最近、物理の論文で、emergentまたはemergenceという単語をよく見かける。英和辞書でemergeを調べると出現するという意味だが、物理では創発という日本語表現が使われる。

そこで私も、まず自分流の時空の創発モデルをつくって、その上でダークマターとダークエネルギーと呼ばれるダーク宇宙について考えたい。

私が2021年3月1日に書いた記事で"物理的空想としての宇宙創成"というのがあり、
https://ameblo.jp/navafa/entry-12659713364.html
その中の渦流次元空間とか時空素という手法は気に入っていた。

この記事は無の領域からの宇宙創成という発想から生まれたものだが、今回は別の視点、情報や量子もつれやホログラフィー原理等の視点から時空の創発を考えてみよう。つまり渦流次元空間と時空素モデルの一種のバージョンアップ版。

今回の時空の創発モデルでは重力はエントロピック重力を想定しており超弦理論やループ量子重力理論は採用しない。つまり重力の量子化が不要なモデル。

2021年3月の記事は、無の領域から宇宙にとって唯一の渦流次元空間が生まれて、そこには物理定数や物理法則が定義されている。そしてそれが無数の時空素という微小な構成子に反映されて宇宙が誕生するというものだった。

渦流次元空間内の物理定数や物理法則の定義は、その記事で忍者の分身の術というたとえで各時空素に反映されると書いたが、今回はもっとマトモな表現を発見した。それが"一即一切"。

以前の記事で参考本として取り上げたジェイムズの多元的宇宙論の最後に華厳経の思想に含まれる"一即一切"が取り上げられていた。仏教に精通していた宮沢賢治もこの思想に影響され未発表原稿の中に"一即一切"を反映した「インドラの網」という短編があるという。

物理定数や物理法則が定義された宇宙で唯一の渦流次元空間が時空を構成する無数の時空素に投影されているという意味で"一即一切"。

私の時空の創発モデルでは無の領域から生成され物理定数や物理法則が定義された唯一の渦流次元空間を、概念はそのままに宇宙の性質を定義した宇宙クラスという名前で呼ぶことにする。そして無数の時空素を2次元ホログラフィー面という名称で呼ぶ。何故ならその機能が少し異なるから。

この宇宙クラスと2次元ホログラフィー面の説明をしよう。

宇宙クラスの機能については2次元ホログラフィー面がそのインスタンスになるという点を除いて変化はない。つまり渦流次元空間の情報処理的な側面を強調したのが宇宙クラス。人によっては宇宙クラスの上位クラスに数学クラスとか神クラスという新たなクラスを導入したいと考える場合もあろうが、それは各個人の勝手で、今回の記事では宇宙クラスだけあれば十分。

2次元面は時空素とはかなり異なる。宇宙に無数に存在する点は同じだが、時空素は4次元の広がりを持つ時空の構成子で、2次元面はCFT場と同じく共形計量の平面、2次元面上では形は保たれるが距離は定義されない。

場の量子論のファインマン図の計算では、光子や電子やクォークを表す線が複雑に分岐したり結合したりするが、線の長さ自体には意味がない。あくまで結合する形によって計算が違ってくる。だから形は保つが距離がない2次元面はファインマン図を描くには最適であり、素粒子の波動関数は2次元面上にのみ存在すると考える。

次に2次元面に素粒子の対称性やスピンを実装する方法を示そう。

2次元ホログラフィー面を底空間とするファイバー束を考える。底空間からファイバー束という繊維を生やして、その先に素粒子の対称性空間の花を咲かせる。電子は電磁力のU(1)と弱い相互作用のSU(2)の2つ、ニュートリノはSU(2)だけ、クォークはU(1)とSU(2)と強い相互作用のSU(3)の3つ。余剰次元は4次元時空の拡張として空間次元を追加しコンパクト化するので中にエネルギーが溜まるが、ファイバー束の対称性空間や繊維は実体ではなく情報に過ぎないので、4次元時空からエネルギーが流入することはない。勿論、KK粒子も不要。

