フォ〇ストで2016年4月からアップしておりました大宮さんの恋物語の過去作です。
全編サトシ語りです。
毎日20時更新予定です。
楽しんでいただけたら・・・どぞ・・・♡
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けっこうな近い距離。
カズが元気になってから。
ここまで近づいた事はない。
肩が触れるくらいの距離。
俺を避ける素振りのないカズ。
そして。
一度だけ。
大きく息を吐いたカズは。
・・・。
・・・。
ゆっくりと。
俺へと体ごと向け。
そして・・・その琥珀色の瞳を。
少しだけ潤ませ。
俺に・・・言った。
「治っても・・・。」
「・・・。」
「・・・もう・・・誰もいないし・・・。」
「・・・。」
「僕は・・・一人だから・・・。」
「・・・。」
その・・・あまりにもか細い声。
まるで。
あの時触れたカズの鼓動のよう。
一人・・・と言うカズ。
その重みが心にささり。
さらに。
そんな事を考えていたのか・・・と思うと。
気付けなかった自分に自己嫌悪になる。
何百年もの昔に眠りについたカズ。
当たり前だけど・・・病気が治って命が長らえたとしても。
カズを知る人は今この世の中には誰一人としていない。
一人・・・の意味が。
重くのしかかる。
「・・・だから・・・」
「一人じゃないよ。」
たまらず抱きしめた。
何の抵抗もなく。
俺の腕の中に収まる体。
柔らかくて温かくて。
そして・・・感じる重み。
触れた体から。
生命の鼓動を感じる。
「一人になんかさせない。」
「・・・。」
「俺がいるから。」
「・・・。」
「・・・カズ・・・。」
「・・・。」
「愛してる。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・ぇ・・・。」
ゆっくりと。
俺を見上げるカズ。
琥珀色の瞳が。
まん丸になっている。
驚いた顔をしている。
当たり前だ。
いきなりの告白で。
俺もちょっと・・・自分で言って。
びっくりしている。
「カズ・・・俺・・・」
言葉の途中でカズは。
ぱっと・・・俺から離れて。
そして。
さっと・・・立ち上がり。
たたっと走って。
トレーニングルームを出て行ってしまった。
変圧室でも・・・こちらに背を向け。
そして。
・・・。
・・・。
行ってしまった。
・・・。
・・・。
今のは。
うん・・・ちょっとまずかった。
へこむ。
どうして言ってしまったんだろう。
いや・・・言うとか言わないとか。
そんな事何も考えられなくて。
思いが口から零れてしまったんだ。
告白は・・・アスタリスクについてからでもよかったんじゃないか・・・と。
悔やまれる。
もしも。
俺を・・・受け入れてもらえなかったら。
ずっとこの一緒の船内で。
残り数か月。
どれだけ気まずい思いをカズにさせるか考えてなかった。
軽く頭を抱える俺。
こんな風に・・・言葉がこぼれたのは初めてだ。
そんな自分にびっくりしているけど。
でも。
・・・。
・・・。
寂しそうなカズ。
一人じゃない・・・と。
そう・・・伝えたかった。
俺がいるよ・・・と。
一緒に生きて行こう・・・と伝えたかったんだ。
でも。
それは今のタイミングじゃなかったような気がする。
せっかく・・・カズが俺を頼って本心を打ち明けてくれたのに。
欲しい言葉を与えてやれず。
見当違いの・・・自分勝手な伝えたい事だけを口走ってしまって。
カズの心をはらすどころか。
またもう一つ・・・思い悩む材料を与えてしまった。
これは。
・・・・。
・・・。
みんなに知らせた方がいいだろう。
気まずい思いとか。
不自然な態度とか。
この・・・小さなガイア5の中で。
こういう隠し事をすると不信感につながる。
伝えよう。
・・・。
・・・。
でも。
明日は大事な・・・ジュンの船外活動の日だ。
これが終ったらみんなに伝えよう。
言っておこう。
でもじゃあ・・・なんて伝える?
俺は。
それを思うと・・・いっそうへこんでしまって。
そして。
トボトボと。
自分の部屋へと戻っていた。
つづく