戦場のクリスマス 7 | 一期一会

一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

    7


 ミサトはいっこうに進まない時計の針を再び見つめて、早く交代時間にならないかと時計を見やる。けれど、時間はほとんど変わらなかった。
 うらめしく時計を眺めるのも何十回目となった時だった。誰かが病院の玄関ドアを激しく叩く音がした。急患かと急いでドアを開けてみると、そこには、頭からつま先まで、ぐっしょり濡れた軍人が立っていた。
「ここにアンドリュー・リトルはいるか?」
 軍服の上に合羽を着ているものの、冷たく体に刺すような鋭い雨を全身に受けた軍人は厳しい顔でミサトを見据えたまま尋ねた。
「ええ……。彼がなにか?」
「アンドリュー・リトルに逮捕状が届いている。ここに運び込まれたと報告が入たのだが、本人をすぐに連れて来い」
 軍人は合羽を脱ぎもせず濡れた身体のままドアを大きく開き、床が濡れるのもおかまいないしに、部屋の中まで入ってきた。
 ミサトはそれを聞いていきなり目の前が暗くなった。
逮捕状だって?
アンドリューさんに?
「あの、何かの間違いではないでしょうか? いきなり逮捕と言われても。彼は確かにここにいますが今は患者としてこの病院に入院していますので。すみませんが逮捕令状を見せてもらえますか?」
軍人は「うむ」と納得したように低く返事をすると、濡れないように懐にしまっていた紙包みをミサトの前につきだした。
 ミサトはそれを受け取ると封筒に入ったそれを目の前で広げて読んでみる。見ると確かに逮捕状の名目でアンドリュー・リトルの名前が書き込んであり、慌てて文面を眼で追うと、その理由に『スパイ行為の疑い』と記されてある。
(スパイ行為……?)
「居るのなら、早く連れてこい。でないとお前も一緒に連行する事になるぞ」
 軍人は固まったままのミサトから逮捕状を奪うと、ミサトを無視して部屋の奥へと入っていく。他の当直の医師が、騒がしい様子を察してすぐに駆け寄り軍人に対応すると、何も知らない別の新米の医師はそのままアンドリューのベッドを案内しようと廊下を先導していた。
「待ってください! 何かの間違いでは?」
軍人はミサトのその言葉が耳に入っているのにも関わらず無視して先導する医師の後を追う足を休めない。
「すいません、きっとそれは間違いです!」
 ミサトはすでに消灯時間を過ぎているのにもかかわらず大声を張り上げた。廊下の先を進む軍人の足を止めようと軍人の肩を止めたが、ミサトが肩にかけた手を簡単に振り払い、「邪魔をするな。でないとお前も連行するぞ」との捨てセリフを言うと軍人は薄暗い廊下を進んでいった。
(そうだ、こうしている間に、アンドリューさんに早く知らせないと!)
 ミサトは何かの間違いであって欲しいと心の奥で願いながら、頭の中ではどうしたらアンドリューを救えるのか考えをめぐらす。
 けれど日頃から横暴な軍のやり方を見ているミサトは、一度連行さえたらそう簡単には釈放されない事も重々承知している。
 どうやったらアンドリューを軍に連行されずに済むのかミサトは考える暇もなく、思いついたアンドリューを救い出す唯一の方法を実行するため、迷わず急いで裏庭に出た。


to be  continued……