普段服とサッカーしか興味ないよーなやつが、なんかおしゃれ映画を観たそうにこちらをみていた。珍しいなって嬉しくなるのを恥じらいが隠して、この生意気野郎が、と言いながら一緒にみる映画を決めた。おしゃれでもなんでもないけどとりあえず面白いだろうということで私が激推ししたフィルスをみにいくことにした。
チケットを買って直前、たまたまよった古着屋で見かけた服を買うために予告の途中からそいつは入ってきた。映画鑑賞直前まで服野郎だ。うしろのほうにすわりたいよー、といやがるのをむりやり前から4番めの列に詰め込んで、本編はそれぞれ夢中になって観ていた。
わたしは主人公のクズなのに魅力的な様子に心を酔わしていた。一方そいつは、自分のフィルスだった頃を思い出していた。
観たあとにぽつりと、君と観れて良かった、と、結末まで類似していたそいつ自身の過去を振り返って言ってくれた。
やつがフィルスだった頃のことはほとんど最近思い出すことはなかったため、ああ、そういえばそんなこともあったねえ、とわらった。
そいつがいまこうやって生きて笑顔を見せるのは、お金を稼いで疲れて帰ってご飯を作って糞して寝ることができるのは、あのときの私のせいだと、そいつは思っている。
ただ、私は、フィルスなのに魅力的なそいつの魅力にがまんがならなかっただけだった。好きで好きでたまらなかったのだ。もともと、単にダメなやつとは違った、救いようのないフィルスに惹かれるたちなのかもしれない。そいつを救おうなんてこれっぽっちも思っちゃいなかった。ただ好きだから欲しかったのだ。
それがこういう形で、とてもやさしい言葉や態度でかえってくると、また私はがまんがならなくなる。好きでたまらなくなる。同時に、じぶんの言葉や態度でこんなにも人を変える可能性があるんだな、とおそろしくもある。
もちろん、そいつを救ったのはそいつ自身だから、私の言葉や態度なんて単なるキーに過ぎない。だけど、パラレルワールドなんか見なくてもこれは分かる。私がそいつに好きだと言わなかったら、抱きしめなかったら、そいつはいまここにいなかった。
現実に感謝している。
人として親しくなって慣れれば慣れるほど乱暴にはなるけど傷つけたいわけではない。反応をみて興奮したいだけなのだ。笑った顔も見たいしありがとうも聞きたいが、悲しそうな顔もおなじくらい見たしごめんねもおなじくらい言いたいんだと思う。
ブルースを救うのはだれか。
次はおまえの番だ。