完全パラレルです。
星桃(せいとう)大学シリーズです。他の星桃シリーズ
百田さん:大学3年生
玉井さん:大学2年生
主人公:百田さんと同じバスケ部に所属するモブ1年生
今回もモブ視点となりますのでご了承を。
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今日はバスケの地区大会優勝を記念して飲み会が開催された。と言っても、飲むのは3年生の先輩だけ。
そして私の目の前で酔い潰れたのは星桃大学バスケ部のエース、百田先輩だ。
「百田にこんなに酒飲ましたの誰ー?!」
隣で少し怒り気味に叫ぶのは3年生の小林先輩、美人でクールなバスケ部のお姉さんってとこかな。
そんな先輩の声は部員たちには届かず、向こうは向こうで騒ぎ合っている。
まぁ優勝したんだもんね、これくらい騒ぐよね。
「も〜、百田は酒強くないからあんまり勧めないでって言っといたのに…あいつら…」
「ま、まぁまぁ、先輩…」
「あんただけだよ、あたしのそばにいてくれるのは」
「あ、あはは…」
苦笑いをしながら私は先輩のグラスに生ビールを注ぐ。
「にしてもよく寝てるなぁ、百田」
「百田先輩のこんな姿、初めて見ました」
「そうね、部活ではクールぶってるから」
「ぶってる…?」
確かに百田先輩はクールだ。可愛い見た目でカッコ良すぎるプレーをして、笑顔はとっても可愛いくせにツンツンしている。誰かが抱きつこうとしたならすぐに突っぱねるし、もちろん百田先輩から誰かに抱きつくなんてこともしない。
「あれ?知らない?百田ね、ある人の前ではデレデレなんだから」
「ある人……彼氏ですかっ!?」
「ぷっ、ははははは!」
小林先輩は酔ってるからなのか、いつものイメージを壊すくらい大きな声で笑った。
「ちょっ、先輩、そんな笑わなくても」
「だって、この百田に彼氏がいると思う?」
「えっ、いや…なんていうか…」
「ほら〜、あんただっていると思ってないじゃない」
「…じゃあ誰なんですか?」
ついつい気になってしまう。
「2年生に超美人な子いるの知ってる?」
「超美人な子…??」
「ほら、ミス星桃を2連覇した…」
「玉井詩織さんですか?」
「そうそう!その子が怪しいんだよね」
「ってことは…」
「そ!彼女なんだよ!」
「えぇぇぇぇ!」
「しっ!声がでかいよ」
「すっ、すみません…」
驚いた…女の子か…。
でも百田さんのあのクールさからいけば女の子と付き合うのも納得がいく。
「で、先輩はなんでその子が怪しいと思ったんですか?」
「百田が彼女からのお守りをつけてたり、彼女からのお弁当を食べてたりするのは知ってるよね?」
「はい…でもそれは友達同士でもやりますよ?」
「そうでしょ?でもこの前の大学のスポーツ祭の時にさ……」
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「百田、バスケ部の親善試合もう始まるよ」
「あっ、うん今行く〜」
「早くしてよ〜?」
「分かってるってー!」
と言いながらコートから離れていく百田。
「ったく…どこへ行くのやら…」
と1人で呟いて百田を目で追っていると、可愛い女の子の前で止まった。
そして自分のジャージを彼女の頭に掛け、顔を近づけた。
え?まさか…今…。
百田はジャージを彼女の肩に掛け直して、左手の親指を立ててグッドポーズをした。
彼女は肩に掛けられたジャージの襟元をギュッと握って百田を見送った。
「さっ、小林、勝つよー!」
気づいた時には百田は近くに来ていた。
その時の百田の顔はそれはもう綻んでいて、もう試合に勝ったのかってくらい楽しそうだった。
「ちょっ、ねえ、あの女の子って…」
「しーっ、試合に集中!」
まったく…都合いいんだから…。
でもあの子は間違いなく玉井詩織。
で、あの時、絶対……
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「き、キキキキキキ、キス?!」
「ちょっ!だから声がでかい!」
「だ、だって!!」
小林先輩の話は衝撃すぎた。
でもこの先輩が嘘を言うはずない。
「いやー、私だって驚いたよ?他に観客いっぱいいたしね?いくらジャージを頭から被ってキスしたとしても…」
なんも言えなくなってきた…。
すると、
「んんん……」
百田先輩がかろうじて目を覚ました。
「あっ、百田起きた?」
「んーー……」
半分寝てる百田先輩、なんだか可愛い。
「ねー、百田の彼女ってどんな子?」
「かのじょ〜?」
「そう」
「へへへ……」
ニヤニヤしながら百田先輩はまた寝てしまった。
「ダメだこりゃ…」
「もし付き合ってるとしても証拠が掴めませんね」
「そうなのよ、諦めるしかないか…」
「あっ、もしかして小林先輩、彼女のことで百田先輩のことイジる気ですね?」
「あったりまえじゃない!いっつもクールぶっちゃって…。去年だってあたしが彼氏に振られた時にずーっとイジってきてウザかったんだから…」
「ははは…」
小林先輩とそんな話をしていたら、誰かのスマホが鳴った。
「小林先輩ですか?」
「違うわ、これはきっと…」
百田先輩が起きて眠たい目を擦りながらスマホをタップして耳にあてる。
「どしたのぉ?」
あ、百田先輩ニヤニヤしてる。
「ニヤニヤしてやがる…」
「ニヤニヤしてますね」
「なに怒ってんの?」
電話の相手はちょっと怒ってるみたい、少しだけ声が聞こえてくる。
「怒ったら可愛い顔が台無しだよぉ」
百田先輩が…デレてるっ……!
