あっくんが生まれた日
忘れもしない
チョコレートが大好きだった小さくて白い犬の話
いつも小説みたいな記録を書くねと言われていた
八百屋の一番よく見えるところにひとりじめスイカが売っている
夏が来たんですよ
夏が
散歩していると研ぎ澄まされる
年々わたしの意識ははっきりしていくように思う
幼い頃が茫漠としているのは
記憶が褪せかけているせいなのか
飛ばされてしまったのか
それとも
わたしはずっと昏睡状態だったんだろうか
コーマスケールにも測れないほどの些細な意識障害
喪失していくのは
些細で幸せなひとときたち
つらい時の記憶ばかりが
マラソン大会の風景
カレーの匂い
はっきりとしている
なんで給食ってどこも同じ匂いなんだろう
慢性病棟もそう
どこに行っても甘ったるく煮こまれた匂い
人間の動物臭さってこういう匂いなのかもしれない
愛してきたものたちのこと
そのいくつかは忘れてしまっている
大好きだった絵本のタイトルをわたしは
思い出せない