素粒子のスピンを表現するには、底空間の2次元ホログラフィー面と同じ2次元面であるノートの切れ端のような帯(strap)を用意する。帯の表の一か所に突起をつけた後に帯の端と端を情報上の意味で接着して輪を作る。輪の表面をたどって1回転すると突起が1回見つかるのでこれはスピン1を意味する。突起を2つ作ると1回転するごとに突起が2回見つかるのでスピン2。新たな帯を用意して表に突起が1つついた帯の一方の端の上下を逆にして接着するとメビウスの帯が出来る。メビウスの帯には表裏の区別がないので表からたどって裏にまわり合計2回転すると突起が1回見つかるのでスピン1/2となる。

メビウスの帯で突起の個数を1,2,3,4,…とするとスピンは1/2,1,3/2,2,…となって全てのパターンが表現可能。2次元ホログラフィー面に上手く細工を施すとスピンが表現できる。

なお帯の表面をたどることと帯を回転させることが同等であるのは言うまでもない。

対称性が繊維の先に咲いた花だとすると回転する帯は花の種。対称性空間は素粒子に応じてU(1),SU(2),SU(3)を組み合わせた花で、花の内部にはメビウスの帯を通す軸とセンサー機能を持つ複数の様々な棘があり、花の種に該当するメビウスの帯の回転によって素粒子のスピンと対称性が実現される。

なおCPT、パリティ、排他原理、ゲージ不変性等の性質は宇宙クラスのメソッドである手続き処理の内容を反映したものであろう。

メビウスの帯は粒子の概念で対称性空間内で回転するが振動はしない。繊維や花や帯は実体ではなく情報に過ぎないが、一定のエネルギーを持ちそれらのエネルギーは通常の物質とダークマターの部類に含まれる。


弦理論には、対称性の表現に必要な複数のブレーンを用意してその間に無数の弦を張り巡らすブレーン宇宙模型があるが、素粒子に該当する弦の振動は重力子の交換ともなり、短時間でブレーン同志が衝突して宇宙が消滅する可能性さえ出てくる。

対称性を表現する別の手段であるコンパクト化された余剰次元の中では、弦がどう振動するか何もわかっていない。カラビ-ヤウ(Calabi-Yau)コンパクト化のパターンは多数ありその結果生じる対称性の数は多すぎる。自発的なコンパクト化は謎のままだ。スピンは弦上に存在するとされるが具体性に欠ける。つまり弦理論は曖昧で未完成とも言える。

オッカムの剃刀の観点から言っても、弦理論は無用に複雑すぎる。


2次元面で距離が定義されていないということは、素粒子レベルのサイズにも宇宙全体のサイズにもなり得ることを意味し、それが波動関数の瞬時の収縮を可能として量子力学の非局所性をもたらす。

非局所性に触れたついでに量子力学の非実在性と非決定性にも触れておこう。

Qビズムと多世界解釈の記事で説明したように、私は全ての存在は情報であり意識や経験は情報処理であると考えている。だから般若心経の"色即是空"と同じ意味で、全ての物理的存在は本質的な意味で実在性を持たないというのが私の持論だ。西洋的な神を背景とし神の被創造物としての確固たる実在論も理解できるが、E=mc^2のエネルギーと質量が等価という例もあり、個人的には確固たる実在論の方が不自然な感じがする。だから私から見れば、量子力学の非実在性は必然で、問題にする方がどうかしている。

次に非決定性については、波動関数が収縮する前にはその波動関数で実現可能な数値はまだ確定せず、その実在性もない。波動関数が収縮して初めてランダムにどれかの数値が選ばれて観測され実体としての情報の集合に加わる。この時点で初めて他の情報に影響を与え、全体としての実在性に寄与する。その点では弱測定の弱値も同じで、その意味で量子力学の非決定性は明白だ。この非決定性は、例えば等速直線運動のような明確な予測が出来ないという点で、古典力学の決定性に慣れ親しんだ人々には不自然に感じられるのだろう。ただ私のような一般人に言わせると、一寸先は闇や明日は明日の風が吹くと言うように、非決定論は自然な発想であり、それが当たり前。


