第二の人生へ悲喜こもごも。「自由契約」、「任意引退」という名の解雇通告を受けた選手が両リーグで七十七人。ユニホームを脱いだあと、新しい人生のメドが立った人もいれば、職を求めて師走の街を走り回っている人もいる。来る人、去る人…。今年もさまざまな人間模様を描いてあと一日で一年が終ろうとしている。ユニホームを脱いでも光り輝いている。定岡正二。近鉄へのトレードを拒否して十一月に巨人を退団。「まだ何をするか決めていないんだ」というのもブティック経営、甘いマスクを生かしてタレントに転向、さらに解説者と引く手あまたの状態だ。だが、すでに第二の人生に踏み出している人もいる。阪神・東はパ・リーグの審判員となって、今度はマスク越しにプロ野球を見続け、巨人・金城基、南海・金城信、広島・木原は韓国プロ野球に転向する。変り種ではヤクルト・青木がバウンドテニス会社「バウンディー・ジャパン」に就職。バウンドテニスの用具を販売しながら指導員となる。同じヤクルトの加藤正は喫茶店経営のために喫茶店学校へ通い、日本ハム・葛川は人間ドック用の医療セールスマンに転向した。日本ハム・長谷川は、故郷の福島へ帰って農場を経営。なめこの栽培を軌道に乗せるという。第二の人生へ出発。退団してすぐ次の就職が決まった選手はいい。解雇されたほとんどの選手が、仕事もみつからずに木枯らしの中で職さがしに懸命になっている。巨人、南海、阪神で活躍、3-1試合連続先発登板の記録を達成した山内新一投手も知人にサラリーマンの職場を紹介されながらとまどいを見せている。「小さいときから野球ひと筋。プロで十八年間やってきた。こんなオレにどんな仕事ができるんだ…」ワクにはめられるのが大嫌いなタイプ。それだけに平凡なサラリーマン生活に順応できるかどうか。「気持ちの整理がつくまで時間がかかりそうだ」とイライラ、モヤモヤの年の瀬が続いている。阪神・益山も苦悩の毎日だ。「不動産屋と運送会社を紹介されたけどぼくにつとまるかどうか。はっきりいって自信がないんです。でも、女房、子どものために一日も早く新しい仕事をみつけないとね…」新年早々にも面接試験を受ける決意を益山は固めた。また、一軍入りを期待されながらヒジの故障で巨人を退団した西尾は「田舎を出る時に周囲から大きな期待をかけられた。いまさら実家には帰れない」と就職先も決まらず途方に暮れている。プロ野球の華やかな社会を追い出され、人生の岐路に立った選手たちの前途はきびしい。