怖を感じているものも少なくなかった ラッパッパの部室は最上階 軍の本陣はその一階下に布かれたいた
雨の中を5つの影が校舎を目指して歩いていく サーチライトがその影を照らし出した
サド
「走るぞ」
兵士たちは、生徒が抵抗しない限りは、武力行使してはならない しかし、プレッシャーをかけることはできる 威嚇射撃がなされた
ユウコ
「戦争が始まったぞ どうなるんだ」
マエダ
「わたしたちは関係ないじゃん」
ユウコ
「いや、同罪とみなされるに違いねえ どうすりゃいいんだ」
兵士1
「大島と前田が来たぞ」
兵士2
「大島って、3人を立て続けに絞め殺した奴だよな 気をつけろ 拳銃を持ってるぞ」
前田
「何これ 兵士がいっぱいいるじゃん」
大島
「やるっきゃないか」
校舎の中には灯りが戻り、武装した兵士たちが所狭しと歩き回っている
サド
「シブヤ、部室に行こう 小森、機関銃は任せたぞ」
ミナミ
「うじゃうじゃいるじゃん こいつらと戦うわけ」
シブヤ
「なんだよ いもひいてんのかよ(笑)」
ミナミ
「てめえらといっしょにするな わたしは介護士になるために勉強ばっかしてたんだ」
ウナギ
「ミナミちゃん、介護士目指してんの 素敵じゃない わたしにも勉強教えてよ」
ミナミ
「オッケー、天国で介護しまくろうぜ 行くぜ」
ミナミが先陣をきって、兵士の中に飛び込んでいった
サド
「みんな、小森を援護してやってくれ 小森、階段一気に駆け上れ」
凄い 特に、大島優子は化け物だ あの小さな体のどこにこれだけのパワーが秘められているというのだ 前田敦子も高橋みなみも凄い そして、篠田麻里子 なぜ、彼女はあんなに落ち着いていられるんだ グリーンのジャージの2人をかばいながら少しずつ確実に前進している カメラの映像を見ながら、坂本は感動していた
「麻友、おまえが篠田を助けた理由がわかったよ」
ユウコたちはラッパッパの部室を目指していた サドたちを殺せば、バトルロワイヤルは終わるのだ 敦子は2人の兵士を相手に戦っている しかし、助けにいく必要などない 喧嘩慣れしていない兵士など、ちょろいものだ サドたちが近づいてきたのか、兵士の動きが慌ただしくなった ユウコはとっさに拳銃を構えた 兵士と揉み合うミナミの姿が見えた
「危ない、ミナミ」
パン 乾いた銃声
ユウコの放った弾丸が、マエダの背中を貫いた
ユウコ
「敦子ぉぉぉ」
ミナミ
「敦子?」
「よこせ」
シブヤが機関銃を発射した
「トリゴヤとゲキカラのかたきだ」
ダダダダダーン
ユウコの小さな体がぶっ飛んだ 壁に飛び散る血飛沫
ミナミ
「敦子、敦子、目を開けてくれ」
マエダ
「ミナミ、大丈夫?」
ミナミ
「ああ…」
マエダ
「よかった…ごめんね…頑張って介護士になってね ユウコは?」
ミナミ
「死んだよ」
マエダ
「そう(笑) じゃあ、わたしも行くね ユウコ、ああ見えて寂しがり屋なんだ」
敦子の頬に涙がこぼれた ミナミは、敦子の唇に唇を重ねた
サド
「小森、走れ」
シブヤとウナギが兵士を食い止めている 細い廊下なので、兵士が2人並ぶと動きがとれない したがって、1人ずつシブヤたちに向かってくる 機関銃を抱き締めて、小森がラッパッパの階段を駆け上っていった
サド
「北原、お前も上がれ 人数が多いと邪魔になる シブヤもだ」
サドとミナミの20センチの身長差が、細い廊下で戦うのに都合がよかった
ウナギとシブヤが部室に駆け込むと、ムクチが倒れていた
ウナギ
「ムクチ、ムクチ」
マユゲ
「ミカは気を失ってるだけだ」
ウナギ
「てめえ」
マユゲが金属バットを構えた
シブヤ
「あたしが相手だ」
マユゲ
「そう願いたいですね 今まで散々こけにしてくれてありがとうございます(笑)」
シブヤ
「どう致しまして 来いよ、マエダ」
坂本
「隊長、攻撃をやめさせてください 私もそちらに向かいます」
坂本は、カメラで記録したデータと、バトルロワイヤル課を管轄する文部省宛てにしたためた書状を携え、ラッパッパの部室に向かった 途中、ユウコとマエダの亡骸を目の当たりにし、その可愛らしさに驚いた 血塗れのユウコに寄り添うマエダ ミナミがそうしてやったのだ その様子を見ていた兵士は、戦うことを忘れ、こらえきれずに涙した
シブヤ
「もう終わりか」
結局、マユゲのバットがシブヤをとらえることはなかった
マユゲ
「やっぱり一流は違いますね(笑) さあ、殺してください」
シブヤ
「ひとつ聞いていいか オタベを殺ったのは、てめえか?」
マユゲ
「そうです 最高のスイングでした」
シブヤ
「そうか… ありがとう」シブヤの頬を涙がつたう ダンスの可愛い顔が脳裏に浮かんだ もうすぐ、あたしもそっちに行くからよ…
マユゲ
