【新連載】 LOVE PHANTOM     1 | 一期一会

一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

LOVE PHANTOM



 1




「ねえ、ねえ、ばあや。今夜も怖いお話してくれる?」
まだ幼いレオナルドはシルクの寝間着に着替え終わると、邪気のない蜂蜜色した瞳を乳母に向けて、そうお願いした。
「レオ、お前またそんな事言って。怖い話なんか聞いたら、夜中トイレに行くとき一人じゃいけないクセに」
レオナルドより一つ上の兄、ウィリアムは、寝間着に袖を通しボタンを一つずつはめながら、弟の『お願い事』に文句をつける。
「兄ちゃんは聞きたくないの?」
「そりゃ聞きたいけどな。だからと言って、お前がおねしょするのはカンベンだからな」
「ボク、もうおねしょなんてしないもん!」


十九世紀初頭、イギリス。
ウィリアムとレオナルドの一家は、保養地の一角に新しい別荘地を購入した。
夏のバカンスを家族と過ごそうと、父ホーエンハイムは体の弱い母トリシャと子供二人を連れて、この別荘へやってきた。
恵まれた自然と、親切な土地の人々の世話もあり、幼い兄弟はすっかりこの別荘が気に入っていた。
体の弱い母に変わってレオナルドが生まれた時から世話をしている乳母が、たまたまこの土地の出身と言う事もあり、ここにやってきてからは寝る前に乳母が知っている昔話を聞く事が幼い兄弟の楽しみの一つになっていた。
「お前がトイレに行く度、起こされるのは嫌だからな」
「いいもん。ボク一人でトイレぐらい行ける!」
「嘘つけ!」
「もう、嘘じゃないって」
「おい、コラ、兄ちゃんを殴るなよ」
くすくすくす……。
まだ舌ったらずな幼い兄弟が、いつもの痴話喧嘩を始めると、側でそれを聞いていた乳母は笑いをこらえきれず肩を振るわせ笑った。
「まったく困ったおぼっちゃま達だこと」
「ねえ、ねえ。早く話して!」
「そうですか? レオナルドお坊ちゃまがおねしょが大丈夫だと言うのなら、このばあやがとっておきのお話をしてあげます」
「「とっておきのお話?」」
 昔話は迷信だと、あまり興味を持たなかったウィリアムも『とっておき』の言葉には、さすがに反応を返す。
「そうでございます。これはとっておきのお話です。なにせお話に出てくる主人公も、おぼっちゃま達と同じお名前なのですから」
「ボク達と同じ名前なの?」
「はい。ウィリアムとレオナルドのお話ですよ」
「ばあや、聞きたい!早く聞かせてくれ!」
「はいはい。良い子で寝てくれると約束してくれるのなら、して差し上げます」
「うんうん。約束する」
 ウィリアムとレオナルドは天蓋付きのベッドに行儀良く並んで身を沈めると、金色の瞳をきらきらさせながら乳母の話を待った。
「では、おぼっちゃま。お話してもよろしいですか?」
「してして!」
「おう、いいぞ」
 乳母は静かに話し始めた。



to be  continued……