今日、5回目のワクチン接種(モデルナBA.4-5)に行った為、発行が遅れました。

さて今回は、ブログのネタ切れ対策として、最近の読書から物理に関連した話題を取り上げます。


一般的に物理は表現しにくいが、野球やサッカーの試合に譬えてみる。物理学にも物理学者がいて物理学会があるわけだが、学者を野球やサッカーの試合の出場選手とみて、試合が行われる野球場やフィールドを学会と考える。

野球やサッカーの試合なら観客席で見るなりテレビで観戦するなりして、その中で行われるプレーを見ることが出来る。しかし物理学の場合はどの学者がどんな研究をしているのか一般人は知らないし学会の動向もわからない。

野球やサッカーの試合では、観客は観客席やテレビの前で試合を見ながら応援したりヤジやブーイングを飛ばすこともできるが、物理の場合はそれも難しい。

本を読んだりテレビを見ることによって少しだけ垣間見るだけだ。

それは大学で物理学を専攻し今でも物理に興味を持つ私も同じで、本やテレビを通じて新たな発見をすることになる。

今回はそんな新たな発見から自分勝手に考えて、私の個人的な意見、つまり応援やヤジやブーイングを発してみようという趣向だ。

ただ私の以前の記事も同じだが、物理に関する話題は単なる知識の羅列や理論から想像される予想に限られてしまい、物理理論そのものを理解してもらうということが難しい。それは私の能力不足もあるのだが、何とか工夫して必要なら数式も使い、少しでも具体的な説明が出来るように試みるつもりだ。

以下、私が読んだ本や雑誌の記事や論文等を紹介しながら、話を進める。煩雑なので訳者は省略し、著者の敬称も略させてもらう。

今回は、量子力学の全般とその比較的最近の話題について説明しよう。

まず取り上げる最初の本は、

1. シルヴィアの量子力学       シルヴィア・アローヨ・カメホ 著  岩波書店

何とドイツの女子高生が書いたという量子力学の専門書。量子力学に関する概念が丁寧に解説されている。カバーは猫がのびをしている絵で、著者の写真も可愛い。量子力学ではシュレーディンガーの猫の話が有名だから、猫が出てくるのは自然だが、著者が猫好きなのかもしれない。

この本は現代的な話題の量子もつれについても触れている。特に私が驚いたのが、隠れた変数の理論やデコヒーレンス理論も取り上げていること。それまで私はこの2つの理論を全く知らなかった。まさにドイツの女子高生恐るべし。

ただこの本はあくまで概念を説明した本で、簡単な数式は出てくるが、量子力学を道具として使えるようにする目的には適していない。私が学生の頃は、量子力学の授業でシッフの量子力学やランダウ=リフシッツの理論物理学教程の中の量子力学、ディラックの量子力学等の本が推奨されていた。量子力学を使えるようにするには、これらの本を読んだ後に、問題集をこなす必要があるだろう。

私が大学の専攻に物理学を選んだのは、記憶力が悪いので高校生から見て記憶する知識量が少なそうな物理を選択したのは確かだが、物理に興味があったからでもあり、大学では物理学の講義を聞いて真面目に勉強するのは当然だった。勿論、物理や数学の才能はなかったので、大学の4年間で物理学者になる夢は諦めたが、興味や向学心を失った訳ではない。

さて、既にここまでで、物理に興味がないか知識がない人々には意味不明な言葉が、何個も出てきた。以下に列挙して私なりに説明してみよう。著作権の問題があるのでシルヴィアの量子力学の説明とは全く関係のない私の我流の説明だ。なお数式については、手持ちの様々な本や資料から最適と思われる数式を引用したが、出典は省略。

* 量子力学
* シュレーディンガーの猫
* 量子もつれ
* 隠れた変数の理論
* デコヒーレンス理論

まず量子力学の説明に入るが、量子力学は電子や光子のような微小な存在いわゆる素粒子を対象にする。素粒子は粒子という名前を含むので、微小な粒と思われがちだが、実はそれは間違った考えだ。では何かというと、私が思うに最も適切な表現は、電子や光子等の素粒子は波束である、というもの。

