大宮さんBL前提のお話です。
苦手な方はご注意を///。
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Side.N
日差しがまぶしい。
園芸部の子達が今朝は水やりを忘れたのか。
それとも・・・暑さで乾燥してしまったのか。
花壇の花達がカラカラに乾いているように見えて。
僕は水をまき始めた。
音楽室から聞こえてくる綺麗な音色に・・・思わず上を仰ぎ見る。
夏休みも終わりになり。
時折吹く風が・・・夏の終わりを告げるけれど。
もう・・・9月になっていく日もすぎたというのに。
暑い日はまだ続いている。
吹奏楽部が奏でる音は。
あの・・・甲子園での応援歌のような勢いのある音色ではなくて。
秋の音楽コンクールに向けての課題曲に代わっていた。
あれから。
大野さんからのちゃんとした連絡は1度もない。
連絡先を知らないから。
僕から連絡を取れる方法はなかった。
でも・・・松本さんから相葉先生経由で。
僕の連絡先を大野さんには伝えていて。
それで。
1度だけあったのは・・・非通知からの無言電話だった。
夜遅くにかかってきた電話。
まったくの無言・・・無音。
でも・・・きっと大野さん。
名乗らずに。
大野さんの名前も出さずに。
ただ・・・元気です・・・と。
そして・・・待ってるから・・・と。
それだけを伝えると。
電話が切れた。
不安は確かにある・・・けど。
たった1度の電話で。
僕は・・・その向こうにいる大野さんを思い。
繋がりを確信し・・・落ち着く事ができた。
そうそう・・・甲子園は。
1回戦は突破できたけど・・・でも。
2回戦は僅差で敗退してしまった。
残念だけど。
すごく悔しそうにしていたけど・・・でも。
この夏は・・・1度しかないこの夏は。
きっと・・・みんなにとっても忘れる事のできない大事な夏になったと思う。
ぶわ・・・っと。
急に突風が吹く。
白衣の裾が・・・ばっと開いた。
それを・・・片手で抑え。
風から逃れようと・・・体をよじる。
・・・と。
・・・。
・・・。
地面に落ちている人影。
くっきりとした黒。
これ。
・・・この影・・・は。
ふっと・・・顔を上げると。
そこに・・・。
・・・。
・・・。
大野さんがいた。
Side.O
あの人は。
待ってくれているだろうか。
任務中・・・毎晩あの人を思っていた。
本当に・・・何の約束もないままに。
俺を待ってくれているのか・・・と。
でも・・・そんな不安も。
あの一度の無言電話で・・・ほぼほぼ解消された。
待ってるから・・・の言葉。
あの一言で俺は。
どれだけ・・・力がみなぎるか。
「愛」ってすごいんだな・・・と。
実感する。
久しぶりの校舎。
授業中を狙って来た。
保健室には「不在」の札がかけられている。
きっと花壇だ。
足早に外へと向かった。
花壇に水をまく二宮先生を見るのが好きだった。
横着なのか・・・じょうろにめいっぱいの水を入れて。
両手で・・・ちょっとよろけながら持ち歩く姿がかわいらしくて。
でも・・・最初に傾けた時に。
あの注ぎ口から水がけっこうこぼれ出ちゃって。
結局もう一度水をつぎにいく二宮先生。
その一部始終を。
よく見ていたな・・・と思い出す。
案の定・・・花壇に水をやっている二宮先生。
少しだけ近づき。
その後ろ姿を見つめる。
振り向いて・・・俺を見つけたら。
なんて・・・言ってくれる?
まだ不安がある自分に・・・苦笑いしながら。
大股で近づく。
・・・と。
突風が吹く。
あの日・・・あの甲子園で感じたのと同じ疾風だ。
ぶわっと白衣が開く。
それを・・・手で抑えながら・・・風からよけるかのように身をよじる二宮先生。
・・・と。
影・・・で俺に気づいたのか。
ふっと。
顔をあげた。
ただいま・・・と言うより先に。
お帰り・・・とその唇が動く。
満面の笑み。
その笑顔が・・・さっきの風のように心に吹き込んで来る。
ただいま
そう言いながら・・・近づいた。
最後のつもりで。
あの・・甲子園で球児たちの熱に引き上げられたフリをして伝えた俺の思い。
とまどいや不安は。
あの風が吹き飛ばしてくれた。
そう・・・風。
平成最後の夏。
俺は。
見上げる夢に手を伸ばして。
俺だけの・・・風を手に入れたんだ。
限りある時の中。
命を輝かせるために。
FIN
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作者のナツコです。
読んでくださって、ありがとうございました。
ちょぴっとあとがきございます///。