高速道路の中央フリーウェイなどを通っていると、同一の歯科医院の看板広告をよく目にします。院長の顔写真を大々的に掲げたインパクトのある広告を、あなたもどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。

 実は、あの広告はインプラント専門のきぬた歯科が出しているものです。

 

西八王子のきぬた歯科 広告費は年間「フェラーリ5台分」?!

https://business.nikkei.com/atcl/plus/00037/050900001/

 

 上記の記事通りであれば、毎年、おそらく億を超える金額を、チェーン展開もしていない一歯科医院が、看板広告に注ぎ込んでいることになります。

 

 そもそもきぬた歯科が、大量の看板広告を出すようになったのは、2012年、NHKが「粗悪な業者がひしめくインプラント業界」の特集番組を放映したことがきっかけでした。

 この番組以降、売上激減に困った院長は、顧客に取っていたアンケートを分析してみました。すると、お金をかけていたネット広告よりも、看板広告のほうが、効果が高いことに気づいたのです。

 

 今では、日本全国に300枚以上を掲げているという、この看板広告によって、きぬた歯科は一躍有名になりました。現在は、その知名度を活かして、院長がビジネス書を出版したり、テレビなどのメディアにも度々出演したりしています。

 

 なぜ、これだけ広告にお金をかけていながら、きぬた歯科は多店舗展開をしないのでしょうか。この疑問に対して、院長は「インプラントは技術職のため、医院を増やすのは難しい」といったことを述べています。

 

 歯科医ではありませんが、実際にチェーン展開をして成功している一例が、以前、私も加盟店オーナーをしていたDr.ストレッチです。

 

 Dr.ストレッチを出店すると、最初は予約がさばき切れないくらいお客様がやってきます。だからといって、すぐ近くに2号店を出したりしたら、カニバリゼーション(共食い)になってしまいます。

 そこでDr.ストレッチが採っていたのが、「行列を解消しない」ことでした。

 

 Dr.ストレッチの戦略とは、「行列はそのままにしておいて、別の商圏に出店する」ことです。こうすれば、カニバリゼーショも起きませんし、行列がチェーン店全体の評判を高める効果をもたらします。

 その根底にあるのは、「そもそも繁盛している商売は取りこぼしがあるものだ」という前提です。取りこぼしている顧客に目をつぶることで、余計な設備投資を抑えつつ、その分を人への投資に回して、サービスの質を高めているのです。

 

 先のきぬた歯科に話を戻すと、昨今、人々の口腔内に対する意識が向上するに従い、インプラント患者の数も減ってきていると言います。すでに飽和状態にある歯科医院も、今後は統廃合が進むことが予想されます。

 

 きぬた歯科の看板広告からは、小規模事業主が縮小していくマーケットの中で、リスクを最小限に抑えつつも、古典的なマーケティング手法を駆使した生き残り戦略であることが見えてくるのではないでしょうか。

 

【参考文献】

デイリー新潮Web版:2022年9月1日、他

 

俣野成敏


 

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『俣野成敏の「サラリーマンを『副業』にしよう」実践編』

https://www.mag2.com/m/0001673621