あいつが飼ってた昆虫たちに
私は絶対ふれなかった
餌をやること頼まれても
それ以上の関わりは避けた
苦しそうに ときに幸せそうにも見える
小さなかごで這い回ってるの どんな気分？
横目で見るだけ 怖いし さわれないし
かかわりたくなかった
だけど
あいつの飼ってた昆虫は必ず
世を去る前に私に手を振った
むしろ彼らを嫌ってた 私に
手を振ってから 旅立った
夜明け前 月がさす 出窓の下
ガラス越しに 森が見えて せつなくなる
虫を前に あいつは細やかだった
夢中で手入れして
かごのなかでも みじめじゃないように
つらいおもいを 極力しないように
それが虫にどれだけ伝わるの？
そうだ
あいつの愛はいつも 独りよがりで
穴ぼこだらけで そして まっすぐだ