ファンタジーOp. 79は、ガブリエル・フォーレ(Gabriel Fauré 1845-1924)によって、1898年に作曲されたフルートとピアノのために書かれた室内楽である。

【1】歴史
1898年に、この作品は、パリ国立高等音楽院(コンセルヴァトワール)によって行われた"Concours de flute"(フルートコンクール) のために、ポール・タファネル(Paul Taffanel 1844 - 1908)に委嘱され、献呈された。1893年にフルート教室を引き継いだタファネルは、毎年、開催されるコンクールのために定期的に新作を委嘱し、パリ国立高等音楽院が要求するような、技術的に困難な作品のレパートリーを、年月と共に、蓄積していった。1895年にヨアヒム・アンデルセン(Joachim Andersen 1847-1909)が受け取った依頼には、次のように書かれている。

"The piece should be short: 5 or 6 minutes at most. I will leave the form of it entirely up to you; whether an Andante followed by an Allegro, or a single movement, but it needs to contain the wherewithal to test the examinees on matters of phrasing, expression, tone control, and virtuosity. The accompaniment should be for piano."

「曲は短かい方が良い。最長で5分か6分。どのような形にするのかは、お任せします。アンダンテの後にアレグロが続くのか、あるいは単一楽章なのか。しかしながら、受験者を試すために、次のような課題を含むことが求められます。フレージング、表現力、音色のコントロール、ヴィルトゥオジティ(技巧)について。伴奏はピアノであること。」

アンデルセンは、このタファネルからの依頼を受けて、フルートと管弦楽またはピアノのための演奏会用小品第2番 Op. 61 (Deuxième Morceau de Concert pour Flûte et Orchestre ou Piano (Deuxième Morceaux de Concert))を作曲した。タファネルは、フルートと管弦楽またはピアノのための演奏会用小品(第1番) Op. 3 (Concertstück für Flöte mit Begleitung des Orchesters oder des Pianoforte (Koncertstykke))を高く評価していたという。

アンデルセンの作品が約10分になった一方で、フォーレのファンタジーは約5分。フォーレは依頼の指示を厳密に守った。フルート・パートを創作する際にタファネルの協力を得たので、1898年6月に感謝の手紙を送った。 「すぐにお礼を言わなかったことをお許しください。ずっと忙しかったのです。あなたの改訂は完璧なので、全く気にせず、自分が望むように、どうぞお好きなだけ変更して構いません。その改訂に、とても感謝することでしょう。」自筆譜が失われているため、タファネルがどの程度変更したのかは不明である。

1898年7月28日に開催されたコンクールでは、全員のタファネルの弟子たちによるMorceau de lecture (演奏会用小品)という名付けられた初見の小品と一緒に、8人による8回の初演が行われた。第1位はガストン・ブランクアール(Gaston Blanquart)だった。

ファンタジーは、それ以来、レパートリーとして確固たる地位を確立した。1957年にはルイ・オベール(Louis Aubert 1877-1968)によってオーケストレーションされ、ジャン・ピエール・ランパル(Jean-Pierre Rampal 1922-2000)によって初演された。

フォーレは演奏時間を4分半と述べた。

【2】作品の形式

休符を挟んで、2つの部分で構成されている。

Andantino 付点四分音符 = 50 (8分の6拍子 ホ短調) 39小節
序奏の最初の18小節と短いコーダは、同時期に書かれたフォーレの『ペレアスとメリザンド』作品80の付随音楽にも使われている。

Allegro 四分音符 = 144 (4分の2拍子 ハ長調) 211小節

*以上は英語版Wikipediaを元に、加筆した。上記、タファネルがアンデルセンに当てた手紙からの引用は、元々はフランス語であったと考えられるし、出典元のG. Henle Verlag.が出した資料は、この日本語訳をする段階では、もはや見ることはできなかった。これだけの名曲であるのに、日本語版Wikipediaでは、これを書いている時点では、この作品の項目が見つからなかったので、英語版を日本語訳してみようと思ったのが、今回の記事を書くきっかけである。

