つづきです
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そして・・・今日は。
あの・・・テロで息子を亡くした元テント構成員の靴職人の父親に会いに行く日だった。
ノコルと俺とフウマの三人で朝から出かける。
家に到着し・・・部屋の中の様子を見る。
あちこちモノが片付いていなくて。
明らかに手が足りていない様子だった。
仕事と・・・まだ幼い孫の身の回りの世話で手一杯のようで。
さらには・・・見るからに質素で。
どう見ても裕福には見えないのに。
ノコルからの大金を辞退したところに。
この翁の誠実さが見える。
だからこそ余計に。
跡取りを失ったこの家が・・・気がかりになる。
それはきっと。
ノコルも同じなんだろう。
バルカの未来のためとはいえ・・・テロを行い。
自国にも他国にも孤児を増やしてしまった過去。
その過去はノコルに逃れらない罪となって肩に重くのしかかっているんだろう。
・・・やるせないな。
ノコルが話を続ける。
「お孫さんの様子はいかがですか。」
「元気がないですね。学校にもずっと行けてなくて・・・。」
「そうですか。」
「ずっと父親の帰りを待っていたので。もう待っても戻ってこないということがショックのようです。」
「何か。お力になれませんか?」
「・・・お気持ちだけで十分ですよ。ありがとうございます。」
「・・・今日も。失礼承知でこれを持ってまいりました。」
「いや。金は受け取れません。」
「・・・でも。」
「あなたに息子が何をしたか知りませんが。それは息子がしたことなので・・・」
「でも。お世話になった方のご家族のお力になれればと思って・・・」
「いえ。ホントに・・・納めてお帰りください。」
「そういうわけには・・・。」
しばらく押し問答。
翁は金を受け取る気配はない。
時間が経てば考えも変わるだろう・・・とノコルは考えていたらしいけど。
翁の気持ちは変わらず・・・だった。
ノコルもがんばっているが・・・真実が言えない分口をつぐむことも多く。
結局。
翁の意思を尊重して・・・金は渡さずノコルは家を出た。
家の前で・・・三人でたたずむ。
ノコルは何か考えている様子で爪を噛んでいる。
最近気づいたことだけど。
ノコルは・・・イライラしたり考えが深くなったりすると爪を噛むクセが時々ある。
俺は。
すっと・・・ノコルの手に触れ。
爪を噛むのを止めさせた。
それすら・・・気づかない様子で。
考えることに没頭しているノコル。
いつもなら・・・ここで。
早く行きましょう・・・とか。
どうすんですか・・・とか。
急かすようなことを言うフウマが・・・不思議と何も言わずに。
ずっとただ。
ノコルのそばに立っている。
まるで。
指示を待つ大型犬のように。
ただじっと・・・ノコルを見つめたままそばに立っていた。
「フウマ。」
「はい。」
「孤児院へ行く。向かってくれ。」
「わかりました。」
・・・孤児院。
まさか遊びに行くとは思えない。
何か・・・思いついたような。
ノコルの強いまなざし。
それを見て。
翁へお金を渡すこと・・・まだあきらめていないのがわかった。
・・・孤児院。
両親を亡くした子供たちのいる場所。
・・・。
・・・。
あ。
「ちょ・・・ちょっと待っててもらえますか?」
「・・・。」
不思議そうに俺を見るノコルとフウマを置いて。
俺は・・・家の中へと走りこんだ。
目的は。
あの子だ。
父親を亡くし悲しんでいる子ども。
その子の心を少しでも楽にしてあげられたら・・・。
俺が今できるのはこれしかないように思えて。
それで・・・部屋に戻ると翁と一緒にいる子どもを見つけた。
俺は。
すいません・・・と翁に断り。
子どもに声をかけた。
「こんにちは。」
「・・・。」
「大丈夫。怖くないよ。」
「・・・。」
「俺は君の味方だから。」
「・・・味方・・・。」
「そう。味方。」
「・・・。」
「ちょっと話してもいい?」
「・・・ぅん。」
「お父さん・・・亡くなってとても悲しいし寂しいと思うんだけど。」
「・・・。」
「同じようにお父さんやお母さんを亡くした子供をね。お兄ちゃんはいっぱい知ってるんだ。」
「・・・いっぱい?」
「そう。いっぱい。でもみんな元気に遊んでる。」
「・・・。」
「そこに。行ってみない?これから。」
「・・・。」
これから行く孤児院へ。
この子も連れて行ってみてはどうかと思ったんだ。
親を亡くした悲しみはそう簡単には消えはしないだろうけど。
同じ思いをしている子供たちを見たら。
この子も何か変わるかもしれない。
そう思って・・・俺は。
誘った。
瞳を揺らし。
戸惑っている目の前の子。
でも。
その瞳に宿る光は・・・決して消えてはいない。
きっと・・・何かきっかけさえあれば前へ進めそうな気がするんだ。
もじもじとしている子供。
俺は。
翁へ声をかけた。
「いいでしょうか・・・。」
「そんな。お世話になったら申し訳ないです。」
「いえ。それくらいさせてください。帰りもちゃんとここへ送ってきますから。」
「・・・どうなんだ?お前は。行ってみたいのか?」
子どもは。
少し遠慮がちに・・・でもしっかりとうなづいた。
よし。
俺は・・・心の中でガッツポーズをした。
翁も・・・よろしくお願いします・・・と俺に言う。
孫のことが心配だったんだろう。
深く深く・・・頭を下げられた。
→つづきます