宇宙クラスのインスタンスである2次元ホログラフィー面を用意できたとして、次はその2次元面をつなげる必要があるが、以下の論文にその方法が載っている。

hep-th/1005.3035 Building up spacetime with quantum entanglement
    Mark Van Raamsdonk

つまり量子もつれで無数の2次元面をつなぐ。2次元面の対生成や分裂や対消滅により量子もつれが発生。対消滅はベル測定と同じ効果を持つ。素粒子の量子もつれのミクロワームホールとは異なり、上記のメビウスの帯と同じ情報上の意味で結合される。それらを一つにまとめた後はホログラフィー原理により2次元平面から3次元空間=4次元時空が生まれる。

ただ2次元面は共形計量で距離が定義されてないから量子もつれで一つにまとまった4次元時空にも距離が定義されていない。だから距離を定義する必要がある。

そこで量子テレポーテーションを利用。

ヴィクターが送信したい複数の光子から成る信号を持っていて、アリスとボブの所に量子もつれの光子が送られる。アリスはヴィクターからもらった光子と受信した量子もつれ状態の光子をベル測定する。そして量子テレポーテーションにより瞬時にヴィクターの光子がボブに転送される。

この量子テレポーテーションではヴィクターの光子から成る信号の転送速度はどの程度になるかわかるだろうか?

アリスからボブまでは瞬時に到達するので転送速度は無限大と思うかもしれないが、実際の転送速度はアリスとボブに送られる量子もつれ状態の光子の速度という上限がある。つまり4次元時空での情報の転送速度は光速を超えない。全ての慣性系で光の速さが一定であることが特殊相対論の根本でありそれが平坦なミンコフスキー計量を決定する。一般相対論の加速度系ではもっと複雑な計量になるが光速自体は不変。

同様に光による情報通信が距離を定義して最終的な4次元時空である宇宙の計量を決定すると考える。つまり情報の交換こそが距離を決める鍵なのである。

これで私の時空の創発モデルが完成した。


以前の記事で触れた超弦理論の行列模型を応用した0ブレーンと1ブレーンとホログラフィー原理で構成された宇宙モデルとの比較で言うと、時空の創発モデルで使用した2次元ホログラフィー面が多数の0ブレーンの集合で構成されると考えれば類似したモデルとなるが、伸縮自在な共形場の性質を表現しづらい。また1ブレーンの集合と考えるとその点は対応可能だろうが、エネルギー過多になる。0ブレーンや1ブレーンでは実体があり過ぎるのだ。

2次元ホログラフィー面は情報が結合しただけの仮想平面で実体ではなく、概念的に一番近いのは事象の地平面となる。

この時空の創発モデルでは弦も超対称性も余剰次元も基本的相互作用としての重力も最初から除外しているから、全く別の時空モデルと考えた方がいい。


次にダーク宇宙つまりダークマターとダークエネルギーの話題に移ろう。

まずダークマターを取り上げよう。ダークマターとは重力源となる未知の存在だ。

ダークマターは目に見えないつまり電磁力に反応しないとされる。ただ世界各地の何十年にも渡る実験や観測でも電磁力を持たず重く安定している素粒子は発見されていない。だからダークマターの素粒子説を私は採用しない。

多くの仮説がダークマターを一つの原因で説明しようとするが、私はダークマターには少なくとも二つの異なる現象が存在し、原因も二つありその二つは全く異なると考える。

ダークマター現象の一つが銀河面を公転する恒星群の速度が理論値より速いという現象だが、この現象は前回取り上げた日経サイエンスの修正重力理論の記事にある、公転する恒星群には超流動(superfluid)のような状況が発生して加速されているとする説が正しいと思う。

