1994年。25の僕。真夏。自宅の暑い部屋。鏡に向かい、汗だくになってギターを弾いて歌を歌う。比企さんは言う「成瀬の音程の悪さがフォートリのデビューできひん原因やな」ボイトレに通う。

 

吉本の同期で、先にメジャーデビューした、ダイナマイトメーカーの雑誌記事を、三ノ宮のジュンク堂で立ち読みする。ページを閉じ舌打ちをする。外に出ると、空に大きな月。やばい。30までにデビューできへんかったら俺、どないして生きて行ったらええんやろ。

 

機材車として買った、ボロボロのハイエース。ラジオから橘いずみちゃんの歌が流れる。10代の終わりの神戸、オーディションで会った彼女とは別人。スターのオーラを纏ったシャウト。「あなたは失格!」。バイト先のCD屋で彼女のアルバムが飛ぶように売れてゆく。そして、同じ年代のバンドたちが次々とスターになって行く。ミスチル、スピッツ、L⇔R、シャ乱Q 、エトセトラ、エトセトラ。

 

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僕たちFOUR TRIPSは演奏力強化のため「ブー丸」という名の女性キーボードも参加して、5人になっていた。執拗に練習を重ね、酒を飲んでは夢を語り、愚痴をこぼし、他のバンドの悪口を言い(笑)、2丁目劇場とライブハウスで経験を積んだ。空いた時間はハードなバイトをこなしてた。収支は絶望的にマイナスだったよ。

 

一つの転機があったんだ。「WONDER」という曲が出来た(この曲は後に数奇な運命を辿り、僕たちのデビュー曲になる)ある日、鏡に向かって歌の練習をしている時に、不意に言葉とメロディが口をついたんだ。

 

~間違った恋だった 駄目にした月日は放り投げよう 乾いた風へ~

 

キャッチーだけど相当に危険なラインだとすぐに感じた。売れ線すぎると感じたんだ。メンバーに受け入れられるだろうか。

 

スタジオでメンバーに聴かせた。案の定、意見はまっぷたつに別れたよ。ブー丸が「私はこの曲はやりたくない」と主張した。「この曲をやるくらいなら辞めます」「ダサい」とまで言われたね。ひでえこと言うなぁ、まったく(笑)ドラムの初田は「ブー丸に辞められるのは痛いよ」と、最後まで抵抗した。そりゃ痛いさ。ブー丸のライブでの貢献は大きかったからね。

 

 

 

 

しかし僕は「WONDER」に賭けると決断した。ブー丸には辞めてもらってバンドは4人に戻った。心機一転、マッシュルームカットだった髪型を超ベリーショートに切って、「WONDER」を2丁目劇場の芸人目当てのお客さんの前で初披露したんだ。

 

結果は上々だった。吉本では毎日お客さんにアンケートをとっていて、僕らもそれを見る。「WONDER」も新しい髪型も(笑)好評だった。”あのダサかったフォートリが今日はイケてました”って感想があった。絶対一生忘れない(笑)

 

「Lマガジン・サウンド・ダイナマイト」というコンテストに出場し、下馬評を覆し僕たちが優勝した。曲は「WONDER」Lマガと言えば関西では「ぴあ」と並ぶ程の影響力のある情報誌。僕らの前後の年はタートルズやCURIOの前身バンドも優勝してる由緒正しいコンテストなんだよ。

 

そこでソニーの新人発掘部門SDのスタッフとの繋がりを得る。ソニーからのデビューを視野に入れつつ、バンドを育成してゆきましょう、というもの。吉本では「干されバンド」街道まっしぐらだったから、渡りに船だったね。SDも尾崎豊さんやバービーボーイズ、ユニコーンなど、ここを通らずにメジャーデビューする方が珍しいくらいのスカウティングチームだったからね。もちろんすごく嬉しかったよ。

 

僕のソングライティング力も、ゆっくり階段を上っている感覚があった。ある日「リトル・ヒットラー」という曲が出来た。ニック・ロウの曲名にインスパイアされて書いたんだ。すごくストレンジだけど、キャッチーな曲になった。この頃は、60年代の西海岸のバンド「LOVE」なんかにハマってて、変な曲を作るのが好きだったんだ。この「リトル・ヒットラー」と「WONDER」を収録したデモテープが何故か回りに回って、東京の伊藤銀次さんのところに辿りついた。

 

銀次さんはまず「リトル・ヒットラー」というタイトルを見て「面白いやつらだ」と感じてくれたらしい。曲を聴いてすぐに電話をくれた。僕は伊藤銀次さんから電話だぞと言われても、何のことかわからずに「はあ」って感じだった。だってあの、憧れの銀次さんだよ。ナイアガラトライアングルの!佐野元春 withザ・ ハートランドの!にわかに信じられるかい?

 

「伊藤です、とっても良かったよ!」「え、ああ、ありがとうございます…」「君たちに会いに、神戸に行くよ!」「あ、ええ、はい、どうぞ…」ってな感じで。今思えば「いいとも~!」と答えたら良かったのかもしれないけど(笑)

 

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いつも読んで頂いてありがとうございます。

成瀬英樹

http://www.hidekinaruse.com

 

 

銀次さんから見たストーリーがこちらに記録されています。

https://ameblo.jp/ginji-ito/entry-11600659466.html

 

 

 

Live Information 1

2018年12月10日(月)
「成瀬英樹・生誕50祭 / ヒデキ感激!ナルーソニック!」

出演:
成瀬英樹
スペシャルゲスト:
石田ショーキチ
黒沢秀樹
榊いずみ
SOWAN SONG
etc.

下北沢 風知空知
時間:開場18:30/開演19:30
料金:前売り¥2,800/当日¥3300
(共に+1Drink600円)

風知空知メール予約のみ(先着受信順整理番号付き)
●メール予約:風知空知 yoyaku@fu-chi-ku-chi.jp
*ご希望公演名、お名前、枚数、ご連絡先電話番号をご明記の上、お申し込みください。