今回は前々回の記事"地震と原発と温室効果ガス"の続きで、大量のメタンガスによる温暖化が実現した場合には世界はどうなるのかをテーマに人類存亡の危機を空想する、というものです。

題して、"メタン温暖化による仮想近未来"。

よく知られているように、産業革命以後、大気中の二酸化炭素濃度は急速に増加してきました。その増加率は過去のどの大規模な火山活動より高いと言われます。

社会経済の発展を維持しながら二酸化炭素を削減するというお題目を聞きますが、発展を維持しながらでは大気中の二酸化炭素濃度が減少に転じることは決してない、と私は思います。

そして大気中の二酸化炭素が増加する限り気温は上昇します。

温室効果というのは地表から赤外線の形で宇宙空間に放出される熱ネルギーが二酸化炭素等の温室効果ガスに吸収されて大気中に留まることによって気温が上昇することを指します。勿論、気温に影響するのは、二酸化炭素濃度の他にも太陽活動や地軸の傾き、火山灰等がありますが、それらが正常範囲なら二酸化炭素による温室効果が最も影響を与えると言えます。

そして温室効果によって蓄えられた熱エネルギーは、海の浅い部分から深海へと伝えられ最終的に海底まで到達します。そして海底の温度がある値を超えると海底に蓄えられたメタンハイドレートの気化が始まり大量のメタンが大気中に放出されることになるでしょう。

メタンは二酸化炭素の20倍の温室効果を発揮します。

ただ大気中に放出された大量のメタンは約10年ほどで酸化されて二酸化炭素に変化します。その為、世界各地の海底に蓄えられたメタンハイドレートが地域ごとに10年以上の間隔を置いて気化した場合には、メタンガスによる温室効果はそれほど深刻なものにはならないとも考えられます。

約2億5000万年前の生物の大量絶滅は大規模な火山活動に加えて海底の大量のメタンハイドレートの気化による温暖化が原因だったとする説がありますが、当時は超大陸が形成されており海流の流れも今より単純で広くて浅い海の海底に大量のメタンハイドレートが存在していたからとも考えられます。

それに比べて現在は超大陸が分裂している時期に当たり海底も起伏に富み海流の流れが複雑で、深層海流と呼ばれる海の冷却機能も備わっています。ただ深層海流は年々弱まっているとも言われますし、一部の海底のメタンハイドレートの気化がさらなる気温の上昇を引き起こして雪崩式に短期間で大半のメタンハイドレートが気化するという可能性も完全には否定出来ないでしょう。

勿論、メタンハイドレートの気化が始まるのは30年後か、50年後か、100年以上先か全く予想出来ませんが、ここでは約50年後に数年間で海底の大半のメタンハイドレートが気化したと仮定して、その仮想近未来を考えてみます。

大量のメタンガスの温室効果によって、地球の平均気温は約10~20℃上昇します。

気温の上昇は緯度の高い場所ほど上昇幅が大きくなり、北極と南極の氷は全て溶けるでしょう。また気温の上昇が海水の膨張を引き起こし、海抜の低い土地は全て海となります。また気温の上昇は飽和水蒸気量の上昇を引き起こします。これは単純にいって降水量が減少するという意味で、勿論、台風や集中豪雨はより激烈になり一時的に大量の雨を降らせますが、それ以外は雨の少ない乾燥した気候が続くようになります。その水不足によって農業は深刻な影響を受けます。海水の真水化も可能でしょうが、コストがかかる為、水と食糧が不足して高価なものとなり食糧輸出が可能な国は皆無となるでしょう。

そのメタン温暖化時代の様子を国ごとに予想しましょう。

まず日本ですが、ユーラシア大陸や北米大陸の日本と同じ緯度に相当する場所では砂漠が大半を占めているように、赤道付近から水蒸気を含む空気が上昇して上空で雨を降らした後、その乾燥した熱い空気が地表に降りてきます。その熱い空気が降りる場所が日本とほぼ同じ緯度なのです。つまり日本は砂漠になって当然の場所なのですが、赤道に沿って流れる暖流である黒潮が東南アジア諸島にせき止められて日本付近まで北上している為、その黒潮の影響で日本は降水量が多いのです。