では波束とは何だろう、下にその図を書いてみる。

                        **      
               **      *  *      **  
           *  *  *    *    *    *  *  *
  -******-*-*-*--*----*----*----*--*-*-*-*****-> x
         *  * *  *    *    *    *  * *  *
             *    *  *      *  *    *
                   **        **

少々わかりずらいが'*'を結んだのが波束。見ればわかるように、波なのだが中心の振幅が一番大きくて、左右に行くほど振幅が小さくなっている波動のこと。

左右の振幅はゼロで表現してあるが、実はゼロではなく微小な振幅で無限に続いていると考える。また振幅自体も限定された大きさではなく、わずかな強度でもっと上下に無限に広がっていると考えると、量子力学的な現象が理解しやすい。

その意味では、自由に運動する波束は時空の中に無限に広がっているのだろう。

ただ波束は中心に最もエネルギーが集中しているので、実験の測定器に衝突した時には、波束の中心が粒子として記録されることになる。

さて1個の電子を考えると、その電子の位置や運動量を測定するには、最低でも光つまり光子を当てたり電場や磁場に通したりする必要がある。当然ながら電子の波束は、光子との衝突や電場や磁場の影響を受けて運動状態が変化する。その結果、位置の測定誤差⊿xと運動量の測定誤差⊿pが生じて、その大きさは、以下の不等式、

    ⊿x⊿p > h

で表現される。ここでhはハイゼンベルグ定数で、この不等式をハイゼンベルグの不確定性原理という。なお位置の測定誤差⊿xを少なくするには運動量の測定誤差⊿pを多くすればいい。またその逆も成り立つ。

ここで天下り的だが、電子や光子のような対象の運動を記述する量子力学の方程式を紹介しよう。一般に量子力学の専門書では、この方程式自体を説明しているが、長い文章と様々な絵が必要となるから。それに優れた作曲家はある状況を想定すると自然に旋律が降ってくるように、優れた物理学者はある物理的状況を検討するとその数式が自然に降ってくる。そこが私のような才能のない凡人との違いだ。

電子や光子の運動状態はその波動関数ψで表現されると考え、ψが満たす方程式は、

    Hψ= ih~∂ψ/∂t

となる。ここでHはハミルトニアン、ψはプサイ。

    H= -(h~)^2/2m(∂^2/∂x^2 + ∂^2/∂y^2 + ∂^2/∂z^2) + V(x,y,z)

iは-1の平方根で虚数単位、h~はハイゼンベルグ定数hを2πで割ったものh~=h/2π。mは質量。∂/∂tは時間での1階の偏微分、∂^2/∂x^2はx座標での2階の偏微分、その他∂^2/∂y^2と∂^2/∂z^2もそれぞれy座標とz座標での2階の偏微分を意味する。V(x,y,z)はポテンシャル。勿論、∂/∂tや∂^2/∂x^2は微分演算子だけ書いた形で、この微分演算子は波動関数ψに作用する。なお^2は2乗を意味する。

