症例報告 | ぴいなつの頭ん中

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殻付き。そにっくなーすが言葉を地獄にかけてやる

アルコール性暴力を振る系の年取った患者の家族で、忘れられない娘さんがおひとりいる。(娘さんといってもその患者の娘なんであって、わたしよりも年上である)そのひとは、とても美しくてゆったりとしていて感じのいい人なんだけど、わたしがなにかの用で娘さんの目の前でパッと手を高く上げたときに、すごい速さと勢いで身をかばう動作をした。怯えた目をきつく閉ざして、できるだけ小さくなろうとするかのように、私の手から我が身を庇っていた。その姿を見たとき、ものすごくかなしくなった。その人の父である患者は、かつて暴力を振るっていたが今はくたくたの可愛いご老人なのだ。暴力を振るっていた面影はなく、たまに怒りっぽい姿もふにゃっとしていてまったくこわくない。

けれど、その可愛いご老人が、このとても美しいむすめさんに長年かけてつけてきた傷は、とてつもなく深い。その反応速度が早ければ早いほど、傷の深さ、難治性をあらわしているようなきがして、悲しかった。

まったくの他人なのに、わたしはとてつもなく悲しかった。

何回も謝罪して、でもなんで謝っているのかをなんとなくはっきりと言葉にしたくなくて、言葉にすることで娘さんの傷を抉るような気がして、行動から想いや記憶を勝手に察知されることの気持ち悪さを感じさせてしまうのではないかと思って、わたしはただ、なにも言い訳したりはっきりと言葉で示すこともできず、曖昧な滑舌で謝り続けた。