1993年から94年くらいの話だ。僕は25歳あたりか。

 

2丁目劇場って狭い楽屋が2つしかなくて、必然的に一つは芸人用、もう一つはバンド用になっていた。芸人用の楽屋に先輩格が入ってしまうと、他のほとんどの芸人は階段で座り込むか、廊下でネタ合わせするか、ひとつ上の階の事務所で油を売るか。

 

La La Laのたむけんさんが「なんでバンドの奴らが楽屋を一個占領するんじゃい!」みたいに怒っているのを聞いたことがある。事務所のソファーで芸人達がナイター観ながら出番待ってるのも、いつものことだった。メッセンジャーの黒田さんはよくそっちに居た。

 

中川家なんかも廊下でよくネタ合わせをしていたなあ。

 

 

 

 

そんな感じだったから、芸人達からのアウェー感はすごくあった。彼らの「なんで俺たちがバンドのやつらと一緒にステージに立たなあかんねん?」という圧力を感じた。俺らにいうても知らんがな。そんなん、こっちが訊きたいくらいや(笑)

 

FOUR TRIPSは、少なくとも最初の頃は運営に推されていた。バンドは全部で25組ぐらいいたけど、毎回のお客さんのアンケートの結果によって出演が増えたり減ったりしていた。僕らは週1回は出させてもらえていたから、まあまあだったんじゃないかな。

 

出番が終わって、劇場の横に車を止めて、楽器を片付ける。最初の頃は声をかけてくれるお客さんなんて、一人とか二人いればいい方。それが少しずつ、「よかったです」と言ってもらえるようになり、少しずつデモテープが売れるようになり。ファンレターももらえるようになり。少しずつだけど、それはものすごく励みになった。

 

いろんなレコード会社の人もよくライブに来てて、デビューさせるべきバンドを探していた。同期のバンドでは、冠徹弥が「So What?」で出てた。後に「brats on B」になる「今週の山田太郎」や「DYNAMITE MAKER」、「Peek A Boo」などがデビューを目指してしのぎを削っていた。みんな個性のあるいいバンドだったよ。

 

最初から運営に推され、デビューが決まったのは、DYNAMITE MAKERだ。「なんであいつらが先にデビューすんねん!」っていう気持ちはあったし、それが思いっきり僕の顔にも出てたみたい(笑)でも、ボーカルの平本はいい男でね。歌唱力もあったし、観客動員力もあったから、納得できる面もあった。それに彼らは芸人達と仲が良くてね。特に千原兄弟とはよくつるんでる感じはあったよ。

 

FOUR TRIPSに最初に声をかけてくれた芸人はほっしゃんこと星田英利さん。「僕、好きですよ」ってボソっと言ってくれた。矢野・兵動の矢野さんはわざわざ出番終わりに楽屋まで来て「自分ら、杉真理さんみたいやなあ、僕めっちゃ好きやで」と嬉しいこと言ってくれてね。

 

ベイブルースの河本さんと、一度だけ酒の席で一緒になった。彼はすでに売れっ子だったけど、バンドのことも密かによく見ててね。いろんなアドバイスをいただいた。特に歌詞について話した記憶がある。

 

河本さんは、そのすぐ後に突然亡くなってしまったんだ。僕と同い年だったし、本当に悲しく、いたたまれない気持ちになった。

 

メジャーデビューへの焦りはどんどん強くなっていた。ドラムの初田はバンドのために大学を休学していたしね。ベースのTは大学に在学中で将来は税理士になるつもりでいた。吉本で仕事するようになり、僕らが「プロでも行けるんちゃう?」って思い始めた時に、Tが「税理士試験の勉強を始めたいのでFOUR TRIPSをやめます」と言ってきた。

 

「今は大事な時だからもう少しいてくれ」と説得を続けていた。今思えば勝手なことを僕は言っていた。でもね、Tは上手かったし、人気もあった。辞めらられたら困るんだよ。そんなTは律儀な男だから自分の後釜を自分で探してやめるつもりでいたんだ。何人かTが連れてきたベーシストとセッションしたけどTに敵うやつもなかなかいなかったからね。Tにバンドをずるずると続けさせてしまっていた。

 

そんなある日、WA CHA CHAの出番が終わって、エンディングの挨拶に舞台に出ようと思ったら、Tがどこにもいなかった。楽屋の机に置き手紙があり、「すみません、今日でやめます。面と向かって言えませんでした」と別れの手紙が書いてあった。逃げよってん(笑)落胆した僕ら3人がしょんぼりとエンディングに出て、終演後、支配人の比企さんに「ベースが逃げました…」って報告したら、「スッポン食いにいこか!」って。スッポン食べながら励ましてくれたよ。

 

それでも出番はあるし、ステージに穴は空けられない。Tが連れてきたベーシストで一人使えそうなのがいたのを僕ら覚えてた。それが池田憲彦という男で「Tが逃げよったから、すぐにうちに入ってくれへんか?」と連絡を取ったんだけど、「ウ~~~~~ン」としか言わない。「もうちょっと、もうちょっとだけ考えさせてください」と言って、なかなか返事をくれなかった。

 

最初はひどく無口な印象でね。数日後「やりましょう」と連絡をくれた時はホッとした。「あんなにじっくり考えて入ったんやからかそう簡単に辞めんやろ」と僕は思った。池田は加入後、大活躍してくれたし、あっという間に人気者になったね。独特の魅力がある男だった。

 

 

 

 

 

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Live Information 

2018年12月10日(月)
「成瀬英樹・生誕50祭 / ヒデキ感激!ナルーソニック!」

出演:
成瀬英樹
スペシャルゲスト:
石田ショーキチ
黒沢秀樹
榊いずみ
SOWAN SONG
etc.

下北沢 風知空知
時間:開場18:30/開演19:30
料金:前売り¥2,800/当日¥3300
(共に+1Drink600円)

風知空知メール予約のみ(先着受信順整理番号付き)
●メール予約:風知空知 yoyaku@fu-chi-ku-chi.jp
*ご希望公演名、お名前、枚数、ご連絡先電話番号をご明記の上、お申し込みください。