第一章 5
「いわゆるイジメと言うヤツだろう。時々あるようなんだ。君も知り合いならオスカーのことが少しわかると思うけど、オスカーは編入試験でこの学校に入って来た。ピアノの腕も、成績も学内一位。それを面白く思わない輩が、集団で講師や学校側にわからないようにイジメているらしい。オスカーもオスカーでね。オレに相談してくれればいいものの、それは絶対にしてくれない。負けん気の強いヤツだから絶対弱音は吐かないし、一人で反抗しているようなんだ。いじめられてバツが悪いと、家には戻ってこなくて、オレの知り合いの店に身を寄せているようなんだけど」
マーロウは、オスカーに対する今までの不満を一気に吐き出すように言うと、うんざりとした顔をした。
「そうなんですか」
アルフォンスは相槌を打ちながらも、心の奥底では、安堵していた。
よかった。マーロウはオスカーの怪我には関係していない。
それにしても、マーロウの知り合いの店と言うのは、もしかして自分がアルバイトしている店なのかもしれない。だが、バレると都合が悪そうなので、アルフォンスは黙っておくことにした。
それにしても、マーロウのあの怪我は、ただ事ではない。しかも日常的に負わされているのならば、余計に黙ってはおけなかった。
「マーロウさん、知っているならどうにかしてあげてください」
「もちろん、私もどうにかしたいと思っているさ。でもオスカー本人が、自分は小さな子供じゃないし、事を大げさにしたくないってオレが出て行くのを嫌うんだよ。それに相手も馬鹿じゃないから、なかなか足跡を残さない。オスカーは正々堂々とピアノで勝ってやるって聞かないんだよなぁ」
マーロウは腕組みしながらしんみりと話した。
「そんな……」
酷い。そんなことがあっていいのだろうか。
アルフォンスは夕べの体の傷を思い出すと、オスカーのことが不憫でならなかった。いくら威勢を張っても、オスカーは自分とそう変わらない少年だ。しかも同世代の少年の中でも、体格は少々小さいほうだろう。それが二十歳前後の大学生が、集団で襲ったとしたら……。
アルフォンスは想像して身震いした。
「まあ、この話は本人が言い出すまでは禁句な。もしかしたらお前になら相談するかもしれない。その時は相談に乗ってやってくれ。けして悪いヤツじゃないから。じゃ、オレはこれから講義だから」
マーロウは片手を上げてそう言うと、スタスタと講堂の方へ歩いていった。
夕べの出来事は本当だった。オスカーがここの学生で、他の学生にイジメにあっているとは思わなかったが。
どうにかしてあげたいと思うが、彼はまだ自分がここの学生とは知らないはずだし、いきなり「イジメに遭ってるんだって?」と面と向かって聞くわけもいかない。
そんなことをすれば、オスカーのことだ。余計に反発するだろう。
オスカーの言う通り、ピアノの腕だけで相手を負かせる事が出来れば良いが、人と言うのは追いつめられたら何をするかわからないところがある。
オスカーも自分と同じ編入組だと聞いている。もしかして自分もいつそんな目に合わないとは限らない。
自分に何か出来ることはないだろうか。
アルフォンスは掲示板の前で、ぼんやりと考えた。
to be continued……