この前おしごとで
言葉を話し始めたばかりの子と一緒にいたら

ごはんを食べながら
「こりぇ」「こりぇ」と聞いてくるの




スプーンをゆびさして
フォークをゆびさして
ごはんをゆびさして

そのたびに
「これはスプーンだよ」
「フォークだねぇ」
「こっちはごはんだね」と答えていく




そのやりとりをしているうちに
昔留学していた時のことを思い出した




スプーンは「スキー」お皿は「ツリャークン」

10年以上経っても忘れてない





デンマークはデンマーク語
言葉はちっともわからない

でも同じ寮に住む
デンマーク人ハンディキャップのメンバー達が
食事の時に同じテーブルに座るたびに

「Natsuko、これはなんだ?」
「これはわかるか?」と
フォークやスプーンを指さして尋ねてくるの




最初は全然わからなくて

でも「わからない」ってことも
どう伝えていいかわからなくて

首を振ったり、首をかしげたり




そのうち彼らが指さしながら
「ガフン」「ガフン」って言ってるから

あぁ、フォークはガフンって言うんだって
なんとなく真似して
「ガフン」って言ってみたり

そうやって私はデンマーク語を覚えていったの




そのうち「これなんだ?」って
指さして聞かれたら
「ガフン」「クニュー」って
答えられるようになってきて

そうすると
「おおー!」って声をあげて
手をたたいて彼らが喜んでくれて

それが嬉しくって
「これはなんていうの?」って
私が指さして聞いてみたりして




そんな日々を送っているうちに
私はもっと彼らと
デンマーク語で話したくなって
現地の語学学校に通い始めたのでした




私は彼らが
とってもうれしそうなのがうれしくて
その姿がもっと見たくて
それでもっといろんな言葉を知りたくなって

そうやって言葉を覚えていったの




朝ごはんは「モーンメル」

コーヒーポットは「カフェカンヌ」

彼らが教えてくれた言葉は忘れてない




それってきっと
「こりぇ」って聞いてきたあの子もおなじ

みんながうれしそうなのがうれしくて
言葉で伝えると伝わるのがうれしくて

だからもっともっと知りたいの
「こりぇ」「こりぇ」って聞いてくるの




この子はあの頃の私とおなじ

ならば
この子のつたない言葉が出てくるたびに
かわいくってかわいくって
うれしいこの気持ちは

きっとあの頃の彼らとおんなじ気持ち




私のいちばんのデンマーク語の先生たち
みんな、元気かな