雨降る町のBAR歳時記

雨降る町のBAR歳時記

どこかのバーのマスターブログ。しがない店をやっていてもの思うこといろいろ。2、3日ごとに更新。

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昔からマンガでもコントでも、酔っ払った人はたいてい「しゃっくり」をしているが、実際、しゃっくりが止まらなくなるお客さんはよく見かける。

 

本人が気にしていなければ放っておくが、止めたがっている場合は次の方法をすすめている。

 

 

コップの水を反対側から飲む。

 

いろいろ試した結果、僕の場合はこれが一番よく効く。

 

となりの見知らぬお客さんがえんえんとしゃっくりをくりかえしていたら、たしかに気になると思う。

 

でも水を普通に飲んだくらいでは止まらないことが多い。酒の席で息を止めろというのも酷な話だし、驚かせて止める方法は、関係ないお客さんまでびっくりさせてしまう。

 

で、結果的にこの方法に落ちついた。そもそも「コップの水を反対から・・・」と説明してもわからない人が多く、どうやって飲むんだ、あーだこーだと試行錯誤しているうちに止まってしまうことも多い。

 

でも泥酔している場合はこの方法はすすめない。水をこぼされたりしたら面倒だから。

 

しゃっくりの原因はいろいろある。刺激物をとって横隔膜がびっくりしてけいれんする、というのがよく聞く説明だ。

 

でも、医者をやっているお客さんからこんな話を聞いた。

 

人間の身体は、実は24時間死ぬまでしゃっくりをくりかえしているのだそうである。

 

ふだんは脳(呼吸中枢)の働きによってそのしゃっくりは表には出てこない。ところがアルコールが入って脳がマヒすると、それまで自動的に止められていたしゃっくりを抑える力が弱くなるのだという。だから酔っ払いはしゃっくりをする。

 

こんな説明は初めて聞いたが、けっこう偉い先生の言うことなのでそれなりに根拠はあるのだろう。

 

だから泥酔者のしゃっくりは甘く見ないほうがいい、という話だ。呼吸中枢のマヒによって起こっているのなら、しゃっくりの次に起こるのは最悪の場合、呼吸抑制だからだ。

 

この話を聞いてから、しゃっくりはお客さんがどの程度酔っているか(もっと飲ませていいか・止めるべきか)を判断する目安のひとつにしている。

 

飲食店の厨房電気機器のトップメーカーといえば、知る人ぞ知るホシザキ。

 

https://www.hoshizaki.co.jp/

 

うちの店ではビールサーバーがホシザキである。と言っても、自分で買ったわけではなく、酒屋さんからリースしてもらっている。ホシザキのメンテの人とは年1回会う。

 

小規模なバーなら使う機器も少ないが、居酒屋ならホシザキの冷蔵庫を置いているところも多い。

 

一番よく見かけるのは、寿司屋さんなんかに置いてある冷蔵ネタケース。お客さんから見えるようにネタを並べているあのガラス張りの機械。あれもホシザキ率が高い。ペンギンのロゴマークが入っているからわかる。

 

 

他は大手なら日立やパナソニック製の業務用機器もよく見かける。これは飲食店というよりも、コンビニやスーパーで見ることが多い。冷蔵ショーケースとか。

 

かつては三洋電機製も多かったが、いまはパナソニックに吸収されている。でも今でもたまに三洋のロゴが入った機器を見かけることもある。

 

<参考>

酒に合う氷のカタチ

 

お客さんから時々身の上話やディープな話を聞かされることは何度か書いたが、たまに、

 

これはさすがにちょっと・・・

 

という、内心ギョッとするような話に遭遇することがある。

 

つまり、過ぎ去った過去の話ならともかく、深刻な事態が現在進行形である。一刻もはやく精神的または物的なサポートを受けたほうがいい、聞いていてそう思わせる話だ。酒の力を借りてそういう話がポロッと出てくる。本人はけっこう軽い感じで話し始めるが、実はかなり追い詰められているような雰囲気がただよっている。

 

たまたま他のお客さんにその道の専門家がいて、横からなんらかのアドバイスをくれることもある。でもそれは幸運中の幸運で、たいていの場合、そういう深刻な話というのは他に誰もいないときに話し始める。

 

つまり、僕一人で話を聞き、なんらかの返答をしなければならない。僕は精神分析や心理学に興味はあるが、差し迫った現実的な問題となると、僕みたいな生半可な知識でアドバイスするのは無責任である。

