白昼社から刊行された、(そにっくさんも寄稿している)文藝誌オートカクテル 耽美特集のレビュー企画です。気になったら買いなさい。
星に(なって)願いを…伊藤なむあひ
映画『ラブ・アクチュアリー』みたいなあたたかく願いが叶うちょっとした幸せのシーンと、ぞくっとするような突然の願望成就が織り混ざってどんどんイメージが膨らむ。もし自分が世の中のみんなの願いを叶えてあげる能力をもったとしたら、どういう風にできるだろう?あれは叶えてもいい願いなのかな?おしまいや死がないことをつい祈ってしまうこともあるけれど、おしまいや死によって生かされているようなもんなのだ。『誰かの幻想でも、嬉しい』は最強にパンチライン。
セカイで暮らすこどもたちのやりとりは青くてやさしくてほんわりした絵本の中の出来事のように見えるのに、物語が進行してくうちにどんどんやわらかくて青い水彩画が具体性を持って醜い現実が顔を出す。かれらが春を知らなかったのは春がそういう季節だからだ。変わっていったり、思い出したり、しなければならない季節だからだ。春を青で描こうとすると人間の成長過程のうち最も醜くて美しい形態となる。コトリはおそろしい。
シンデレラ、ー彼女について思う二、三のこと…赤木杏
自分とは物理的に異質なもののように思える父親。自分とは精神的に異質なもののように思える母親。時計がいちばん親みたいな存在であり、家庭という閉じられた社会のなかでシンデレラはぼんやりさせられていく。ふたりの姉の様相や行動の描写がものすごい。ディズニーの悪役キャラみたいに、映像がパッと浮かぶ。意地悪な姉を、みずからの美しさに気づいていないひとと思い、姉は美しいですと話すシンデレラにとって、人生を知らないシンデレラにとって、美しさとはなんなのだろう。