我が家の「指輪物語」 | おバカな2人の二人三脚

おバカな2人の二人三脚

 ふたりで楽しいお気楽生活。 胸を張って前を向いて歩きましょ。

僕はご主人である なべの薬指に住む指輪
なべが奥さんのなると結婚した時から、ずーとそこに住んでいるんだ。
もうすぐ11年になるけど、きのうはびっくりしたよ。 今世紀最大の事件だったな。
何かというと……。

   *   *   *

もう日が変わろうとしている深夜のこと。
なべは、ベランダに出て外を眺めてた。 タバコを吸わなくなった今でも、時々そうやってボーっとするのが好きみたいなんだけど、僕としてはやめて欲しいんだ。 だって寒いじゃん。
指輪 1/4

なべも寒かったみたい。 すぐに身震いしはじめた。
「寒ぅ~!」 と言って息を吐いて手を擦った。 もともとなべの指より僕は太めだから、なべが手を動かすたびに、僕はグルグル回っちゃう。

そ、そんな勢いよく手を振り回しちゃダメだよ。
抜け……。

あ゙っ!

 
指輪 2/4
指にしがみ付く間もなく、放り出されちゃった。
ベランダの棚に頭をぶつけて、そのまま大きな弧を描いて空中へ。
ちょっと待って、ここ8階だよ。 地面ははるか下だよ!

どこまでも続く闇に吸い込まれるようだった。
ほどなく、コンクリートに激突した。 目から火花が飛ぶなんてもんじゃないよ。

こんな痛み、もうごめんだね。
そのあと、どんどん転がって、側溝の隙間でようやく止まった。
身体中痛かったし、コンクリートは冷たかったけど、そんなことは どうでもよかった。
もう見つけてもらえないんだろうなぁと思うと、とっても寂しかった。
探しに来ないだろうし、来たところでこんな広い場所じゃ、僕なんか小さ過ぎるもんね。

あぁ、寒いなぁ。
僕の人生、側溝の隙間で終わっちゃうのかなぁ。
彼女にはもう逢えないのかなぁ。
彼女っていうのは、僕の奥さん
なべとなるが結婚して夫婦ってことは、僕となるの指輪も夫婦なんだ。

寒いなぁ、痛いなぁ、逢いたいなぁ って泣いてると、遠くから懐中電灯を持った なるとなべがやって来た。 おぉー、探しに来てくれたんだ! 涙ちょちょ切れ!
でも、ここが見つけられるかなぁ。 今もぜんぜん違うところ探してるし。
文句を言ってる場合じゃない。 何かしなきゃ。
懐中電灯の光が反射するよう、僕は一生懸命背伸びした。
 
おぉーい! ここだよ!
おぉーい ここだよ!
おぉーい! ここだよ
おぉーい ここ
…… ……

だいぶ時間が経ってしまった。 ふたりは諦めて帰ろうとしていた。
指輪 3/4
せっかく探しに来てくれたのは嬉しいけど、やっぱ見つけられないよな。
残念だなぁと思うと、無性に泣けてきた。

しかし、奇跡というのは ほんとにあるんだね。
僕の涙が、遠くにいるなるの懐中電灯でほんの一瞬照らされたて、そのキラっとしたかすかな光に、なべは気が付いてくれたんだ。

「うわぁ、あったよ!」
信じられないといった感じで なべが僕をつまみ上げた。
「すごーい!」 なるも駆け寄って来た。

指輪 4/4
なべは僕をはめると、なるの指輪と並べてくれた。
なるの指には僕の奥さん。
信じられないけど、みんな元通りに揃った。

「ずいぶん傷が付いちゃったね」
なべが言ったけど、僕は大丈夫。 気にしてないよ。

そんなことより、もうふっ飛ばさないでよね。

   *   *   *

きのうの夜中の出来事です。
信じると奇跡というのは…… ほんとに起こるのかもしれません。
「絶対見つかる」 って信じて探しました。 あとで聞いたら、なるもそうだったって。

何はともあれ見つかって良かったぁ。
失いたくないものの ひとつですから。