今年(2019年)の年明けのアップルショックを例に、
効率的市場仮説について書こうと思います。
僕自身は効率的市場仮説自体は支持しますが、
それは【価格】についてであって【価値】についてではありません。
需要と供給により市場で決定される【価格】は常に正しい。
その意味で市場は常に効率的だと考えます。
誰かが有利な情報を持っていたとしても、
その誰かの取引が需要と供給に影響を与え【価格】に反映されます。
逆に、【価格】に反映されない程度の情報は市場にとって何の意味もありません。
なので、市場で決定される【価格】は常に正しい。
ですが、株式の【価格】は必ずしもその企業の【価値】を反映している訳じゃありません。
「えっ? 需要と供給で商品の【価値】が決まるんじゃないの?」
その通りです。
それが商品であるのなら。
より正確に言うと、消費財やサービスやその他のモノであれば。
例えば、野菜が不作なら、需要に対して供給が不足する訳ですから
野菜の【価格】は上がりますよね。
そして、この【価格】はその時点での野菜の【価値】と見なせます。
サービスで言うと、カリスマ美容師とか人気のあるサービスを
受けようとすると需要と供給の関係でやはり【価格】が高くなり、
それは【価値】と見なせる。
敢えて、【価格】を適性に上げる事をしないと、
【価格】と【価値】に不均衡が起きて○年待ちなどの状況に陥り、
サービスの提供が滞ることになります。
つまり、待ち時間が【価値】に対する【価格】の上乗せ分、
即ちプレミアムとして機能します。
【価値】=【価格】+待ち時間の金銭的換算価値(プレミアム)
で、それ以外のモノとは何かと言うと、例えば金です。
金は消費されませんよね。
一方で、企業の様に新しい付加価値も生み出しません。
純粋に需要と供給のみでその【価値】が支えられている資産です。
ですから、その資産的な役割は、資産を増やすことではなく、
資産を保全することなわけです。
それでは、株式はどうでしょうか?
株式会社は株主資本を利用して常に利益を出し続けるのが使命です。
出した利益の一部は株主に還元し、一部はさらに利益を上げるため
その企業の事業に再投資します。
つまり、常に付加価値を生み出し続けるのが企業であり、
株式と言うのはその利益を受けるための「権利」なのです。
ですから、【株価】とは別に、企業により再生産される付加価値を
将来にわたって享受する「権利」に対する【本質的価値】が存在します。
ただし、注意すべきは、その【本質的価値】は【わからない】ということ。
将来にわたるリターンが【本質的価値】を決定づけるため、
将来を正確に予測できないと言う時点で算出不能なためです。
従って、【本質的価値】は常に推定されるのみです。
ですが、【本質的価値】が【価格】とは別に存在することを意識するだけで、
市場で何が起きているかを理解するのが楽になります。
冒頭のアップルショックに戻りましょう。
昨年の秋から何度も起きてるアップルショックですが、
ここで取り上げるのは本年最初のアップルショックです。
冒頭のグラフをご覧ください。
時間外取引を契機として2019年1月3日に大幅に下落しました。
この大幅下落がアップルの【価値】を反映しているか否かについては
敢えて論じません。
人によって見方が違うので論じてもあまり意味はないでしょう。
ですが、その後のゆるやかな上昇はなんでしょうか?
本当に企業【価値】が損なわれたのなら、
そんなに簡単に戻っていきますかね?
下落や高騰は、、【価格】と【価値】の乖離が
最もわかりやすいタイミングです。
なので、こういうタイミングを検証すると、
【価格】=【価値】と言う考え方が誤りであることが
はっきりわかります。
ですが、多くの人は無意識の内に【価格】=【価値】と言う前提で
株式取引をしてしまいます。
小難しい言い方をすると、ファイナンス理論で言う【価値】と、
行動心理学的に人間が直感的に感じる【価値】には
乖離があるということです。
従って、【価格】には行動心理学的なバイアスがかかった、
人間の【主観的価値】が反映されるわけです。
そして、この人間の【主観的価値】は
多くの場合長期的視点に欠けています。
したがって、長期的に見た場合【主観的価値】の影響が
比較的少なくなります。
実際に、アップルの株価を10年以上のスパンで見てみましょう。
このスパンで見るとアップルの企業価値を
そこそこ反映していると感じませんか?
当然ながら、それでも【主観的価値】の影響が残っているので、
このスパンでも【価格】と【価値】は一致しません。
ですが、短期的な動きと比較することによって、
【価値】の盛衰と【価格】の変動をわけて考えることが出来るようになります。
実際に取引する際には、
もっと長いスパンや短いスパンでも見るべきです。
僕の場合は、可能な限りの最長スパンは必ず見ますし、
10年、5年、3年、2年、1年、6ヶ月、3ヶ月、1ヶ月、5日、1日
これらのスパンはだいたいすべて見ます。
そうすることで、短期的な動きに騙される確率は大幅に減ると
僕は考えています。