圧倒されたいと思っていた。
びっくりするような楽しみと驚きと芸術に触れたかった。
我を圧倒するのは自然のみだと思って科学博物館に行った。
蝶が見たかったのだ。
八本脚の蝶が。
蝶を必死になって探した。
ミイラやたくさんの張り巡らされた鉱石、菌類、それらをたくさん見通して、地球館でようやく見つけた。
以前見た時と趣は変わっているように感じたけれど、たくさんの綺麗な色の蝶がそこに磔にされていた。
人形になりたいのは1番の希望だけれど、2番目には標本になりたいかもしれない。
ヒトとして飾られる標本ではなく、わたしというひとりの人間として飾られる標本になりたい。
そしてたくさんの人にわたしの脳内を搾り取って見てもらいたい。
人からの興味だけで十分だろうか?
他の動物にわたしの脳内なんか理解できるだろうか?
愛する小鳥だけはわたしの意図をわかってくれるだろうけれど、それは生きた目と目を交わし合った状態でないと意味がない。
マニアフェスタに誘われて何の気なしに行ってみた。
いまのわたしを圧倒したのは他者の脳内だった。
まだ自然に頼らなくても、ヒトの思いだけで満足できるほどの渇き具合だったんだろう。
ひとつのものを集中して愛し続けること、ひとつのものにこだわり続けること、その根幹は、自分の好きなものに誇りを持つということ。
わたしにはまだできないこと。
少しずつ練習していること。
それらを楽しんでいる人たちがいる。
ひとつの何かを徹底的に愛するひとをたくさん見て、いろんな好きをお裾分けしてもらった気になった。