そしてこの超流動現象は、エントロピック重力でも発生するという。ダークマター現象の一つである恒星群の超流動は重力がエントロピー力である証拠にもなる。

ダークマター現象のもう一つが重力レンズ効果。光を発しない未知の重力源により星の光が曲げられて凸レンズを通したように見える現象だ。この重力レンズの原因は周囲の星や星間ガス等を全て吸収し尽くし光を発する降着円盤さえ持たないブラックホールであろう。

このブラックホールの発生由来は原始ブラックホール(primordial black hole)にあると考える。以下がその記事。

日経サイエンス2018年5月号 特集:暗黒問題の正体 宇宙に潜む原始ブラックホール

宇宙背景放射に、ビッグバン後の量子ゆらぎの影響による微小なエネルギーの疎密が発生して、それが宇宙の大規模構造を発生させる原因となったとされるが、その中でも特にエネルギーが密集した箇所から、星や銀河の形成を経ずに直接ブラックホールが誕生したとされる仮説だ。将来、宇宙背景放射の観測がより精密になったら、巨大な原始ブラックホールはその中の黒い点として検出されるかも。

原始ブラックホールが宇宙初期のクエーサーやγ線バースト等の高エネルギー放射現象を引き起こした原因だろう。

この原始ブラックホールは今では全ての銀河中心に位置する巨大ブラックホールや重力レンズの原因である銀河も降着円盤も持たないブラックホールとなっている。

ただ原始ブラックホールにも問題はあると思う。例えば直径が数cm程度のミニ原始ブラックホールが発生し、それらが今でも蒸発せずに生き残っている可能性がある。

ミニブラックホールは我々の太陽系に対して相応の速度で運動しているはずだから、拳銃から発射された弾丸以上の速さで地球や我々生物の体を貫通する。しかしミニブラックホールに当たって死んだという話は聞かないし、何億年も前から存在する岩石にミニブラックホールが通過した穴が開いていたという話も聞かない。

つまりミニ原始ブラックホールを自然に消滅させる方法が必要なのだが、ここでもエントロピック重力が活躍する。これらのミニ原始ブラックホールは、生成後に運よく相応の物質や素粒子を吸収でき発達したとしても、巨大ブラックホールに吸収されなければ、星がまばらな宇宙空間やボイド(void)と呼ばれる広大な真空領域に達した後、数億年から10億年程度の比較的短い時間で、内部のエントロピー(S)が一定になって∇S→0からF=T∇S→0つまり重力がゼロとなり自爆する。だから我々の太陽系が誕生した頃には危険なミニ原始ブラックホールは全て消滅している。


次にダークエネルギーを取り上げる。ダークエネルギーとは真空のエネルギーで、アインシュタイン方程式の宇宙項に該当するもの。

まず候補の一つは真空中の仮想粒子の生成消滅のエネルギー。どういう計算か私は知らないが、仮想粒子のエネルギーを合計すると膨大な値になるという話を聞いたことがある。私が思うに仮想粒子はそのエネルギーと存在時間の積がプランク定数の範囲内でしか発生を許されないので、真空のエネルギーへの寄与としての増加分(ΔE)はプランク定数h~を単位時間(Δt=1)で割った程度しかないだろう。プランク定数は微小な値なので仮想粒子のダークエネルギーへの寄与は無視できる。

次の候補は余剰次元のエネルギー。前回の記事でも書いたように余剰次元の実験的証拠であるKK粒子は観測されていない。つまり余剰次元が存在する根拠はない。

ただ現代の加速器でも観測できない程の非常に小さいサイズの余剰次元はあり得る。

余剰次元空間を磁束のようなフラックス(flux)でしばり無数のコンパクト化の形状を造れば、我々の宇宙のダークマターに該当するエネルギー値もあり得るという説がstring landscapeやswampland。なお人類のような知的生物が誕生する為にはその適切なエネルギー値が実現されるべきだとする人間原理が必要になる。

