ラストです
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きゅいっと顔をあげ・・・腕の中から俺を見上げるノコル。
瞳が・・・濡れて光っている。
「黒須。お前にもしものことがあったら俺は・・・。」
「ぇ・・・///。」
「ちょっとぉ・・・。」
・・・突然・・・フウマの声がして驚く。
見ると。
「俺も。がんばったんすけど。」
そう言いながら。
抱き合う俺とノコルに手を回し・・・ぎゅっと抱き着いてきた。
いつの間に車から降りてきたんだ。
って言うか・・・ちょっと・・・さ。
いい雰囲気だったんだけど・・・俺とノコル。
・・・いや///いい雰囲気ってなんだよ///。
言葉の続きが。
気になって気になってしかたない・・・けど。
確かにフウマも。
がんばったから。
だから・・・うん。
よくがんばったな。
「ああ・・・よくがんばったな。」
しゅぽん・・・と音がするかのように抱きしめられていた腕をぬいたノコルが。
フウマの頭をなでながら優しい声で言う。
嬉しそうに笑うフウマ。
「弾。抜いたのか?」
俺が聞くと。
ドヤ顔で・・・しゃべり始めた。
先輩は向こうでチンギスと話をしている。
「そうっす。だってあいつ・・・ワニズ?ってやつ。不用心でさ。俺の手の届くところに拳銃を置くから・・・。」
「手は縛られてなかったのか?」
「縛られてた。前で。」
「前で///!?」
「後ろは痛いって泣きさけんだら。前にしてくれて・・・。」
「あなどったな。」
「ヘヘ・・・///昨夜の銃の勉強が役にたったし///。」
「銃を奪って逃げようとは思わなかったのか?」
「だって自分がつかまってた場所わかんないし。・・・敵はたくさんいるし。逃げきれる自信はなかったし。」
「・・・賢明だよ。もし逃げてたら殺されてた。」
「でしょ?だってあいつら言ってたし。こいつは殺すなって。俺の事。」
「全部筒抜けか。」
「とりあえず病院へ行ってこい。あとから行くから。」
「え~今ついてきてくれないんすか?」
「ここの処理が終わったらすぐ行くから。ちゃんと全部診てもらえ。」
俺やノコルにいろいろ言われ。
フウマは迎えにきてくれた警察に連れられて。
足取り重く///車に乗りこんでいった。
そんなフウマを。
二人で・・・少し笑いながら見送っていた・・・けど。
不意にノコルが俺に言った。
「・・・黒須。」
「はぃ。」
「あの狙撃手は・・・誰・・・なんだ?」
「・・・あ・・・その件なんですが・・・。」
すがるような瞳で俺を見つめるノコル。
ああ・・・やっぱり。
勘違いするよな・・・と。
そんなノコルの思いが見えて。
胸が痛む。
「まさか・・・。」
「いえ・・・すいません。ピヨじゃありません。」
「じゃあ誰が・・・」
ノコル様~!!!
向こうから。
ライフルをかついで走ってくるのは・・・。
ノコル大好きな大型犬。
あの。
孤児院の院長・・・リョウマだった。
「・・・リョウマ・・・!?」
「そうです。リョウマです。」
「・・・なんで・・・。」
「ピヨから特訓を受けていたそうなんです。ノコルを守るために。」
「・・・特訓を。ピヨから・・・。」
「はい。」
そう。
リョウマがピヨから習っていたのは・・・体術だけではなかったんだ。
以前聞かされた・・・リョウマの特技。
それはまさかの・・・狙撃だった。
孤児院へ俺一人で行った時に見せてもらったけど。
かなりの腕前で・・・びっくりしたことを思い出す。
それでも。
巻き込んではいけない・・・と思っていた。
ノコルも望んでいないだろうから・・・と。
でも。
今回のこの交渉では。
リョウマがいてくれることで・・・ダメ押しの脅しをかけられると踏んだ俺は。
リョウマにお願いして・・・来てもらっていた。
伝えたのは・・・缶を撃ってもらうことだけだったけど。
スコープで見ていたんだろう。
ノコルが撃たれそうになった時にも・・・発砲していた。
それも見事に。
腕?か足?を撃ち抜いている。
