デザイナー前田誠氏について、現物の作品をもとに語ってきましたが、とうとう(たぶん)ラストになります。
今回は「INCENSE」期のショートブルゾン。またしてもこだわりまくりのディテールです。
一見普通でしょうか?実はこれは左右どちらを前にしても使えるという、「トレンチコート」の伝統的な襟部分のディテールをそのまま生かした物になっています。
以前ご紹介したトレンチコートほどではありませんが、現在市場に存在するトレンチコートとしては、充分伝統的なディテール、デザインと言えるでしょう。
顎まで襟でカバーする為の「チンストラップ」もあります。
袖にはアジャストベルト付き。
右肩には本来は銃をかまえる時に銃床を当てる「ガンフラップ」。襟元から雨が流れ込むのを防ぐ「ウォーターフラップ」の役割もあるパーツです。
右肩のみですが、現在市場に出回っている「トレンチコート」でも、ほとんどが右側のみにしかありません。
ちなみに…。以前ご紹介した「GALAMOND」のトレンチコートでは、大型の「ウォーターフラップ」が左右についており、左右どちらからでも使えると言う、ほとんど現在の軍放出物にも見られないディテールが採用されていました。
これは襟元からの雨の流入がかなり防げる仕様となっています。しかも左右どちらを前にしても同様に使える。↓こちらは「GALAMOND」の物。
さて、しかし今回の「INCENSE」の物もこだわりでは負けていません。後ろを見てみましょう。
両肩の下に、かなり深い「イン・ボックスプリーツ」があります。さらに腰にはゴムベルトが仕込まれており、ウエストを絞りながらも、上半身の動きには充分な余裕を持たせています。
さらに襟裏にはミシンステッチを入れて補強するなど・・・。
素材は綿100%の非常に厚手のギャバジン。トレンチコートが非常に薄手だったのと対照的です。裏地もキュプラ100%。
前回のトレンチコートとはまた別の形で、「伝統的なディテールを知り尽くした上で、自身の感性で再構築する」と言う、前田さんらしい作品と考えています。