虚数単位は物理の専門書ではiと書くが、数学では直接-1の平方根である√-1で、電子工学ではiが電流を現すのでiの次のjを虚数単位に使っている。

量子力学を奇妙に感じる原因の一つは、虚数つまり複素数の世界と我々の実世界である実数の世界との違いにある、と思う。

ψはxとyとzとtの関数ψ(x,y,z,t)で、状態ベクトル形式では|ψ>と書く。

この方程式を、シュレーディンガー方程式という。

Hはエネルギーを意味しih~∂/∂tは時間変化を意味するから、シュレーディンガー方程式はエネルギーが時間により変化することを表している。

時間変化しない定常状態を表現するシュレーディンガー方程式は、

    Hψ= Eψ

と表現されて、Eはハミルトン演算子Hの固有値に該当する。

勿論、ハイゼンベルグもシュレーディンガーも人の名前だ。

意味不明と感じても気にしないこと。あくまで計算上の道具と考える方がいいし、使ううちに慣れてきて、少しずつ意味が理解できてくるはず。

慣れる意味も込めて、簡単なシュレーディンガー方程式を解いてみよう。

計算を簡単にする為、電子や光子ではなく何の特徴も性質も持たない質点が、x軸上を自由に運動する場合を考える。波束の中心の運動だけを対象にすると思ってもいい。ポテンシャルV(x,y,z)はゼロでx軸上の運動だからy軸とz軸に関する偏微分もゼロと置ける。

まずψをxとtの関数の積と考える。つまり変数を分離して、

    ψ= u(x)v(t)

u(x)は変数がxのみの関数、v(t)は変数がtのみの関数である。
ψ= u(x)v(t)を、Hψ= ih~∂ψ/∂t に代入すると、Hも展開して、

     -(h~)^2/2m(d^2/dx^2)u(x)v(t) = ih~du(x)v(t)/dt

変数分離したので、偏微分∂を普通の微分dに置きかえた。∂やdで表現される微分作用素は一般に右にある項目のu(x)v(t)に作用するが、上記は、

     v(t){-(h~)^2/2m(d^2/dx^2)u(x)} = u(x){ih~dv(t)/dt}

と書ける。さらにこの両辺をu(x)v(t)で割ると、

    {-(h~)^2/2m(d^2/dx^2)u(x)} / u(x) = {ih~dv(t)/dt} / v(t)

この方程式は左辺が変数xのみを含む式で右辺が変数tのみを含む式なので、それぞれを定数Eと置けて、

    {-(h~)^2/2m(d^2/dx^2)u(x)} / u(x) = {ih~dv(t)/dt} / v(t) = E

これから2つの微分方程式ができる、つまり、

    -(h~)^2/2m(d^2/dx^2)u(x) = Eu(x)
    ih~dv(t)/dt = Ev(t)

このうちu(x)に関する方程式は、時間変化しない定常状態を表現するシュレーディンガー方程式と同じ形で、Hψ= Eψはこの方法で導出できる。

次にu(x)に関する微分方程式を解こう。

    -(h~)^2/2m(d^2/dx^2)u = Eu

両辺を-(h~)^2/2mで割ると、

    (d^2/dx^2)u = - (2mE/(h~)^2)u

ここで、k^2 = (2mE/(h~)^2) と置くと、

    (d^2/dx^2)u= - (k^2)u

この微分方程式の解は自明で、その一般解は以下となる。

    u = Ae^(ikx) + Be^(-ikx)

AとBは定数で、eは指数関数でexpとも書く。この一般解を上記の微分方程式に代入すると、xで2回微分するので(ik)の2乗と(-ik)の2乗が出てきて、両方とも -(k^2)となって、この一般解が正しいことが確認できる。

次にv(x)に関する微分方程式を解こう。

    ih~dv(t)/dt = Ev(t)

から両辺をih~で割り、

    dv(t)/dt = -i(E/h~)v(t)

ω=(E/h~) つまり E=h~ω とおいて、    

    dv(t)/dt = -iωv(t)

この微分方程式は簡単に解けて、私の記憶では、高校の数学Ⅲでも出てきた解き方。その手順は両辺にdt/v(t)をかけた後に積分しv(t)=の形に変形する。

    dv(t)/v(t) = -iωdt → ∫dv(t)/v(t) = -iω∫dt → log(v(t)) = -iωt + C

これより、

    v(t) = De^(-iωt)

CとDは定数。結局、

    ψ = u(x)v(t) = {Ae^(ikx) + Be^(-ikx)}De^(-iωt)

計算結果は以下となる。

    ∴ψ = Ae^i(kx-ωt) + Be^i(-kx-ωt)