【3】楽譜について

Intrernational Musical Companyによって出版された楽譜は、Parisの J. Hamelleによって出版された初版を忠実に再現している。ただし、ピアノ(総譜)、フルートの楽譜、それぞれに小節数が記入されて、より実用的になっている。初版のピアノ譜については1ページあたり4段だったのに対して、6段なので、ページ数が少ないので、より譜めくりの回数が少なくて済む。尚、初版には、フルートのパート譜の第59, 220, 221, 235, 236小節に誤りがあり、このアメリカで出版された楽譜は、その誤りまで忠実に再現しているので、総譜を参照して訂正する必要がある。

第59小節:2拍目で松葉のデクレッシェンドが欠けている。
第220小節:最後の音はDではなくC。
第221小節:スラーは4つだけではなく5つの音全体に付ける。
第235小節:4つの音全体にわたるスラーが欠けている。
第236小節:8つの音全体にわたるスラーが欠けている。

以上の他に、Allegroの第80, 84, 87, 96 小節の八分音符にスタッカートを付けるべきか、演奏者は検討しなければならない。

【4】私の録音について

この作品は、録音時にベストを尽くしても、何か不満が残る。今回、仕方なく、Allegroについては、不満を残す部分を録音し直して、繋ぎ合わせてみた。作曲家は、AndanteではなくAndantinoを指定した。リズムとメロディなど、音楽の内容は、2つの違う「表情指示」であっても共通点がある。私がもしも伴奏を弾くなら、フルトヴェングラーがベートーヴェンの交響曲第1番を指揮した時に、第1楽章の序奏からAllegroに入ったような方法をとるであろう。すなわち、外的なAllegroに入ってから、しかるべき箇所で、本格的なAllegroに入る方法。詳しく書いた記事は、ある雑誌に掲載予定ではあるが、まだ公表されていないので、詳細をここに明かすことはできない。Allegroのフルート・パートにつては、微妙に異なる2つのテンポで演奏することが可能であろう。曲をよく分析するべきである。戦後は同じテンポで演奏することが流行したが、この作品が書かれた当時は、異なるテンポは当たり前であった。書かれた当時の視点で作品を捉え、今日の聴衆にとって受け入れられるものであれば、演奏者は採用するべきである。

テンポについては、具体的に作曲家が示した「全曲が4分半」というのは、指定のテンポよりも速い。楽譜のメトロノームで示したテンポと小節数から計算した時間よりも、「4分半」は随分と短いのだ。現在の演奏会場は残響が長い場合が多く、作曲された当時とは状況が異なっている可能性があると考える。出典元のG. Henle Verlag.が出した資料を見ることができないので、いつどのような状況で作曲家が「4分半」と言ったのかは分からないのが残念。残響が長い会場では、余りテンポが速過ぎると、細かい音の動きや表情のニュアンスが、残響の中に埋もれて、聴衆に伝わらない。会場に合わせて、演奏を調整することは、作曲家から聴衆への仲介者という立場の演奏家が追った責務であろう。

この作品については、直筆譜が残っていないことから、上記のスタッカートの問題など、判断の検討材料として、初版が重要である。全体的な作品の捉え方については、G. Schrmer が出版したルイ・モイーズ編の楽譜を参照する必要がある。ルイ・モイーズは、"Flute Music by French Composers for Flute and Piano"(G. Schrmer)の前書きで、「フィリップ・ゴーベール(Philippe Gaubert 1879-1941)とマルセル・モイーズ(Marcel Moyse 1889- 1984)の指導下で、若い生徒達を教えた」と述べている。作品成立に関わる、作曲家とのコミュニケーションを密に取ったタファネルの門下の偉大なフルーティストによる演奏録音が残っていないだけに、具体的な音楽のな表情を、演奏者に委ねている部分が大きいこの作品を演奏するに当たって、ルイ・モイーズ版の楽譜は、作曲からのメッセージを具体的に伝える貴重な資料だと私は考える。

しばしば、ブラームスがフルートの作品を書いてくれなかった嘆きの声をフルーティストから聞くが、フォーレのような大作曲家が、こんなにも素晴らしい作品を書いてくれたことに感謝する方が先だろうと思う。

Andantino



Allegro






*英語だけではなく、フルートの生徒も募集中。

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