短編小説
タンしお部参加中
お題【家族】
※イベント参加の記事で、フィクションです
寒い冬が終わり、そろそろ桜の季節だというのに、
梨華はタメ息をつく日が多くなった。
郵便受けに、結婚式の招待状が入っていること。
仲が悪い両親から、「そろそろ」と、言わんばかりの小言が耳ざわりが悪い。
梨華は、気分を変えたくて、有給消化がてら、田舎の祖母に会いに行くことにした。嫌みったらしい母から、「様子を見てきて欲しい」と頼まれたことで、堂々と行ける。
新幹線の車窓は、都会の景色から、だんだんと田舎の景色へと変わってゆく。
「あれ?あのピンクの木は?桜?梅?」
あっという間に、通り過ぎてしまい、祖母宅の最寄り駅に着いた。
改札を抜けると、従弟が迎えに来てくれていた。
祖母の家に着くと、従弟が甲斐甲斐しく動きだした。
その間に、久しぶりに会う祖母とたわいのない話をしたり、手料理を食べたり。。。梨華は、従弟は家庭もあるのに、祖母の世話をしてくれているんだと思うと、小さくなった祖母の背中に顔をうずめたくなった。離れて暮らしていても、しばらく会わなくても、愛おしい背中。
梨華は甘えたくなった。
「一緒に寝ようよ、子供の頃みたいにね」と、梨華はお願いした。
話を聞いていた従弟は、祖母の部屋に入ると、布団を2つ並べて敷いてくれていた。
「また、明日、寄るからね」と、従弟は帰っていった。
祖母と並んで布団に入って聞いてみた。
「従弟は毎日、こうして世話をしているの?」
祖母は答えた
「一緒に住もうと言ってくれるけど、この距離感がいいんだよね。家族だって、必要でしょ、プライバシーっていうのかしら?」と、笑っている。
家族というワードに、ハッとした梨華。
その顔に、祖母が優しく言った。
「何かあったのかい?お母さんが心配していたよ。家族だから言える事もあれば、まぁ、家族だからって、すべて話さなくてもいいしね。」
祖母の優しい笑顔を見ているうちに、夢から入ったのか眠りから入ったのか・・・。梨華の子供のころの写真から飛び出した父と母が笑っている。若い。梨華は幼児だろうか。パラパラ漫画のように、あっという間に、梨華は大人になっていた。その傍には、父と母がいた。心配そうだったり、怒っていたり、喜怒哀楽があって、これが家族なんだねと言葉に出そうとしたところで、目が覚めた。
大きく伸びをしたら、味噌汁のいい匂いがした。
ふと、窓の外を見ると、満開の桜の木が風に吹かれていた。
ひらひらと舞う花びらと、味噌汁の匂いが、梨華の心を開放していった。
「おばあちゃん、私ね、プロポーズされたの。」
祖母は少しも驚かず、梨華に微笑みかけた。
「返事はしたのかい?」
梨華は、うつむきがちに答えた。
「まだなの。・・・どうしても、自分が妻になるとか、母になるとか自信がなくて・・・。ひとりの生活でも大変なのに、ムリって思って・・・」
祖母は言葉を選んでいるうちに、梨華は言った。
「おかあさんも、同じだったのかな。」
「そうね、あ母さんも、同じこと言っていたかもしれないね。一生懸命過ぎて、梨華には可哀そうなことしたかもしれないって言っていたわよ。」と、祖母は娘を嫁がせた日を思い出しながら言った。
梨華は「今の私とおんなじね」と、笑った。
散りかけた桜を眺めながら、梨華は、「おばあちゃん、色々ありがとう。ゆっくりしすぎたね。」と、帰り支度を始めた。
今度は、祖母から梨華の背中に顔をうずめた。「幸せになってね」と、少し涙声の祖母の言葉を聞いて、梨華も胸がいっぱいだった。
従弟の車の音が近づいてきた。もう少しこのままでいたかったのに、と、梨華は心の中で悪態をついた。
従弟の車に乗り込み、駅へ向かう途中、
きっと祖母は見送ってくれているだろうと思うと、梨華は振り向けなかった。
駅に着くと、梨華は従弟に言った。
「私、結婚することにしたわ。おばあちゃんを連れてきてくれる?お願いね」
トランクから梨華のキャリーを降ろしながら、
「俺は招待されないの?付き添い?まったく、おばさんにそっくりだな梨華は!」と、従弟は言い返した。
梨華は、そっくりと言われたことに、腹も立てず、颯爽と従弟に手を振り、改札を抜けて行った。