あの距離から・・・この暗さでターゲットをとらえている。
もしかしたらリョウマは・・・すごい狙撃手に化けるかもしれない。
・・・いや。
そんな特技。
使わない世の中を目指さなくちゃいけないんだった。
「ノコル様!ご無事で!」
たたっと全速力で走ってきたわりには。
ノコルの前で・・・まるで急ブレーキをかけるかのように止まったリョウマ。
そんなリョウマを見上げるノコル。
「ぁ・・・すいません。俺で。ピヨ様じゃなくて。」
「・・・。」
「習ってたんです。ずっと。ノコル様をお守りするようにって。ピヨ様から言われて。」
「・・・リョウマ。」
「はい。」
「ありがとう。」
「・・・///!?」
するり・・・と。
リョウマを抱き寄せ。
その胸に頬をつけるノコル。
リョウマは。
固まってしまって。
ノコルを抱きしめ返すことすらしない///。
ただ・・その体にノコルをひっつかせたまま・・・棒立ちで立っている///。
「ノコル。」
チンギスと一緒にやってきた先輩。
まなざしが。
見たことないほど優しい。
「・・・憂助。」
「無事でよかった。」
続いて。
チンギスが・・・前に出て。
ノコルに恭しく頭をさげると言った。
「ご連絡をありがとうございました。」
「チンギス・・・俺の方こそ。いろいろありがとう。」
「ご自身で何もかもされずに。我々に託してくださったのは・・・賢明な判断です。」
「俺には。」
「・・・。」
「チンギスの力が必要だ。」
「いつでも。フルマックスでお貸しいたします。」
「・・・ありがとう・・・///。」
「本当に。無事でよかった。」
そう言うと。
一度だけ・・・ノコルのその肩をするりとなで。
俺にも会釈をして・・・車へと戻って行った。
「ノコル。」
「・・・憂助。」
「抱きしめてもいい?」
「・・・そんなこと聞くな///。」
「じゃあ・・・ちょっと失礼して。いいかな。これでもすごく心配していたんだよ?」
「・・・///。」
先輩が。
その腕でノコルを囲うと。
ノコルのデールの背をぎゅっとつかみ。
ぐっと・・・力強く抱きしめた。
その髪に頬をすりすりと寄せると。
「えらいなノコル。」
「・・・。」
「ずっと一人で。戦っていたんだな。」
「・・・一人じゃない。」
「・・・。」
「俺にもちゃんと。いるから。仲間。」
「そうか。」
そう言うと。
ノコルから体を離した先輩が。
少しだけ屈んで・・・ノコルの目線に合わせると。
その頭を・・・ぽん・・・と叩き言った。
「がんばったな。」
「・・・///子ども扱いすんな。」
すぐにぱし・・・っと。
その先輩の手を払いのけたけど。
でも。
その顔は照れたように赤く染まり。
払いのけられた先輩も・・・嬉しそうに笑っている。
「黒須。」
「はい。」
「本当にノコルが世話になった。」
「いえ。」
「次の襲撃はすぐだと思います・・・とお前が言ってくれたから。」
「・・・。」
「俺もその気になった。」
「いえ。俺が言わなくても先輩は察していたはずです。」
「・・・どうだろうな。とにかく。黒須がいてくれてよかったよ。」
「今晩は泊まって行かれるんですか?」
「いや。○○国の情勢が急激に悪化していてね。そこへすぐに飛ばなくてはいけないから。」
「そうなんですか。」
「これから空港に戻って。すぐの便に乗るつもりなんだ。」
「・・・そう・・・ですか。」
久しぶりに会ったのに。
話もろくにできず・・・か。
仕方ないとはいえ。
ちょっと・・・寂しく思う。
「なんだ憂助。帰るのか?」
「ノコル。もう・・・すぐに空港へ向かわなくちゃいけないんだ。」
「・・・。」
「せっかく会えたのにすまないが・・・」
「いいじゃないか。少しくらい。」
「・・・え。」
「俺のために来たんだろ?」
「・・・ああ。まあ。」
「だったらもう少し。俺のためにここにいろよ。」
「・・・ノコル・・・。」
先輩が・・・口元をほころばせ。
嬉しそうに驚いている。
あのノコルに。
こんな風に言われるとは思ってもいなかったんだろう。
俺も。
最近の素直なノコルに慣れたとはいえ。