ここでADとBDを改めて、AとBに変えた。kを波数、ωを角振動数と呼ぶ、ただωは単に振動数と呼ぶ方が多い。e^iθ=cosθ+isinθだからe^iθは波を表す。

ψの第1項は+x方向へ進む波を表し、第2項は-x方向へ進む波を表している。

自由に運動する1つの質点をシュレーディンガー方程式にかけると、2つの波が発生したことになる。

シュレーディンガー方程式は線形の微分方程式で、一般に線型の方程式に複数の解が存在すれば、それぞれに定数係数をかけた和つまり一次結合がその一般解となる

これを物理学では、重ね合わせの原理と呼ぶ。

AとBの定数は微分方程式では初期値や境界値を特定すると決まるが、量子力学では波動関数の絶対値の2乗|ψ|^2(ψが複素数の関数なので絶対値はψとψの複素共役との積)を作成して、その積分値が1。

   ∫|ψ|^2 dx = 1

という条件が存在し、これを規格化という。この規格化からもAとBに制限がつく。
なお上記の場合は積分の範囲は-∞から+∞。

ただこの例での積分を行うと計算結果が発散するように見えるが、上手く∞の項とδ関数を生じる項の積に変形すると有限の値になり、1に規格化できる。δ関数は幅が狭く上に伸びた波束のような形で波動を粒子化する関数といえる。

規格化すると、+x方向へ進む確率と-x方向へ進む確率を足せば1、という意味が明確になる。

では次に何が進む方向を決めるのかという話になるが、それは実験で測定した時に初めて決まる。逆に言えば測定しない限り特定できない。

この辺の量子力学の解釈が難しく様々な議論が交わされ、現代でも決着していない。

これでやっと、量子力学に関する私の説明が終わった。

次はシュレーディンガーの猫の説明に入ろう。

まず上記で少し触れた量子力学の解釈問題を取り上げる。

ボーアを筆頭とするコペンハーゲン学派は、重ね合わせ状態にある波動関数つまり測定する前の状態は実現する可能性のある解が複数存在するだけで、実際にはどの解もまだ実現してなくて、波動関数が収縮して重ね合わせ状態が壊れた後に一つの解だけが選ばれて存在を始める、という解釈を提唱した。つまり重ね合わせ状態では可能性が存在するだけで、何も実在せず、波動関数が収縮した後に、一つの解が表現する実体が発生する、という意味。

これを量子力学のコペンハーゲン解釈または標準解釈と呼ぶ。

コペンハーゲン解釈によると、重ね合わせ状態では可能性だけしかないので、電子や光子の実在性に疑問が出る。さらに測定するまで値が決まらないので、決定性にも疑問が残る。

つまり量子力学及びコペンハーゲン解釈は、実在性と決定性を満たさない。

この解釈には、著名な物理学者から反論が出た。

アインシュタインは「月は見ていなくても存在するはずだ」と言ったという。

波動関数が従う方程式を創り出したシュレーディンガーは、次のような思考実験を提案して反論した。

放射性元素をいれた容器と放射性元素の崩壊を検出する測定器、測定器に繋がったハンマーを想定してハンマーの先に毒薬の瓶を設置、生きた猫と一緒に外から内部の様子がわからないブラックボックスに入れる。

放射性元素が崩壊すると測定器が検出してハンマーが毒薬の瓶を叩き瓶が割れて猫が死ぬのだが、すべてブラックボックスの中に入っているので、ブラックボックスを開けるまで猫が死んでいるか生きているかわからない。

つまりコペンハーゲン解釈では、死んでいる猫と生きている猫の重ね合わせ状態が存在するはずで、それは納得できない、という反論である。

これがシュレーディンガーの猫と呼ばれる有名な思考実験だ。

この状態を量子力学の状態ベクトルで表現すると以下になる。

    1/√2(|崩壊>|壊れた瓶>|死んだ猫>+|未崩壊>|壊れてない瓶>|生きている猫>)

