<ルーク・シュヴァルツ side>
28
部屋にもどった僕は、曲の続きでも書こうと一旦ギターを握りしめたが、ビリーさんが寝ていると思うと、ギターを弾く事も躊躇われる。仕方なしにベッドに横になり、曲のイメージを考えようとしたが、目を瞑ると、ビリーさんと交わした口移しのことを思い出して困った。
僕はそっと自分の唇に手を触れた。
何度も何度も、水が欲しいと、ビリーさんは僕の唇をむさぼった。あれは単に水が欲しくてそうしただけなのだが、ビリーさんを想う僕にとっては、十分すぎるほど、魅力的で衝撃的な出来事だった。
今思い出しても、心臓がどきどきする。
ビリーさんの濡れたピンク色の唇。
ちらりと見え隠れする柔らかい舌。
少しずつ口移しで与える水に満足できない彼は、自分からも僕の唇を求めた。
けれど、あれは僕とルークさんを間違えて起こした行動だ。
それを考えると、胸が締め付けられるほど苦しかった。
苦しくて……苦しくて……思わず涙がこぼれ落ちる。
人を好きになることが、こんなにも苦しいことだとは思わなかった。
こんなに苦しい思いをしなくちゃならないのなら、ビリーさんを好きにならなければよかったのに。
けれど……自分ではこの気持は止められない。
きっと人を愛するということは、こんな感じなのだろうな。と、流れた涙を拭いた時だった。誰かが僕の部屋をノックする音が聞こえた。
きっとルークさんだろう。買い物に行ったにしては随分早い帰宅だ。
「ルカ。……ちょっといいか?」
この声は……。ビリーさん?
「ええ。どうぞ」
僕は急いでベッドを起きあがると、涙の跡がばれないかと気をつけながらドアを開いた。
「起きてきて大丈夫なの?」
「少し疲れているけど、心配ない。それよりちょっと話があるんだ」
「話?」
「ああ」
「よかったら僕のベッドに……」
僕は気をつかってそう促すと、ビリーさんは黙って頷き、僕のベッドに腰掛けた。
「お前、お見舞いに来てくれただろ?」
「え?」
もしかして、ビリーさんは覚えていてくれたのだろうか? ビリーさんの言葉を聞いて、僕は急に胸が高鳴った。
「水を飲ませてくれたのは、ルカだよな?」
一瞬、僕はどう返事をしてよいものか悩む。
「そうです。僕です」と言えるなら、どんなにかいいだろう。けれどそう返事をしてしまうと、口移しで水を飲ませたことを思い出して、僕は真っ赤になった。
「違うか?」
ビリーさんが尋ねても、僕はすぐに答えられなかった。
もし、「そうです」と答えても、あれは単に水を飲ませたくて行った行為なのだ。何も恥ずかしがるものではない。
キスをしたのではないのだからと考えると、余計に心臓がバクバクして自分でもわかるくらい顔が赤くなるのがわかる。
ビリーさんがあの時の事をもし覚えていても、彼にとってただの同居人である僕に対してきっとなんとも思わないはずだ。
ただ一言肯定すればいい。
挨拶をするくらいの気持でさらりと言ってしまえばいいだけなのだ。
だが、なぜだが僕にはそれができないでいた。
to be continued……