「早く殺してください 最後のひとりにならないと生きて帰れないんですよ」
シブヤ
「行け 矢場久根に戻って、マジ女のヤンキーソウルを伝えてくれ あたしは舎弟3人も死なしちまった 上だけがのうのうと生きてるわけにはいかないんだ」
マユゲ
「これ以上、わたしに恥を…」
そう言い残すと、窓の外に飛び降りた
サドとミナミが部室に合流した 階段の下には兵士が集結し、坂本からの指示を待っていた
部長の椅子の前で、機関銃を構えるムクチ 階段の上では、サドら4人が兵士が上って来るのを待ち構えている
坂本が現れた
「それでは行きますか」
隊長
「突撃」
狭い階段を駆け上がる兵士たち 部室の前にはサドが立ちはだかる
サド
「ここは神聖なラッパッパの部室だ 簡単には通さないよ(笑)」
蹴落としても、蹴落としても、上がって来る兵士たち 多勢に無勢、やがて、戦いの場は、部室の中へと移っていった ムクチと機関銃はサドが守っていた シブヤ、ミナミも奮闘していた
「動くな」
ウナギのこめかみに拳銃を押しつける坂本
「はじめまして、坂本です」
サド
「くそっ…」
坂本
「動くな こいつの頭が吹っ飛ぶぞ」
「サドさん、撃ってください ムクチ、撃てぇぇぇ」叫ぶウナギ
サド
「もういい(笑) わたしたちの負けだ ウナギ、お前強いなあ このサド、ミナミ、シブヤと同じように戦ったんだ もうじゅうぶんだよ」
ウナギ
「サドさん…」
シブヤ
「泣くなよ(笑) はなから生きてマジ女出るつもりなかったじゃねえか」
ミナミ
「天国でいっしょに介護士するんだろ(笑)」
サドはネズミがリュックにつけていた焼け焦げたぬいぐるみを取り出した
「すまない、ネズミ ここまでだ」
「それは、麻友の…」
ウナギを放すと、ふらふらとサドに近づく坂本 ネズミのぬいぐるみを取り上げると床に崩れ落ちた
「隊長、この5人を連れて軍に戻ってください 文部省宛ての手紙、すべてのデータ、記録、今撮ったビデオもバトルロワイヤル委員会に提出してください お願いします 篠田君、あとは頼んだよ 君たちは、バトルロワイヤルに勝ったんだ 私の命にかえても君たちは守る あとは、彼の指示にしたがってくれたまえ それでは隊長、お願いします」
サド、ミナミ、シブヤ、ウナギ、ムクチは、抵抗する暇もなく、兵士たちに連行された 降りしきる雨のグラウンドに整列し、隊長をはじめ全員の兵士が、ラッパッパの部室の方に向かって敬礼した やがて、爆発音が轟き、部室は火の海と化した
坂本は、ネズミのぬいぐるみに話かけた
「君のお母さんは服を脱いだんだよ でも、君は脱がなかった(笑) びっくりしたよ、君は彼女にそっくりなんだ だから、調べたんだ 政治家の妾になったとは聞いていたが、まさか君が娘だなんて 君が生まれる少し前まで、私と彼女は関係かあった もしかしたら、君は私の娘かもしれないんだ 助けたかった 佐藤にも前田にも、君にも松井にも手を出さないように言っておいたのに… だから、君が命に変えて守ろうとした“友達”は、私が命をかけて守る 私が死ねば、彼女たちがバトルロワイヤルに勝ったことになるからね 軍も彼女たちの素晴らしさを認めているし、きっと大切に育ててくれると信じているよ」
坂本は、部室の窓からグラウンドを見た 敬礼してくれている兵士たちがサーチライトに浮かんでいる
「このぬいぐるみが、私を君の元へと導いてくれるといいね 君とは、もう少し話してみたい」
坂本は用意しておいた爆弾のスイッチを入れた
「ありがとう、マジすか学園」
隊長
「坂本さんは、ご自分の命と引き替えに、君たちを私に託された」
サド
「どうして…」
隊長
「君たちは、我々大人を嫌っているだろう 確かに、中途半端な輩が多いからな 坂本さんは、この国を愛しておられた バトルロワイヤルに命をかけておられた だから、守るべきものを守られたのだ それが法律というものなんだ… 高橋みなみ君というのは? 坂本さんから話は聞いている 介護士になりたいんだってね うちにも、認知症の年寄りがいるんだ 我々の機関で教育を受けると大学卒業資格が得られる それからでもいいかなぁ 坂本さん、言ってたよ 君たちを見ていると、この国の教育の有り様に疑問を感じるってね “ヤンキーソウル”って教科をつくる必要があるかもしれないって笑っておられたよ とても嬉しそうにね…」
そう話すと、彼は空を見上げた まるで涙を雨で洗い流すかのように
20**年6月、馬路須加女子学園において施行されたバトルロワイヤルを最後に、この凄惨な教育プログラムは廃止された その陰に、ひとりの役人の命をかけた報告書が存在したことを知る人間は少ない その報告書の締めくくりの言葉は
“勿体ないんだよ!”
-おわり-