その為、メタン温暖化時代でも日本はある程度の降水量は期待できると思われます。さらに高温と乾燥に強い稲の品種改良や養殖漁業により国内の飢餓はある程度まで緩和可能でしょう。

次に米国ですが、米国中部の穀倉地帯は灌漑用水として地下水を利用しています。その地下水は氷河時代の雪解け水が地下に蓄えられたもので限りがあり、メタン温暖化に至るまでの歳月と高温乾燥化によって灌漑用水の需要が増した結果、多くの場所で地下水が枯れるでしょう。その結果、穀倉地帯の小麦、トウモロコシ、大豆等の食糧生産量は激減して輸出どころか米国内の必要量を満たすことも難しくなると思われます。結果的に水と食糧は高騰し、低所得者の飢餓に対する不満が急激に高まるはずです。

ここで少々脱線します。ガンジーやキング牧師の例を出すまでもなくテロリズムが方法論として誤りであるのは明白ですが、米国流の効率重視の資本主義に疑問を感じる場合も多いと思います。日本企業でも本来の人重視の経営から米国流の効率重視の経営に切り替えた会社も多いと思いますが、それらが全て成功している訳ではないこともまた事実でしょう。

メタン温暖化の話に戻って、ロシアでもシベリアの高温乾燥化は顕著になりますが、広大なシベリアの一部では逆に降水量が増える場所もあるはずです。そこは農業が可能となり食糧の生産が望めます。結果的にロシアは日本と同様に飢餓が軽い国となるでしょう。

最後に中国ですが、高温と乾燥化により黄河は干上がり揚子江の水量も半減します。食糧生産は米国と同様に激減して、中国が膨大な人口を抱えることを考えると、低所得者層の飢餓は悲惨なものになると思われます。

結局、中国は生き残る為には海外侵攻しか方法がなくなります。そしてその侵攻先は飢餓が比較的軽くて核兵器を持たない日本になるはずです。

戦前の日本と同様に、中国は様々な理由をでっち上げて日本への侵攻を開始します。

これをみたロシアは漁夫の利を得ようと北海道に侵攻するでしょう。米国は中国やロシアとの戦争は極力避けたいのですが、民主主義を標榜する警察国家としてのメンツと低所得者層の飢餓への不満を逸らす為に参戦します。

この時代の戦闘は無人兵器やミサイルによるものが殆どで戦況は容易に拡大して、核兵器の使用が始まり全面核戦争に突入するでしょう。核兵器の戦場となった日本は消滅します。核兵器の惨禍を逃れるのは資源がなく戦略的価値もない国々だけで、大半の人々が核兵器の光と熱と放射能に晒されるでしょう。

なお大気中の二酸化炭素の増加の一因が、日本人が原発事故の放射能を嫌がって、国内の全ての原発を停止し火力発電に切り替えたこと、というのは皮肉な話ですね。

メタンハイドレートの気化が始まってから約20年後、世界にはもう国も国境もなく、わずかに生き残った人々は高温乾燥化が一部残る気候の中で水と食糧を求めて放浪生活を続けていると思われます。そしてこの頃になって初めて大気中の二酸化炭素濃度は減少を始めるのでしょう。

嫌気性バクテリアが有機物を分解する過程でつくるメタンは我々を含む好気性生物に対する嫌気性生物の復讐の産物だとする説がありますが、世界の終末の扉を開くにはSFやファンタジーに出てくるような新たな最終兵器や巨神兵は必要ありません。膨大な量の二酸化炭素とメタンと人口さえあれば容易に終末への扉は開くのです。

余談ですが、私の大好きな安部公房の小説の中に「御破算だー」と叫ぶ場面があったと思います。私の中にも御破算に魅力を感じる部分があって、それがこのような妄想を生み出したのかもしれませんね。