続きです。
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「ノコル。やはり今日のテストは中止だそうです。」
「そうか。」
「・・・ええ。」
「事故か事件なのかわかったのか?」
「まだわかっていませんが。落ちたのは不自然だ・・・と曽我さんは言っています。」
「・・・。」
「確かにこの辺りは未整備の場所なので滑り落ちる可能性はありますが。」
「・・・。」
「そんなことのないように離れた場所に・・・しかもちゃんと留め具でタイヤを止めていたそうなので。」
「・・・。」
「事件性があるかと。」
「黒須。」
「はい。」
「チンギスに連絡を取ってくれ。」
「ここへ来てもらいますか?」
「来られるなら。」
俺は。
すぐにスマホを取り出し・・・チンギスへと連絡をした。
連絡が取れ。
すぐに・・・チンギス・・・バルカ警察がやってきた。
西岡大使と曽我さんが聴取を受けている。
しばらくして・・・そこでの聴取を終え。
離れたところで待っていた俺とノコルのところに。
チンギスが説明にやってきた。
「事故で扱うには不審点が多すぎます。」
「どの点が?」
「運転手が停めたという場所はあそこ。谷底から十数メートル先で。落下点からはかなり離れています。」
「他には?」
「2台とも車止めが外れているので。過失にしても不自然です。」
「・・・。」
「現場に残っているタイヤ痕をすべて調べさせます。あとは近くの国境付近の防犯カメラを解析します。」
「・・・ロ シアの可能性を考えているのか。」
「可能性の一つです。国内の不穏分子の存在も忘れてはいません。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・チンギス。」
「はい。」
一瞬。
ふっと。
自信なさげな・・・不安げな表情を俺に向けたノコル。
その顔が・・・儚げで。
消え入りそうで。
その苦しそうな表情に・・・俺まで苦しくなる。
そして・・・なんとなくピンとくる。
ノコルが話そうとしていることが。
「実は。」
「はい。」
「今朝。うちの車のタイヤがパンクしていたんだ。」
「・・・。」
「前輪が2本とも。」
「・・・。」
「それから。」
「・・・。」
「少し前に。馬舎の扉が・・・鍵が開けられていて。」
「・・・。」
「馬が逃げてしまっていたんだ。」
「・・・。」
「馬は戻ってきたし。」
「・・・。」
「タイヤのパンクも直せば済む話なんだが。」
「調べさせます。今日これから伺っても?」
「・・・(コクン)・・・。」
「承知しました。」
チンギスは。
何も言わない。
どうして今まで言わなかったのか・・・とか。
鍵のかけ忘れでは?・・・とか。
パンクは偶然では?・・・とか。
そんなこと何も言わずに調査を申し出てくれて。
きちんと・・・おおごとにしてくれた。
このショベルカー落下事件との関連も疑っているんだろう。
話が早くてありがたい。
って言うかチンギスの包容力が半端ない。
ノコルの顔も・・・少し安心したような顔になっていて。
目尻を下げて・・・まん丸な瞳で。
まるで子供みたいな顔でチンギスを見ている。
チンギスは・・・そんなノコルの視線を受け。
さらにノコルを安心させるように微笑み頷くと。
敬礼して・・・みんなの元へと戻って行った。
その一連の様子を見て思う。
まだ。
俺は・・・チンギスには敵わない・・・と。
これだけ一緒に。
ノコルと一緒にいるのに敵わないか・・・と。
あんな顔・・・俺はノコルにあんな顔をさせられない。
少し・・・へこむ。
もう少し頼りにしてくれてもいいのに・・・と。
俺に足りない部分はなんなのか考えようとして・・・止めた。
足りない部分・・・たくさんありそうでさらにへこみそうだったから。
その日は。
採掘現場の実況検分が終わった後。
今後のことはまた改めて・・・と西岡大使と曽我さんとはそこで別れ。
ゲルに戻り改めてバルカ警察の聴取を受けた。
そして。
馬舎近辺と・・・パンクしたタイヤ・・・車を調べ。
周りの足跡やタイヤ痕なども確認し。
一行は・・・帰って行った。
当分戸締り関係は入念にしてくださいと言われ。
近辺の巡回を強化しますと言ってくれる。
その日の夕食は・・・重苦しかった。
以前はほとんど話をしなかったのが。
最近は少しずつ・・・食事の時に話をするようになって。
仕事の話が中心だけど。
時には笑って・・・話したりできていたのに。
今日は。
一言もなく・・・食事が進む。
っていうかノコルは。
ほとんど食べずにワインをぐいぐいと飲んでいる。
そんなにアルコールに強くないのに・・・だ。
そもそもノコルは・・・食に対しての興味が薄く。
何を出しても食べてもあまり反応しない。
ぁ・・・赤飯だけは例外で。
出すと喜んで食べてくれるようになっていた・・・から。
そうだ。
今度の休みは赤飯を作ろう。
ノコルに元気になってもらいたい。
→つづく