これは・・・なかなかの衝撃だ///。
「そう・・・だな。やっぱりそうしよう。」
「・・・最初からそう言えよ。」
「フフ・・・じゃあ。聞かせてもらおうか。」
「・・・何を?」
「これまでのこと。俺がここを飛び立ってから・・・これまでのこと全部。」
「別に。話すことなんてない///。」
「じゃあ。俺の質問に答えてくれればいいから。」
「質問・・・?」
「まずその髪。誰に結ってもらってるんだ?」
「・・・ぇ///。」
「ノコルは髪が結えない。知らないとでも思ったのか?」
「べ・・・つに。いいだろ///誰に結ってもらってても。」
「じゃあ次の質問。」
「はぁ?」
「お赤飯は好きか?」
「な・・・///なんでそんなこと・・・///。」
「フフ。ゲルに戻ってからゆっくり聞くよ。」
すべてを包み込む兄。
若干天邪鬼だけどまっすぐで純粋な弟。
いい兄弟だと思う。
・・・。
・・・。
ちょっと。
うらやましいな。
二人・・・車へと向かう。
口ではぶーぶー言ってるんだろうけど。
二人の距離が近い。
先輩を取られたような。
ノコルを取られたような。
不思議な感覚。
血のつながりのない二人なのに。
入り込めない絆が・・・
「黒須。大丈夫か?」
「・・・ぇ///ぁ・・・。」
くるっと振り向くと。
たたっと・・・俺に駆け寄ってくるノコル。
そして。
「疲れたのか?昨日の襲撃から。大変だったよな。」
「・・・ぁ・・・ぃえ・・・。」
「帰りは俺が運転するから。お前は憂助と後ろに乗れ。」
「いえ。大丈夫です。俺が運転を・・・」
「いいから言う通りにしろ。お前だって憂助と久しぶりだろ?」
「・・・。」
「ああ・・・フウマを迎えに行かなくちゃいけないから。帰りに病院に寄ろう。」
「そう・・・ですね。」
「ぁ・・・リョウマ!お前も来い!チンギス!仕事が終わったら来られるか?」
もう。
すっかり遅い時間だけど。
こんな機会もめったにない。
一晩くらい寝なくなってどうってことない。
ノコルを中心にした・・・仲間。
先輩とチンギスとリョウマとフウマ。
そして・・・俺。
ああ・・・太田梨歩とも。
リモートを繋ごうか。
どんな話をしよう。
まずは・・・先輩に。
ノコルがどれだけ愛されているか・・・を伝えたい。
心配しなくても大丈夫です・・・と。
・・・いや。
言葉で伝えなくてもきっと・・・伝わってる。
ノコルの顔を見れば・・・きっと伝わるはずだ。
そんなこと思いながら前を行く先輩とリョウマとノコルを見ていると。
急に振り返り。
先輩が・・・まっすぐ俺に向かってきた。
ずんずん・・・と肩を揺らしながら。
あれ・・・なんか。
怒ってる・・・?
「黒須。」
「・・・はい?」
「ちょっと説明してもらおうか。」
「何を・・・ですか・・・?」
「ノコルと一緒の部屋で寝ている理由。」
「・・・え・・・あ。だからそれはその・・・///。」
「なんだ。」
「や・・・///えと・・・///。」
ちゃんと話せばいいのに。
襲撃に備えてだ・・・って。
なのに。
言い淀むから・・・///。
これじゃあやましいと思われてしまう///。
早く。
答えなくちゃ・・・と思うのに。
けっこうガチな先輩の瞳に・・・上手く言葉が出てこない。
って言うか・・・先輩・・・///。
懐で銃を握るの。
止めてもらっていいですか///?
「二人とも!早くこっちへ来い!」
ノコルが俺達を呼ぶ。
「話は後でだな。」
そう言うと・・・車へと向かう先輩。
いや・・・まじで。
ちゃんと説明しなくちゃ・・・と。
弟思いの先輩のことを思いながら。
そう自分に言い聞かせた。
今夜は・・・いろんな意味で。
眠れない夜になりそうだな///。
FIN
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終話です・・・ありがとうござました。
あとがきございます///。
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