母が泣いている。母の実家の帰り道、父が運転する車の助手席で。母の実家に何泊かした夏休み。8月中旬頃だった。

 真っ暗な道に時々橋の街灯が切なく光り、車がすれ違うたびにザー、ザーと独特な音がする。母はその頃まだ二十代。きっと車が見えなくなるまで見送ってくれた祖母の事やもっと甘えていたかった気持ちなど、溢れ出してポロポロと涙が止まらないのだろう。

 私はまだ子供で、そんな母の心を感じ取りながらも何も出来ず、静かに車に乗っている事しかできない。

 そんな母を少しでも元気づけようとしたのか、父は帰り道に繁華街にあった小さな露店に寄り、温かい焼きおにぎりをお土産に買ってくれた。

 まだコンビニなどない昭和の時代。握りしめたおにぎりは温かく、ほんのりと醤油の香りと具材のシャケの匂いがした。母は涙を流しながら少しずつ食べ、また笑顔に戻るのだった。