人間原理は結果から原因を導くような因果律に反する不適切な論理であり、大嫌いな原理だ。その意味で余剰次元のダークエネルギーへの寄与も無視する。


さてではダークエネルギーとは何かという問題に入るが、私の考えは全ての存在が情報であり意識や経験は情報処理だとする発想の延長線上にある。

その発想を全宇宙に適用して、ダークエネルギーとは宇宙に於ける情報処理の全てのエネルギーの合計である、と私は考える。

例えばパソコンを考えると、パソコン本体にその上のソフトウエア、パワー電源、廃熱等のエネルギーが想定できる。つまり情報を処理するにはそれら全てをエネルギー換算した存在が必要なのだ。宇宙に於いても、波動関数の発生と実現可能な値のランダムな選択と収縮時の廃棄、量子もつれの発生とデータの転送と消滅、さらにファインマン図の生成と素粒子の相互作用と終了後の廃棄、それらの全てを情報処理と捉えて、その実行機能と動作エネルギー及び廃棄エネルギー等の全てを合計した値がダークエネルギーに該当すると思うのだ。

宇宙の物理現象という情報処理を仮定すると、通常の物質とダークマターは宇宙の情報処理の出力結果の総計であり入力にもなり得る。つまり本来は情報処理機構の本体と入出力の総計とはほぼ同じ(nearly equal)エネルギー規模だと考えられる。

そう考えると現在の全宇宙の情報処理の入出力である通常の物資とダークマターの合計が全宇宙のエネルギーの約30%でダークエネルギーが残りの70%。つまり宇宙の情報処理の入出力の2倍強が情報処理メカニズム本体のエネルギー値という計算になり、少なくとも桁が同じで、宇宙の膨張を考慮すれば、妥当なダークエネルギーの値だと納得できるだろう。無論、人間原理は必要ない。宇宙はその基本的動作が確率に従うとはいえ、優れた情報処理機械なのである。
 

***2025/6/1 21:00 追記 開始***

宇宙の情報処理機構つまり無数の2次元ホログラフィー面は、当然ながら、基本的相互作用である電磁力も弱い相互作用も強い相互作用も持たない。真空のエネルギーのみにその痕跡が残る。

***2025/6/1 21:18 追記 終了***

 

つまり全ての存在が宇宙クラスの記述に従う非実在世界の情報に過ぎない。


次にダークマターとダークエネルギーが決まってことを受け、我々の宇宙の遠未来を私なりに予想してみよう。

ダークエネルギーが宇宙の情報処理系全体のエネルギー換算値に等しいのであれば、当然ながらダークエネルギーの値は固定されている。つまりこのまま膨張が続いて宇宙はビッグフリーズ(熱的死)を迎える。

宇宙の情報処理機能は2次元ホログラフィー面に実装されており、宇宙の膨張とともに2次元面も増加するので、一般的にはダークエネルギーが薄まることはないが、2次元面の増加率は宇宙の膨張につれ少しずつ減少していくと予想している。その理由は情報処理の必要性が減少するから。同様に宇宙の膨張によって通常の物質とエネルギーが希薄となり波動関数や量子もつれや素粒子の相互作用の発生数が減る。つまり宇宙の情報処理そのものが低調になりダークエネルギーは減少する。さらにビッグフリーズ後は新たな波動関数や量子もつれや素粒子の相互作用がゼロになり宇宙の情報処理活動が停止して、情報処理機械本体だけのエネルギーがダークエネルギーに寄与することになる。

宇宙には銀河団や超銀河団が密集していて重力が強く働く部分とボイドと呼ばれる重力がゼロの広大な部分があり、ビッグフリーズ後には、重力が強く働く部分では銀河団や超銀河団等の残滓による重力の引力とダークエネルギーの斥力がほぼ拮抗して膨張しないが、ボイドではダークエネルギーの斥力により膨張が続くと考えている。


