第五章
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とうとうコンクールの日がやってきた。
学園内の学生が皆意気揚々とし、興奮しているのがわかる。それはホールに集まった参加者にはたまらない刺激となり、度をこして必要以上に緊張してしまう輩も多くいた。
「アルフォンス。しっかりな」
「あまり気負いすぎるな。いつものように弾けばいい」
「はい」
オスカーとルイズが、控え室にいたアルフォンスの激励に来てくれた。
正直、ここに知っている顔があるというだけで、アルフォンスはありがたかった。控え室は他人はみなライバルだという殺伐とした雰囲気が充満していて、それだけで歳下のアルフォンスは飲まれそうになる。
「次はアルフォンス・シュバッツさん」
アルフォンスの順番はまだ先だが、プログラム三番先ほどで名前を呼ばれ、舞台の袖で待機するように言われている。
「はい。今行きます」
「客室から応援してるぞ」
オスカーとルイズは、アルフォンスを見送った。
アルフォンスが舞台の袖に用意された椅子に腰掛けると、二つ手前の椅子にあの学生が座っていた。フランツだ。彼は緊張しているのか、片足を床に着けたまま、貧乏揺すりをしていた。
ライバル視していたオスカーはここにはいないというのに。
自分より年齢も上、きっと今までにコンクール経験もアルフォンスよりもたくさんあろうかという学生が、ここまで肝の小さい男なのかと思ったら、アルフォンスは少しおかしくなった。
不思議と緊張が解けてきた。この男だけには負けたくない。あんな卑劣なやり方でオスカーを陥れたヤツだけには。
……オスカー、絶対、約束を果たすよ。
アルフォンスは静かな闘志を燃やしていた。
「次の演奏は、百十六番。アルフォンス・シュバッツさん」
アルフォンスは思った以上にリラックスして、自分の順番を迎える事ができた。
名前をよばれ、舞台中央へ歩いてお辞儀をする。
曲目は課題曲のシューベルト作曲、ピアノソナタ第十六番イ短調。アルフォンス鍵盤の上に手を構えると、いつものように落ち着いた態度で弾き始めた。
悲壮感のあるメロディだが、アルフォンスは丁寧に音を奏でた。どんなに小さく弾いても、会場中の隅々まで音が届く。バランスのとれたタッチは、音の強弱の差があればあるほどよくわかり、聞いているものが思わず見入ってしまう。集中して音を大事にしている姿勢は、誰もがアルフォンスに好印象を与えた。
to be continued……