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青年と彼女の3ヶ月間

とある青年と彼女が過ごした、たった3ヶ月間の幸せな時間。

彼女の人生とその価値。

生きる理由とその終わらせ方。

『なんで…知ってるの…?』


彼女は当然の疑問を投げかけました。


青年はあの晩の出来事を彼女へ伝えました。


『あ〜…失敗したなぁ…』


『いつもなら入れ替わる時にLINEにパスかけてロックするんだけど、昨日はお酒も入ってたしめんどくさくなっちゃってそのまま寝たんだよね…』




彼女はそう言いながらも観念したようで、少しすっきりした表情で全てを語り始めました。


主人格の言う通り主人格は解離性同一性障害で、今話している彼女はそれによって作られた副人格です。



…いつまでも主人格/副人格では呼びにくいですね。


「じゃあ○○というのは主人格の本名であって、今目の前にいる君のことはなんと呼べばいいかな?」


『んー、けーちゃんって呼んでほしい!本名のイニシャルがKだから!』


…ということで副人格さんは

【けーちゃん】

になりました。可愛い名前ですね。




主人格さんは本名呼びのままでも良いのですが、いつまでも○○ちゃん呼びは味気無いので、語りの都合上【主ちゃん】とでもしておきましょう。




以下、けーちゃんから教わったけーちゃんと主ちゃんの説明です。



〈入れ替わり〉

人格の入れ替わりはけーちゃんだけが自由に行える。

けーちゃんが活動している時は主ちゃんは記憶を失う。

逆に主ちゃんに体を渡している時、けーちゃんは意識を保つことも出来るし、意図的に意識を閉ざすことも出来る。

このことをけーちゃんは"眠る"と表現している。



〈主ちゃんについて〉

けーちゃんからの評価は『ドクズ』『ネクラ』『お金にだらしない』『絶対に関わっちゃダメ』

実は恋人がいて近々同棲予定。

ライブハウスによく行く。

けーちゃんと脳内で直接お話したりは出来ないので、意思疎通は置き手紙。



〈働く理由〉

同棲するにあたって引越す必要があるが、主ちゃんには資金がない。ついでに言うと貯められる見込みもない。あるのは知人からの借金だけ。


仕方が無いのでけーちゃんが文字通り体を張って貯蓄中。



〈記憶と経験〉

けーちゃんは主ちゃんの過去の記憶を持っているが、経験としては持っていない。

例えば「主ちゃんがカニを食べたことがある」という事実は知っているが「けーちゃん自身はカニの味は知らない」と言った感じである。













〈けーちゃんが生まれた理由〉

青年と出会う4年前。

夜道を歩いていた時、主ちゃんは複数人の男に襲われました。

車のボンネットに強く押さえつけられ、叫び声を上げることも出来ずにただただ犯されました。



(これは私ではない!今酷い目に会っているのは私ではない!)



(これは私ではない別の誰かだ!!!)



自我を守るため、痛みから逃げるため、主ちゃんは意識を手放しました。



そうして生まれたのが副人格…けーちゃんなのです。






主ちゃんの全ての痛みを受け止めるスケープゴート。彼女の人生は全て主ちゃんのためなのです。



主ちゃんがだらしないと言うのは恐らく本当のことだったのでしょう。それこそ生活が脅かされる程度に。

その度にけーちゃんは世話を焼き、お金を工面し、主ちゃんのために身を切るような苦難を味わってきたのでしょう。


それがけーちゃんの意思なのか、それとも副人格として生まれた宿命なのか。それは誰にも分かりませ。けーちゃんは『主ちゃんはほっとけないからw』と笑って言いますけど、その感情すら作られたものではないと誰かが断言出来るのでしょうか?




『誕生日を祝われるのは好きではないのです』

『私は誰かを好きになったりしないから』

これまでの会話が青年の脳裏に蘇ります。

…そう言う事だったのです。