ドアが閉まる前、最後に聞いたのは知らない男のマジで?という声だった。マジでのマが最大限に強調されるあまり分解されたイントネーション。もあじで?と言ってるようにリスニングされても、結局私は25年間で脳内に培った文脈と経験で、マジで?って言ってるんだなぁと思う。笑い方で人を差別するのはいけないが私はその男のホッホッホヒーッヒッヒという笑い方がとても好きだった。綺麗な指。ホッホッホヒーッヒッヒ。新幹線はきらい。デブは必ずドア付近にいるとよく君は言っていたよね。唾や雨が顔に飛ぶたびに私はちょっとした幸せを覚えた。ホッホッホヒーッヒッヒ。真面目で仕事のできる君が発する唯一の異質。ホッホッホヒーッヒッヒ。思わず飛び出るみたいな笑いがとても好きだ。申し合わせたような5秒前以内に予定された笑いなんてなんの価値がある?鼻息じゃないかあんなもの。ホッホッホヒーッヒッヒにこそ価値があるのだ。愛があるのだ。笑顔があるのだ。