小学生の頃、よく口ずさんでいた歌があった。
『勝利への讃歌』
原曲のタイトルは「Here’s To You」
悲しく、しかし力強く繰り返されるメロディと美しい歌声が好きだった。
2年前に映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』を観た時、この歌がエンニオ・モリコーネ作曲で、映画「死刑台のメロディ」の主題歌であることを知った。
『死刑台のメロディ』とはどんな映画だったのか。
1920年、第一次世界大戦後の不況にあえぐアメリカ。政府は移民の労働問題に頭を悩ませ、盛んに共産党狩りが行われていた。そんな中である製靴工場での強盗事件が発生し、容疑者に挙がったのが靴職人のニコラ・サッコと魚行商人のバルトメオ・ヴァンゼッティ。身に覚えのない2人は無罪を主張するが、イタリア人の2人に対する偏見は強く、一方的な裁判によって有罪判決が下されてしまう。
主題歌「Here’s to you」は、二人に寄せる想いと生前のステートメントの語句から引用して作られたという。
Here’s to you, Nicola and Bart
Rest forever here in our hearts
The last and final moment is yours
That agony is your triumph
あなたたちを祝福する、ニコラとバート
わたしたちの心の中で永遠のやすらぎを
最後の最後の瞬間はあなたのもの
受難があなたたちの勝利となるとき
小学生の私は「二コラバー」と訳も分からず歌っていたけれど、
そうか!二コラとバートという二人の名前だったのか!と50年経って分かった。
そして今日一本の映画を観た。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
若き日のボブ・ディランを描いた作品。
私がボブ・ディランという名を初めて耳にしたのは、
これもまた小学生の頃、GAROの「学生街の喫茶店」という歌の中であった。
実際にボブの歌を聴いたのは、その頃ラジオからよく流れてきた曲位で、
本人については良く知らなかった。
この映画では、ティモシー・シャラメがボブ・ディランになり切っていると、ボブを知る誰もが認めている。なかなか複雑な人格であることは映画から窺い知れるが、まだまだ分からない。
私の中では、まさにA COMPLETE UNKNOWN(全く未知の・正体不明な)人だ。
ただ人を惹きつけるものがある。神話性があるというのもわかる。
音楽、特にライブシーンがいい。しかも劇中の演奏は事前に録音したものではなく、現場で出演者自らがライブで歌っているとのこと。
「フォークの女王」ことジョーン・バエズ扮するモニカ・バルバロの歌声を聴いて、ふと何故かとても懐かしい感じがした。
気になって調べてみたら、小学生の頃口ずさんでいた「勝利への讃歌」を作詞して歌っていたのは、
やはりジョーン・バエズだった。
また当時よく母と歌っていた「ドナドナ」は、おそらく「みんなの歌」版だったと思うが、
原曲の歌詞における「子牛」の悲しい運命は、ヨーロッパにおけるユダヤ人排除の歴史を暗示しているという。
そんなことも大人になってから知ることとなる。
そして原曲に近い歌詞を英語で歌っていたのは、これまたジョーン・バエズだった。
こうやって映画を通して、あの頃の自分に出会うことがよくある。
映画は人生の一部であり、人生は一本の映画だと思う。
これからあとどれくらい続くのだろうか?
どんな展開が待っているのだろうか?
答えは風に吹かれている。
答えは自分の中にある。