イメージ小説:いたおさんの場合 | ぴいなつの頭ん中

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殻付き。そにっくなーすが言葉を地獄にかけてやる

きょうは、ギャラリー新宿座で出会った革職人のいたおさん @ITAONJ のイメージノベルを投稿します

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ねえ、いたおさん
『ん』
いたおさん、なんであたしに、こんなかっこ、させるの
『知りたい?』
うん
『それはね、君のことがだいすきだからだ。とてもとても、愛しいからだよ。』
ねえ、いたおさん
『うん』
わたしと同じ店にいたともだちは、みたわね。
あのこたちは、女の子に買われて行ったみたいなの。
おてても、あたまも、まだまだ軽くて、生まれてほんの少ししか経ってない、やわらかいピンク色の女の子たち。細くて弱い髪の毛をママに結ってもらって、持ちうる限りの精一杯のかわいいおめかしをして、あの店に来た女の子たち。
『そうだね』
あたしはなんで、いたおさんに選ばれたのかしら
『それは、君が世界で一番かわいらしいからだよ。君の奥深い可愛らしさは、僕のような人間にしかわからない。何年も生きてきた人間にしかね。僕は君のからだのぜんぶがすきだ。こまかくついた傷もすきだ。だから、僕が作ったおめかしを着せてあげるのだ』


いたおさんの手つきはやわらかくなまめかしく、赤や黒、茶色の革にニベアを塗りたくってゆく。革の表面にむらなく丁寧に塗りたくったあと、手についた残りのニベアにほんの少し蜂蜜を足して、あたしの全身にねっとりと塗りたくる。

『革は僕らの皮膚と同じで生きてるから、ニベアが効くんだよ』

あたしは、いつもニベアを塗られる時身悶えしてしまう。あたしの短い腕や肩を、ただ触られるだけならそんなに気にならないのに。ニベアを塗るときのいたおさんの手触りはとても柔らかく、でも男っぽく、全身が快感で総毛立つ。

全身に塗るのが終わるとあたしは少しだけ、がっかりする。きょうも、一番気持ちのいい時間が終わってしまった。そんな風に思う。

今度は、ごつごつした手からは想像も出来ないくらい繊細な手つきで、あたしに合ったサイズのおめかしを型取る。
『あててごらん』
ん。ぴったり。真っ赤に塗られた革のアイマスクをつけられる。

つぎは貞操帯。あたしはそういう仕事をしているんだし、他人に体を見せるのは慣れているはずなのに、あたしのたいせつなところを、フィッティングのためにあらわにすることはいつもとてもどきどきする。
貞操帯ははめるとすこしきつくて、姿勢がぴんとする。これをつけるということは、いたおさんに忠誠を誓うということだ。

『僕以外のひとに、ここを見せてはいけないよ』

いたおさんはそう言ってあたしのからだをつつく。あたしはまた総毛立つ。どきどきがとまらない。

いたおさん以外の人にあたしはあたしのからだを見せてはいけない。けれど、いたおさんのほうは、たくさんの女の子の裸をみている。フィッティングのためと、愛のため。
ずるいなぁ、とは思わないでもないけど、あたしはいたおさんの作るおめかしが好きだし、いたおさんはじゅうぶんにあたしを愛してくれるから、別に不満を持ったことはない。


いたおさんの恋人はなんにんもいる。いろんな形をしている。あたしと同じ形をしているのもいれば、足のたくさん生えた真っ赤なのもいる。最初は気持ち悪いと思ってたけど、いたおさんがそれを愛撫するところをみて、そうでもなくなった。
いたおさんの恋人はガラスケースに入れられて、数字の書かれた紙を貼り付けられる。これはいたおさんの恋人になった者が全員通る道。
もちろん、あたしも、紙を貼り付けられている。

あたしも、あたし以外の恋人たちも、おめかしが完璧に済んだら、知らない人にもらわれてゆく運命なの。
あたしたちは、そのうち、からだに貼ってある紙とおなじ紙を持った誰かにもらわれてゆく。
それまでのあいだ、あたしは毎日いたおさんの愛撫を生きがいにして日々を過ごす。


あたしはキューピー人形。
いたおさんの手作りのおめかしを身につけた人形。
ギャラリーに置いてけぼりにされて、
毎日のニベアを待っている。
毎日のあのごつごつの手のひらを待っている。