小説

 

私は小さな息子と二人で暮らしている、シングルマザーだ。
実家は徒歩3分の場所にあるが、意地を張り独立してがんばっている。
実家も私の家も、いわゆる都内の一等区、千〇〇区だ。
キャリアウーマンでもない高給取りでもないシングルマザーが住めるの?と問われそうだが、それは家によるのだ。
築50年の5階建ての小さなオンボロビルの5階が我が家だ。最上階。
ワンフロア60平米ほど。仕切りはない1Kかな、子供と2人なら充分な広さだ。が不便は色々とある、雨漏りもする。
昔は、1~4階には会社や士業などが入っており、家主が5階に住んでいたようだ。なので、物理的に5階だけは生活できる環境になっている。
築50年経った今、下階の入居者はだいぶ変わったようだ。

1階
強引に店舗設計にしたようなインチキくさい自転車屋さん。というより修理がメイン?
これ全部部品かな?と思えるような自転車のような色んなモノが店先に置かれている、オープンな感じ。ビルと同じくらいの色のおじいさんが、暇そうに店先の椅子に座ってる。
いつも居るから「こんにちは~」と言って、わきの階段を登る。
当然だがエレベーターは、ない。

次は2階
ここは、ドアが2つ、それぞれ会社名が貼ってある。が、人が居る気配は全くない。中をのぞけないが、たぶん無人だと思う。住所だけ置いているのかな、いろんな都合でこういう住所を利用する人がいるみたい。

そして3階
ここは、あるご夫婦が借りているだけど、住んではいない。住んでいるのは、なんと「鳥」。
鳥が好きなのだけど家ではたくさん飼えなくて、広い場所で飼いたかったらしい。まめに餌をやりに来ている。放し飼いにしているのかは、怖くて聞けない。

そして4階
ここは、人が生活している。アメリカ人のロバートさんだ。とても気さくで優しい。
でも、事務所の造りなので、ほとんど生活感のない室内だ。
ベッドはなく、寝袋で寝ているらしい。
立派なベンチプレスだけはある。毎朝「ハッ!フッ!ハッ!」と筋トレの声が響いてくる。
キッチンもないので料理もせず。しかしなぜか風呂はある。が、彼はこの風呂は使わない。この風呂は私たち親子が使っている。(という不思議な関係)

そして5階 我が家だ
天井は蛍光灯のところと、線を引っ張ってきて電球のところがある。一箇所、雨が降ると水が落ちてくる。料理や洗濯はまあ普通にできる。風呂だが、なぜか5階にはなくて4階にある。ロバートさんはスポーツジムでお風呂に入ってくるので、私たちのお風呂になっている。沸かしすぎて沸騰寸前になったりすると「熱くなってるよ!」と呼びに来てくれる、親切だ。

そして6階?屋上だ
大家さん(亡き家主の息子)が、屋上に小さなプレハブ事務所的なものを置いていて、たまに事務作業をしに上がってくる。私は「5階以上は自分の家」の感覚なので、通路も我が家、屋上への階段には、衣装を掛けている。私の趣味の色んなプレイのオトナの色めく衣装がぶら下がっている中をかき分け、大家さんは屋上へいくのだった。

日常で会話をするご近所さんは、4階のロバートさんしかいない。
彼の仕事は会計士だったかな、なんでこんなビルに住んでいるのかはわからないけど、けっこう気に入っているみたい。でも、一度だけ仲良くなった女性を家に招待してたけど、それっきり。さすがに寝袋とベンチプレスだけの部屋じゃあね。
私たち親子にはいつもフレンドリーだ。仕事の他にも色んな活動をしていて、一度、千葉の田植え体験に親子で連れて行ってもらった。