chapter1:イーグルF22
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「ジャクジー…気持いいですね」
沈黙に耐えかねたアドルフが、先に口を開いた。
「ああ……そうだな」
ミキは改めて先程見とれていたのがアドルフだったなどと思い返すと、目の前の彼に目を合わせるのがなんだか恥ずかしかった。
自分のほうから、声を掛けておいて、今更だろう。だが、男女別の浴槽の場所を間違ったのはミキのほうだ。自分の失点を棚に上げて、先に浴室を出ろとは、ミキの性格からしてとても言えなかった。かといって、ミキが先に出るのは、もっとできない。今のミキには、何事もなかったように、平常心を持つことが、アドルフに対しての誠意のような気がしていた。
我ながら損な性格だと思う。女だからと特別扱いして欲しくない。上官だからと、位だけで人を判断したくない。特に仕事を離れた時間であれば、なおのことだ。
「ミキさん、大丈夫ですか?顔が朱くありません?」
ミキは恥ずかしいからか、いつのまにか鼻のすぐ下まで顔をお湯につけ、目を伏せているとアドルフが心配して声をかけた。
「ああ……」
「もしかして、のぼせたんじゃ……。僕、こっちを向いているので、どうぞ先に上がって下さい」
「でも……」
「早く。……でなければ、他に男子隊員が入って来たらどうするんです?」
言われてみればそうだ。ここは仮にも男子浴室。間違って入ったのはミキのほうなので、文句も言えないだろう。
「わかった。すまん」
ミキは急いで上半身をひきあげ、「先に上がるな」と浴槽から出てみる。
「ミキさん、……おやすみなさい」
体を壁に向けたまま、アドルフが挨拶を告げる。
「ああ、お疲れさん」
ミキも前を向いたまま片手を軽く上げ、それに応じて大浴場を後にした。
「……おやすみなさい」
アドルフは、ちらりと、湯気の立つ後ろ姿を盗み見ながらつぶやいた。
ほんのりピンク色に染まった細い上半身。細いウエストから腰にかけた曲線は、女性そのものだ。長い金髪を、頭の高い位置でひとまとめにしたミキのうなじが露わになり、アドルフもつい目で追ってしまった。
綺麗な人だな。
浴室に残されたアドルフは、今日はとてもついている日だと、一人上機嫌になった。
to be continued……