ユウコのクロスカウンターが少女の下顎をとらえた パンチの勢いでフードが脱げ、艶々とした黒髪が空中を舞う 少女は膝から崩れ落ち、意識を失った ユウコも地面に大の字に寝そべり、目を閉じる
「強いっすねえ」
少女の声で、ユウコは微睡から覚めた
「てめえもな 中坊に、こんなに手を焼くとは思わなかったぜ」
ユウコは起き上がり、少女をみる
「名前はなんて言うんだ」
「名前なんてないっす あんな奴がつけた名前なんていらない」
少女の父親はある大物政治家であったが、彼女は軽蔑していた
「そうか… じゃあ、てめえは、これから“ネズミ”だ そのパーカーのせいか、てめえが鼠に見えるんだ」
ユウコが微笑んだ
「ネズミ いい名前っす」
少女も微笑む
「さっき、てめえは、マジ女のてっぺんって言ったよなあ うちに来る気か」
「そのつもりっす あっしは、ひとに見下されるのが嫌いなんっすよ マジ女のてっぺんに立てば、誰からも見下されることはない」
「そうか… 俺をオオシマユウコだと知って、喧嘩売ってきたんだよな」
「もちろんっす あっしは、喧嘩が嫌いっす しかし、先輩が“たいまん”を絶対的なものと考えているのなら、あっしもやるしかないっす」
「そうか… 俺は3年になったら、ラッパッパの部長だ 要するに、マジ女のてっぺんに立つことになる てめえの喧嘩の実力はだいたいわかった おそらく、マジ女のてっぺんには立てるだろう しかし、だからといって、いつまでもナンバーワンであり続けられるかどうかはわからねえ 俺の代は、間違いなくナンバーワンだ しかし、次の学年はわからねえ そして、てめえの時代もな 俺は、マジ女を愛している いつまでも、ナンバーワンでいて欲しい なあ、ネズミ、俺に力を貸してくれないか てめえは、俺の若い頃にどこか似ている 俺も、ナンバーワン目指して、マジ女に入った そして、サド(シノダマリコ)とたいまんして、学年のてっぺんに立った ただ、番長を倒すつもりはねえ 今、マジ女のてっぺんに立ったところで、なんの意味もねえからなあ 要らぬ憎しみ、禍根を残すだけだ 三年が卒業すりゃ、俺がてっぺんだ そして、てめえは一年、焦る必要はねえ 喧嘩は真っ直ぐ、たいまんに限るんだが、組織を束ねるためには、頭を使わなけりゃならねえ てめえは、三年でマジ女のてっぺんに立つ そして、この国のヤンキー界をひっぱる存在にならなきゃなんねえ マジ女がナンバーワンであり続けられる組織に成長させなきゃなんねえんだ」
そう言い残し、ユウコは去っていった
ネズミ(ワタナベマユ)はマジ女に入学し、ユウコの影として、ラッパッパを支える存在となった もちろん、ユウコとネズミの関係は、副部長であるサドでさへ知らされていない
ユウコが倒れた 入院先の病院には、サドをはじめシブヤ(イタノトモミ)、トリゴヤ(コジマハルナ)、ブラック(カシワギユキ)、ゲキカラ(マツイレナ)ら四天王が頻繁に見舞いに訪れ、ネズミはあまり近づくことができなかった 指令はメールで事足りるし、下手に近づいてユウコとの関係がばれては、密偵としての役割に支障をきたす 転校生であるマエダアツコについても逐一報告していたが、写メまでは送らなかった 病院にマエダが出入りしているのは気づいていたが、まさかユウコと接触しているとは想像もしていない マエダの過去については、調査済みであった 歌舞伎シスターズのように馬鹿ではないので、介護士と弁護士を混同することもない ネズミは、自分の機転のきかなさを悔いた マエダに興味を持ったユウコとサドとの間に、少しずつ軋轢が生じている ネズミは、チョウコク(アキモトサヤカ)や矢場久根のヤンキーを扇動して、マエダとサドを結びつける作戦に出た 自分が悪者になったと
ころで、誰も困らない それよりも、マエダとサドを結びつけなければ、ラッパッパの未来はない ネズミの作戦は成功した 背中を合わせて戦うマエダとサド ネズミの報告に、ユウコは喜んでくれた しかし、それが、ユウコと直接に話す最後の機会となった 校舎の陰で、マエダに車椅子を押されながら幸せそうに眠るユウコの姿を見ていた ユウコさん、あっしも生まれてきた理由を見つけるっす…


