お姉さんはややイラつきを隠しきれずに少女に問うた。
『教えない。ごはんも食べさせてくれなかったくせに。わたしがいまこんなに泣いてるの、わからないの?ずっと痛い思いをしているのがわからないの?』
少女はここ半年間くらいずっと泣きじゃくっている。病院に連れて行ってとても大きな心の傷が見つかって、通院して処置を受けている。
『美味しいもの食べさせてあげたじゃない。』
お姉さんはかなりイラついている。思い通りにいかない少女を持て余しきって感情をコントロールするすべを失ったみたいに。
『でもお腹が空きすぎたずっと後のことだもん。我慢して我慢してすごくつらかったもん。悲しくて死にたくなっちゃったんだもん。
今日は絶対おふろに入らないからね!』
少女は駄々をこねた。
お腹が空いている時に食べ物をもらえなかったことが大きな原因らしい。
『あの人もこの人も嫌いだし気に入らない!もう仕事にもいかない!』
お姉さんは答えた。
『仕方ないでしょう、近くに食べ物なんてなかったじゃない。朝ごはんを食べないのがいけないのよ。
お仕事はやらなきゃいけないことだし、おふろは入らないと明日仕事に行く時恥ずかしいでしょう。働かないとアイスやご本も買えないのよ。』
『やだ!やだ!やだ!死んでやる!!!』
少女は自暴自棄になって暴れ出し、自殺企図行動までは起こさなかったが落ち着かずに家を出てみたりすぐ帰ってきたと思ったら家中のものを倒したり冷蔵庫中のものを漁ってばくばく食べたりした。
『そんなんしてると太ってしまうじゃない…』
お姉さんは完全に負けていた。弱々しく、しかし確実に痛いところをつくように少女にさとした。
『太るのやだ!お姉さんなんか嫌いだ!バカバカバーカ!死んじまえ!こないだ友達とバカみたいな話してたの聞いちゃったもんね!バカバカバーカ!そんなだから働けないんだよ!バカバカバーカ!』
少女はまた駄々をこねた。もうその言葉は無意味同然でただのいちゃもんだったが、この言葉もまた、お姉さんの心に深く傷をつけた。
『勝手にしろ!バカガキが!』
お姉さんはついに不貞腐れてしまった。少女は気持ち悪くなるまで食べ続けたし、おふろにも入らず、歯も磨かずにベッドに入ってゴロゴロしていた。もうお姉さんもどうすることもできなかった。少女が体を洗わず歯も磨かないということは、同じ体を持っているお姉さんもおふろに入れないし歯も磨けないということだった。立ちのぼる不快感を見ないふりをして、お姉さんは必死に耐えた。これもわたしの罪なのだ、と、間違った方向に自分を責めながら。
この少女にどうしてあげたらいいのか、わたしにはわからない、とお姉さんは泣いた。たくさん撫でたし、たくさん話を聞いてやった。お腹が空いたとわめけば、なるべく早くに食事を用意したし、おもちゃが欲しい、ご本が欲しい、とわめけば、なるべくそれを与えてきた。少女の面倒を見るのにかなりのお金を使った。お姉さんには子供がいなかったが、子供を育てているようないっぱいいっぱいの気持ちだった。
同じ体を持つ者としてここまで我儘な少女のことを認められず、許すこともできず、強いエネルギーでどんどん体を引きまわす少女にほとほと疲れ果てていた。
どうすれば少女に言うことを聞かせられるんだろう、どうすれば少女はわかってくれるんだろう、どうすれば、少女と仲良くなれるんだろう…。