だから僕は黙っている。話を聞くことに専念する。バーのマスターにできることといったらその程度のことだ。

一見のお客さんならそのまま忘れてしまうが、よく来るお客さんの場合はあとあと気になる。家に帰ってからネットで調べることもある。近隣の医療機関、カウンセラー、行政の相談窓口など。

 

そのお客さんが次に来たときに「こういうところに相談に行ったらいかがですか」と、その程度のアドバイスならできる。でも僕がネットで調べた程度のことならとうに知っているかもしれない。でも冷静に道を模索するよゆうがないくらいに切羽詰まっている可能性だってある。

 

でもそもそも、そのお客さんが次にいつ来るかもわからない。来ないあいだに事態はますます悪化しているかもしれない。

 

そう思っていたら、何事もなかったような平然とした顔でふらりとやってきたりして、僕は拍子抜けする。あの話はひょっとしたら酔っ払った勢いでかなり大げさになっただけかもしれず、でも実は見えないところでますます追い詰められているのかもしれない。考え出すと切りがない。

 

さんざん考えたあげく、結局のところこれは僕のヒロイズムというか、偽善にすぎないんじゃないかと思うこともある。何もできないことがわかり切っているのに、手を差し伸べるそぶりだけするのはやっぱり偽善なんだろう。

 

結果的に、お客さんのほうから再びその話を始めるまで僕は何もしないことが多い。

 

ただ、「見守ってますよ」という無言のメッセージだけは送り続けたいと思っている。見守ってますよ。届いているのかどうかわからないけれど。

 

<参考>

ディープすぎる話になったとき

消えゆく媒介者

バーのお客さんには、やたらと「人運」が強い人が多い。

 

つまり人に恵まれている。いよいよ「もうダメだ」という状況に陥ったとき、ふと誰かが助けてくれる。悪く言えば綱渡りなのだが、そういう人生を歩んでいる人が多い。

 

これはなぜかといろいろ考えてみたが、たぶん「飲み歩く習慣があるから人と巡り合うチャンスも多い」とも言えるし、「人運の強い人はそもそも飲み歩く習慣を持ちやすい」とも言える。

 

前者はまだわかりやすい。

 

「立ち飲み屋で隣にいた人がどこかの会社の社長で、そのまま就職することになった」

「バーで隣にいたおっさんと意気投合し、巡り巡ってそのおっさんの娘と結婚することになった」

 

こういう嘘みたいな本当の話はけっこう頻繁に聞く。ふだんから他人と会う習慣のある人は、自然と人運も強くなる。もちろん、いらんことに巻き込まれる可能性も増えるのだが。

 

後者についてだが、ひとりで飲み歩く習慣がある人は、今で言う「ぼっち」になることを恐れない。ひとりでもけっこう平気で知らない店に入る。

 

これはいわゆる社交性とかコミュニケーション能力とはぜんぜん種類の違う話だ。どちらかというとむしろ、自分や他人について無頓着なように見える。だからひとりでものんびり楽しく飲んでいる。こういう人は他人も警戒せずに近づいていきやすい。

 

結果的に、他人とつながりをつくりやすい。これもいい出会いばかりとは限らないのだが。

 

逆に、人脈をつくる気満々で、目をギラギラさせてやってくるお客さんもいる。店で出会った他のお客さんに誰彼なしに名刺をばらまいたりしている。これはこれでいいのだが、よっぽどうまくやらない限り、お客さんから(そして僕からも)煙たがられる。

 

あと、人運の強い人は熱しやすく冷めやすい。信頼する人にはとことんついていくが、ちょっとでも不信感を持ったらサッと離れる。だから次の出会いが訪れやすい。これもたぶん、実は自分や他人に対する無頓着さが関係している(自意識のガードが低いから悩みをひとりで抱え込んでいる時間が短く、あっさり行動に移す)。

 

もっとも、人運が強いのが必ずしもいいとは限らない。最初に書いたが、人運の強さと綱渡り人生は表裏一体みたいなところがあるから。

 

僕はというと、うちの店で知り合ったお客さん同士が意気投合してビジネスを始めるとかそういう話になったとき、

 

「どうして僕を仲間に入れてくれない!?」

 

そんな思いがふと頭をよぎることもあるが、こっちはあくまでも場を提供するのが仕事だからしかたがない。

 

あと、前にも書いたが、うちの店でカップルが誕生したという話はそんなに聞かない。実は誕生しているのが、みんなへんな「遠慮」をして僕に報告してくれないだけなのかもしれない。

 

<参考>

バーでカップルが誕生する話