崩壊、壊れた瓶、死んだ猫の各状態の積が一つの実現可能な状態を表すという意味。
係数の1/√2は規格化により付加されたもの。

|ψ>はケットベクトルといい、その複素共役かつ転置を<ψ|と書きブラベクトルという。合わせてブラケット。なお|0>は真空を意味する。Aを位置や運動量を測定する演算子とすると、Aは行列で表現されて、<0|A|0>が測定を実行した場合の期待値となる。勿論、真空を測定しても何も得られないので、<0|A|0>=0。

ブラベクトルは行ベクトルでケットベクトルは列ベクトル。同じ次元の行ベクトルと列ベクトルの積は、行ベクトルx列ベクトル=スカラー、列ベクトルx行ベクトル=テンソルとなる。一般にテンソルはベクトルの成分の直積といえる。

納得できる納得できないは、あくまで個人の判断で、現代でもこのコペンハーゲン解釈が標準解釈と呼ばれるように、量子力学の代表的な解釈になっている。

勿論、別の解釈も存在して、それに関しては、また別途、触れるつもり。

次に、比較的最近の話題である、量子もつれ(quantum entanglement)について説明しよう。

量子もつれに関する歴史について、述べるつもりはないし、その知識もない。ただその発端は説明すべきだと思う。

先程、量子力学の解釈問題でアインシュタインが反論した、ということを書いたが、アインシュタインはその解釈だけではなく、量子力学自体が不完全な理論だと確信していた。そしてその欠陥を指摘する為、様々な理論と思考実験を提案した。

その中にEPR理論がある。EPRはアインシュタイン(Albert Einstein)、ポドルスキー(Boris Podolsky)、ローゼン(Nathan Rosen)の頭文字を取ったもので、この理論が世に出たのは1935年。同年に発表されたER理論もあり、アインシュタイン-ローゼン橋(bridge)と呼ばれ、ワームホールを意味する。ER=EPR説もあるが別の機会に。

EPR理論のミソは、例えば電子が同じ位置で同時に2つ生成されて反対方向に運動し始めたと想定して、生成する前は何も存在しないから量子状態を表現する量子数はゼロのはずだ。だから生成された2つの電子は+と-の同値の量子数をそれぞれ持っている。しかしその量子数は実験で測定するまで決まらず存在さえしない。その際片方の電子を測定して量子数が+だったとしよう。すると測定していないもう一方の電子の量子数は-のはずだが、それはどうやってもう一方の電子に伝わるのか?

これがアインシュタインが「気味の悪い遠隔操作」と呼んだ現象だ。つまり片方の電子を測定してその波動関数を収縮させた時に、もう一方の電子にも収縮の事実とその値が瞬時に伝わるとしか考えるしかなく、これは局所性を無視した現象で明らかに量子力学は欠陥を含む理論であるとEPR理論は主張したのだ

この現象を量子もつれと呼ぶ、その命名者はシューレーディンガーだという。

1935年当時は、EPR理論を検証できるだけの技術が確立されておらず、その現象を実験で確認することが出来なかったが、後世の技術の進歩により実際に実験で確認することが出来るようになった。そしてその結果、EPR理論が予言した通りの現象が発生した。

再度確認すると、EPR理論は、量子もつれ現象は局所性を満たさないので現実には発生せずそんな存在しない現象を予言する量子力学自体に誤りがある、という主張だったのだが、そんなあり得ない現象が実在した、ということになる。

量子もつれ現象を検証する実験では電子だけでなく光子も使われる。なお以下の状態ベクトルの記述では煩雑なのでその係数は無視し、状態ベクトルの間の符号も+以外に-の場合(位相反転e^iπ=-1)もあるが、詳しい計算をする訳ではないので、+だけに限定。

