【BL小説】room number 213 ルーク・クリフォードsode 39 | 一期一会

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本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

<ルーク・クリフォードside>


39


 兄さんが出張してもうすぐ二週間が経つ。
東京で一緒に暮らし始めてから、こんなに長い間逢わない日はなかった。
ボクが東京に出てくる一年間は別々に過ごしていたのだから、二週間なんてあっと言う間だと思っていたのに、案外そうでもないと気づく。
兄さんはボクに気遣って、出張中も毎日国際電話をくれた。
電話の声は元気そうで、まるで隣で話しているように聞こえるのに、実際は逢いたくても逢えないところにいて、手を伸ばしても届かないのだと思うと、なんとなく切なくて仕方がなかった。
逢えない時間が愛を育てるというのは、陳腐な歌の歌詞なんかでもよく聞く台詞だけれど、案外間違いじゃないなと思ってしまうあたり、ボクも相当センチメンタルになっているのかもしれない。
いいや、センチメンタルとはちょっと違う。うまく自分の気持ちを言えないけれど、胸騒ぎというか、嫌な予感みたいなものが胸の片隅にできていて、それが日増しに大きくなるのを否めなかった。
最初はきっとルカさんの事もあったし、なんとなく兄さんも、ルカさんをまんざらではないと思っていたようにみえたから、ボクの知らないところでもしも二人が逢っていたら……なんて心配もしたけれど、出張先から毎日かかってくる兄さんの電話の声を聞いて、それは思い過ごしだろうと確信を持った。
そろそろ兄さんから電話が掛かってくる時刻だ。
日によっても違うけれど、いつしかボクは兄さんからの電話を心待ちにしていた。
だが、今日はまだ電話がない。
そろそろニューヨークの時刻でいうと、夜中の二時になる。疲れているのだろうか。必ず電話をすると約束したわけではないし、次の日の飛行機で日本に向かう予定だと聞いていたから、いろいろ準備で忙しいのかな。
でも……兄さんの声が聞きたい。
たまにはボクから電話をしてみようかとも思ってみたけれど、夜中の二時ならきっと寝ているだろう。
ボクはなんとなく嫌な気持ちになるのを、無理矢理ねじまげてもうすぐ逢えるのだからと自分自身に言い聞かせて過ごすしかなかった。



 今日は兄さんが帰国する日だ。
ちょうど大学院の講義も、研究も半日で終わる予定だったから、ボクは大急ぎでマンションに帰宅して、部屋を掃除し、兄さんの大好きなクリームシチューを作りはじめる。
あと何時間かすれば、兄さんと逢える。
兄さんが帰ってきたら、一緒に食事をして、お風呂に入ってもらって、それから……。
そう考えると、なんとなく顔の筋肉が自然とゆるんでくる。きっとボクの今の顔を見た人は、変態だと思うに違いないなと、一人でツッコミを入れながら、ボクは冷蔵庫にワインを冷やし、お風呂掃除もして万全な体勢で一刻も早く兄さんに「お帰りなさい」といいたくて準備に余念がなかった。


 ようやくシチューも出来上がった。まずまずの出来映え。これなら兄さんもきっと喜んでくれるだろう。
なんとなく手持ちぶさたになったボクは、兄さんに逢いたいとはやる気持ちを抑えながら、テレビにスイッチを入れた。
リモコンを片手に、なにか面白そうな番組はないかとチャンネルをまわすが、あまりボクの興味を示すようなものは生憎なかった。仕方なしに今流行だという韓流ドラマの再放送にチャンネルを定め、なんとなく画面を見つめていると、突然、大きなチャイム音と共に、緊急ニュースのテロップが流れ始めた。
一体、何のニュースだろう?
ボクはそっちに気をとられ、ぼんやりと眺めていると、「飛行機墜落事故」の文字が流れる。
飛行機事故?
一瞬、全身がビクリとして、画面から目が離せない。
まさか……。
なんとなく嫌な予感がよぎる。
じっと、食い入るように画面を見ていると、次にボクの目にとまったのは「ニューヨーク発 ○時○分発、XXXX航空、太平洋日本沖約150キロ付近地点で墜落」の文字だった。
何度もテロップが緊急音と共に繰り返し流れる。
ボクは兄さんが出発する前に渡されたメモを思いだし、慌てて対面式キッチンのカウンターテーブルの端にあった紙切れを手に取った。
その紙には、出発便、帰国便、宿泊する予定のホテルの連絡先がかいてある。
ボクはドキドキする心臓をおさえつけながら、確認すると、メモには繰り返し流れるテロップの文字と同じだった。
嘘だ!
きっとこれは何かの間違いだ。
もしかしたら、兄さんはこの飛行機に乗っていないかもしれない。
ボクは手のひらが白くなるまで握りしめ、自分にこれは何かの間違いだと言い聞かせていると、突然電話のベルが鳴り響いた。
もしかしたら兄さん?
慌てて受話器を取ると、知らない女の人の声だった。
「もしもし?こちらはXXXX航空日本支店の者です。ビリー・クリフォード様のご自宅はこちらでしょうか?」
ボクは心臓をバクバク言わせながら、返事をする。
「……はい」
「実はビリー・クリフォード様のご搭乗された飛行機なのですが、墜落した模様でして……」
その後の言葉はよく覚えていない。
気がつくと電話は切れていて、TV画面がいつのまにか韓流ドラマから緊急速報ニュースに代わり、ニュースキャスターの男性が、熱っぽく飛行機事故の事を語っていて、搭乗した邦人国籍名の一覧表が流れていた。


to be  continued……