1988年
まずは初捕りした秦のコメントを聞いてもらおう。「日本のピッチャーはふつう、変化球は軽いんですよネ。それが重いんです。スピードも日本のエース級はあるし、コントロールも心配ないです」これがギブソンだ。神宮球場マウンド。ふだんならフリー打撃が行われ、投手陣はブルペンで調整を行うが、ギブソンは「マウンドの感触を確かめたい」と関根監督に直訴し、わざわざ貸し切ってのデモンストレーションだ。38球。26球目から中西を打席に立たせてのピッチングは、今までにいないタイプであることを証明した。真っ向から投げ下ろす90マイル(144㌔)ストレートに威力があるばかりか、その変化球が多彩。カーブ、スライダー、シュート、シンカー、ナックル、チェンジアップとまさに七色。「すべてが重い」といった秦が「あまりにも多すぎて、サインをどうしよう」と悲鳴をあげたほどだ。このギブソンを見て、関根監督がニヤリとする。「ピッチが上がってきたねえ。タマに力もあるし、スピードもコントロールもいい。3Aでいろんなマウンドも経験しているだろうから、日本のマウンドに慣れるのも早そうだネ」調整が順調にいったことも、関根監督をホッとさせた要因。五日に家族とともに来日。先週の東北ー北海道遠征には帯同せず、石岡投手コーチとともに神宮へ居残り、55球、70球、30球、休み(ホテルから渋谷・幡ヶ谷のマンションに引越し)、100球、66球と投げ込みを行っていた。またその間、バント処理を含む守備練習もこなし、石岡コーチに「何でも気付いたところを言ってくれ」と意欲的に日本の野球に溶け込もうとしている。この日、支配下登録を済ませたギブソン。その注目のデビューが、いきなりだ。きょう十四日、現役登録して即、巨人戦(神宮)に初登板初先発するというもの。「チームに貢献ができるのは、先発の方がいい」という本人の希望もあるが、「先発の方が、気分的にも負担がかかりにくい」と関根監督。おまけに、左ヒジを痛めていた荒木をもう一日間をあけ(十五日)、尾花、矢野を広島戦(十八、十九日、平和台)へ持っていきたいという台所事情もある。ギブソンは先の東北シリーズ巨人戦(七日から九日)をテレビ観戦。十分ビデオで研究して「背番号6(篠塚)が要注意だ」といい、この日夜も、甲子園で行われた阪神対巨人戦のテレビ中継に目を光らせた。「いつでもOK。体調は100%だ」

この夜のギブソンも、彼のよさであるチェンジ・アップでよく打者のタイミングを狂わせていた。