光子の場合、使われる性質は偏光だ。偏光には水平偏光(θ=0)、垂直偏光(θ=π/2)、斜め偏光(0<θ<π/2等)とあるが、簡潔にする為、それぞれ|横>、|縦>、|斜>と記述。
光子1個では、

    |φ1> = |横1> + |縦1> + |斜1>

1は光子1の状態ベクトルを示す。量子もつれの光子の場合は、以下となる。

    |φ12> = |横1>|横2> + |縦1>|縦2> + |斜1>|斜2>

|横1>|横2>は|横1横2>や|横>1|横>2と書いてもいい、その他も同様。書法は本により異なる。勿論、1と2で光子を区別。

量子もつれの場合、光子の偏光は同じ種類同士に限られる。これは光子の反粒子が同じ性質の光子であることから納得できる。

量子もつれ状態の光子が同時に反対方向に放射されたとしよう。片方の光子を測定して偏光が|横>だったら、その瞬間にもう一方の光子の偏光も|横>に決まる。光子は光速で運動して光速以上に速い速度はない。特殊相対性理論の光円錐から見てもこの量子もつれ状態の2つの光子は本来影響を及ぼしえない空間的位置に存在する、それにも拘わらず、その波動関数の収縮は一瞬にして伝わるのだ。

つまり量子力学は、実在性と決定性だけでなく局所性も満たさないことになる。

電子の場合は、使われる性質はスピンだ。電子は大きさがゼロとされるが自転軸のまわりの回転がありスピンと呼ばれる。例えばz軸方向の自転軸に対して+か-か(右ネジの進む向きで上向きの自転か下向きの自転か)で、|+z>、|-z>と記述する。
電子1個では、

    |φ1> = |+z1> + |-z1>

量子もつれの電子は、以下となる。

    |φ12> = |+z1>|-z2> + |-z1>|+z2>

1と2で電子を区別。2個同時に生成される前のスピンの合計がゼロだから、生成後は+と-に分かれるのは当然。この2つの電子は両方とも普通の電子で電子の反粒子の陽電子ではない。

ここで量子もつれ状態の2個の電子ではなく、量子もつれを起こしていない電子2個はどう記述されるか見てみよう。電子2の状態ベクトルも

    |φ2> = |+z2> + |-z2>

だから、量子もつれを起こしてない2個の電子の状態ベクトルは以下となる

    |φ1>|φ2> = (|+z1> + |-z1>)(|+z2> + |-z2>)
               = |+z1>|-z2> + |-z1>|+z2> + |+z1>|+z2> + |-z1>|-z2>

量子もつれを起こしていない場合は、|+z1>|+z2> と |-z1>|-z2> の2つの項が余分に存在する。

上記は自由に運動する電子の場合で、原子内部に束縛されている電子の場合、例えば1s軌道には2個の電子が入るが、電子のスピンが半整数なのでスピン値が+1/2と-1/2の異なる組み合わせしか入れない。これをパウリの排他原理という。

光子のスピンは1で、その進行方向と同じ方向か逆の方向かで+1と-1に区別されるが、スピンが整数なのでパウリの排他原理の対象にはならない。

スピンが整数の素粒子をボソン、スピンが半整数の素粒子をフェルミオンという。光子はボソン、電子はフェルミオンに該当。スピンを含む電子の挙動はパウリ行列とディラック方程式で記述される。

なお結晶の格子振動により2個の電子がペアとなってスピン1のボソンのように振る舞うことがあって、これにより超伝導が実現する。この電子のペアをクーパー対という。

再度、量子もつれについて触れると、量子力学の数式と解釈から論理的にEPR理論が生まれたように、量子もつれは量子力学から得られる必然的な結果であり、それが実験で確認された以上、量子力学は正しいといえる。では何故、我々の宇宙では量子力学が成り立つのか、という疑問には誰も答えられない。

さて、この記事のサイズが、ブログの容量上限の20Kbytesに近づいてきた。

隠れた変数の理論やデコヒーレンス理論も説明するつもりだったし、シルヴィアの量子力学以外にも本を紹介したかった。それに説明だけで応援やヤジやブーイングを飛ばすことも出来なかった。

それらは、次回以降の宿題としよう。