なおエントロピック重力を想定すると、ビッグフリーズ後の状況が異なってくる。

周囲の星や星間ガスを全て飲み込み降着円盤も失った巨大ブラックホールは蒸発を待つことになるが、エントロピック重力では、巨大ブラックホールが完全に蒸発し終わる前に内部のエントロピーがほぼ一定になり、ミニ原始ブラックホールと同じ理由で、巨大ブラックホールは自爆する。

そしてその内部の素粒子とエネルギーが真空中に放出される。エネルギーは素粒子に変化するので、真空中の星や宇宙塵や星間ガス等の残滓に加え膨大な量の素粒子が増える結果となる。

これが積み重なりビッグフリーズの状態にあった真空中に物質と素粒子が少しずつ増加していって、銀河団や超銀河団等の残滓が多く残る領域では、残滓と巨大ブラックホールが自爆により放出した素粒子とエネルギー等との引力が局所的にダークエネルギーの斥力を上回る場合が発生するだろう。そしてその局所的な部分だけが収縮を始める。収縮時にはエントロピック重力の超流動に似た性質も有利に働く。収縮する部分には巨大ブラックホールも含まれるが、それらを含めて数多くの収縮部分が結合され、最終的には一つのビッグクランチが発生する。そして前回の記事で触れたようにビッグクランチからビッグバンに移行する。

前の世代の宇宙で素粒子とエネルギーと巨大ブラックホールだったものは、ビッグバン後に、物質と原始ブラックホールに変わるが、その爆発による膨張の為に希薄となってダークエネルギーより低いエネルギー値しか持たす、再び宇宙の加速膨張が始まる。

このようにエントロピック重力は、まさに我々の宇宙の救世主(savior)なのである。


なお局所的な収縮部分はあくまで宇宙の一部に過ぎない。宇宙の一部分であっても、宇宙の残滓と自爆せずに残った巨大ブラックホールと宇宙の膨張により蓄えられた重力のポテンシャルエネルギーによって、ビッグクランチからビッグバンへとつながり次の宇宙を創成するに十分なエネルギーが確保できるから。宇宙の膨張は宇宙情報処理系全体のエネルギーであるダークエネルギーがその主要な要因であって、宇宙は自身のエネルギーさえも上手に利用して、何も無駄にすることなく、新たな宇宙を創造するという実に効率のよいシステムになっている。

多くの人々が宇宙は保有する全ての物質とエネルギーをまるごと再利用して新たな世代に生まれ変わると信じているようだが、必ずしもそうではなく、その一部だけを利用して新世代の宇宙が生まれ、それらの世代交代が様々な場所と時間で発生する。そして発生した多数の宇宙が、より広大で多様なマルチバースを構築していく、と考える方が正しい。

電荷とウィーク荷とカラー荷は、それぞれ素粒子の対称性(U(1)とSU(2)とSU(3))の保存量であり、安定した物質を構成するには対称性が必須となるが、一般に対称性が高いほどその世界は狭く単純で、対称性が低いほどその世界は広大で多様になるのも明らか。ある程度の対称性は必要だとしても、宇宙は広大で多様な世界を実現する為に、宇宙の情報処理系の中の素粒子の対称性を少しずつ破っているのだろう。
 

***2025/6/1 21:00 追記 開始***

宇宙の世代交代が様々な場所と時間で発生するが、宇宙クラスは唯一無二の存在。素粒子の対称性も長い時間をかけてわずかに破れ変化するだけで、一つの破れに対する効果は無に等しい。しかしわずかな破れの蓄積が何世代にも渡ると効果を発揮する。

***2025/6/1 21:18 追記 終了***


現在の宇宙でまだ発見されていない超対称性と大統一対称性は、前世代のどれかの宇宙では存在していたが既に破れて失われたのかもしれない。また反粒子より粒子の方が多いのも対称性の破れの結果だろうし、最近発見されたμ粒子のフレーバー対称性(SU(2))の破れもその一つに違いない。