あちらの「Hit the floor」更新させていただきました。
大宮さんBL物語です。
苦手な方はご注意を・・・。
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会社に到着する。
正確には・・・会社だったところに到着する。
もう・・・オフィスには何もなくて。
ガランとした・・・ただの空間。
大家さん立ち合いの元。
いろいろもろもろチェックと。
最後に鍵を返すのが目的だった。
だから俺一人で充分。
って言うか。
みんなで来たら逆に寂しくなっちゃうから。
だから。
今日は俺一人でって・・・そう言ってある。
大野さんの送別会も済んでるし。
会社をたたんでの・・・お疲れさま会なんてさ。
もうみんなで5回くらいやってるし。
なのに。
大家さんと・・・話をしていたら。
突然。
大野さんが現れた。
ラフな格好。
靴下にサンダル。
ポケットに手を突っ込んで・・・ホントにふらっと現れた。
この人確か明日。
海外へ旅立つはずなのに。
なんで来たの?
特に何を言うでもなく大野さんは。
俺と大家さんとのやりとりを聞いていて。
で・・・すべて終わって。
じゃあ・・・って大家さんが帰ったら。
大野さんに言われた。
「飲みに行くか。」
・・・って。
せっかくこの人と離れ始めていたのに。
また距離を詰めるのは・・・どうかと思ったけどでも。
もう最後だからいいか・・・と思い頷いた。
だって。
大野さんと・・・1分1秒でも一緒にいたい。
それが俺の本音だったから。
居酒屋で。
通されたカウンターの席。
久しぶりの二人きりに。
この近い距離に・・・少しドキドキする俺。
でもそんな思いは隠したままで。
隣同士で二人で他愛もない話をする。
昔の。
会社立ち上げた時の話とか。
もっと遡って・・・学生時代の話とか。
二人で。
一緒にいた時の思い出話をたくさんする。
大野さんは・・・忘れていることも多くて。
「そうだっけ?」
「そうよ・・・ホントすぐ忘れちゃうんだから。」
「ぅん・・・忘れた。」
「でも変なことは覚えてるのよね。あなたって。」
「・・・カレー食ったこととか?」
「そうそう///。」
「フフ・・・そうだな・・・それは覚えてる。」
ホント・・・大野さんは妙なことをよく覚えていて。
そんな話いっぱいして。
軽く・・・自分の顎に触れる大野さんの手をじっと見て。
学生の頃から変わらないそのクセを見て。
変わらないその声を聞いて。
・・・。
・・・。
思い出す。
その時々に感じた・・・俺の大野さんへの「好き」の気持ちを思い出す。
口に出したらきっと少し困るだろうな。
だから。
「好き」なんて。
絶対に言えない。
困らせたくないから。
ずっと僕の宝物さ
可笑しいくらい君が好き
店を出る。
どう・・・するのかな・・・と思っていたら。
「なあ。」
「はい?」
「俺んちでさ・・・飲みなおそうよ。」
「・・・明日出発なのに?}
嬉しいくせに。
そんなこと言う俺。
言わなきゃよかった・・・と。
言ってすぐ後悔する。
でも。
「来いよ。俺の新居。」
「・・・。」
そう言えばこの人は。
会社を辞めたと同時に家も引っ越ししたんだった。
飛行機が見える場所がいいって。
前から言ってて。
それで・・・本当につい最近。
飛行機の航路の・・・海の近くに引っ越しをした。
だから新居には。
当然だけど行ったことがない。
行きたいような。
行きたくないような。
だってきっと。
今日だけ。
俺が大野さんちの新居に行くのは今日だけだから。
思いを断ち切ろうとしているんだから。
新しいことは知りたくない。
・・・でも。
「いいですよ。行っても。」
こんな言い方しかできない俺。
でも・・・そんな俺を。
大野さんはわかっている風な笑顔で見ると。
さっと・・・前を歩きだした。
大通りに向かっている。
まだ電車は走っている時間だけど。
タクシーを拾うんだろう。
少し寒くて。
両手をポケットに入れ・・・小走りに進む大野さん。
この人の・・・こんな姿を見るのももう。
最後になるのかもしれない。
その・・・少し丸まった背を見て思う。
繋ぎ止めたい ホントは
行かないで大野さん。
わかってる。
俺が愛されることはないって。
でも。
せめてそばに。
そばにいさせてよ。
「『うちの』大野」と。
呼ばせて。
「寒いか?」
「・・・ううん・・・平気。」
突然振り返るから。
びっくりする。
勘のいい人だから・・・ね。
何か気づかれたのかと思った。
つづく
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ありがとうございました。
毎日20時更新予定です。
楽しんでいただけたら・・・。
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