コロナの外出制限によって、大きな痛手を受けた業界の1つが観光業です。

 コロナ後は順調に回復してきたものの、地方の旅館などは深刻な人手不足に陥っています。

 この地方の苦境にビジネスチャンスを見出したのが、“おてつたび”です。

 

おてつたび

https://otetsutabi.com/

 

 おてつたびのコンセプトは、「現地で働きながら旅ができる」というもので、応募者にとっては、「単なる旅行だけでは触れ合うことのできない、地方の人と交流できる」というメリットがあります。

 受け入れ側の地方にとっても、観光シーズンなど、必要な時だけ、必要な人員を募集できるという利点があり、観光業だけに限らず、農業や漁業などの募集も掲載されています。

 

 こうした募集形態は、冬のスキー場など、昔からありました。いわば、その拡大版がおてつたびだと言えますが、実際は求人サイトでありながら、地方での体験を全面に押し出した点に特色があります。

 

 サイト内の体験記を読むと、自分探しをしたい若者や、モノを持たないミニマリストだけに限らず、50代や60代といった、早期リタイア希望者の需要をも取り込んでいるところに、現代の世相を反映しているように思います。

 募集を渡り歩けば、家を持たずに生活することも可能になるかもしれません。

 

 こうした、ある種のノマド的な生き方・働き方は、かつての日本人が当たり前に思ってきた「正社員になって、世帯を持って、家や車を購入して…」という、所有することを前提とした生き方とは、真逆のものだと言えるでしょう。

 

 もともと、体験にお金を払うのが旅行ですが、円安とインフレによって、実質賃金が低下し続けている日本人にとって、すでに旅行は贅沢品になりつつあります。言ってしまえば、“リアルな体験”という名の労働が、おてつたびの本質なわけです。

 

 もちろん、おてつたびをポジティブに活用することは可能ですし、サイトには、地方移住を成功させた事例がたくさん掲載されています。

 しかし、個人的には「一体、いつから日本は、人々に上を目指すことを諦めさせる社会になってしまったのだろう」という、一抹の寂しさを感じずにはいられません。

 

 実際、今の日本の人手不足は、すでにおてつたびだけではどうにもならないくらい深刻な状況になっています。地方の旅館などに限らず、企業の99.7%を占める中小企業などでも同様で、あらゆるところで人が来ない・雇えない時代に突入しつつあります。

 これまで有史以来、伸び続けてきた日本の人口が本格的に減少に転じて、いよいよその変化が実体経済に影響を与えるまでになってきているということです。

 人口減少問題は、今後、あらゆることに付いて回るでしょう。

 

 いずれにせよ、おてつたびが新しい需要を掘り起こしたのは間違いありません。こうした動きが、地方再生の一助となることを願います。

 

俣野成敏


 

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