「えっ、なに?今?」
百田先輩は顔を上げた。
「ここどこ?」
「のんべー新宿駅前店」
小林先輩が呆れながら答える。
「あ、聞こえた?そうそう、え?」
百田先輩が電話してるのが気になったのか、騒ぎ合っていた他の部員全員がいつの間にか静かにこちらを見ていた。
なになに、百田先輩の彼氏? え?マジで?とヒソヒソとみんなが話す声が聞こえてくる。
「でもも〜眠い!眠いの、迎えに来て」
急に百田さんが甘えた声色になった。
「小林先輩…まさか、あの…」
「彼女が来るわよ…ここに」
「ひゃっ、えっ、あの玉井さんがっ」
いくら女子バスケ部とは言え、玉井さんと私達じゃ天と地の差があるのは目に見える。
部員達もなんだかテーブルの上や身だしなみを整え始めた。
そうしてしばらくした後に、店員さんの声が聞こえてきた。
「こちらのお席になります」
「すみません、ありがとうございます」
現れたのはやっぱりあの玉井詩織さんで。
お酒くさい居酒屋に来ちゃいけないレベルの美しい人がきた。え?なにこの人、なんでこんなキラキラしてるのなに食べたらそんな綺麗になれるの。みんなが息を飲む。
「夏菜子、起きて」
玉井さんが百田先輩の肩を優しく叩く。
「んん……」
「ほら、もう帰るよ」
「あれ……詩織?」
百田先輩が目を覚ました。
「わざわざ迎えに来てあげたんだよ」
「詩織もなんか飲む?」
「飲まないよ、車で来たんだから」
そんな2人のやりとりをバスケ部一同息を飲んで見守っていると、
「んー詩織〜」
百田先輩は玉井さんの首に手を伸ばして抱きついた。
「夏菜子?!」
「ふふ、かわいい…」
「ちょ、ちょっと離してよ」
「いーじゃんちょっとくらい」
玉井さんは嫌そうに、それでも照れ臭そうに百田先輩を引き剥がそうとしている。
「ん〜〜詩織ぃ〜〜」
「もうっ…夏菜子っ!」
そう言って玉井さんは百田先輩の両脇に腕を入れて立たせた。そしてそのまま百田先輩をおんぶして、
「ごめんなさい、夏菜子が迷惑かけたみたいで」
と爽やかに謝って出て行ってしまった。
部員全員口を開けたまま。
「百田先輩ってあんなに甘えるんだ…」
「びっくりだね…」
「にしてもやっぱり玉井詩織さん超美人じゃない?」
「どうやってゲットしたんだろう」
なんて言いたい放題している。
「あれ?これ百田のスマホじゃない?」
「あっ!そうですよ!」
「忘れてるよ、悪いけどあんた届けてやってくれない?まだ駐車場にいると思うし」
「分かりました!」
小林先輩の命令によって私は急いで店を出て2人を追いかけた。
2人はちょうど車に乗ったところで、運転席に玉井さん、助手席に百田先輩がいた。
「あっ、百田先……」
声をかけようとした時、2人の顔が重なった。思わず塀に隠れてしまった。
もう一度覗くと、車内のドアランプが消えて2人の様子は見えなくなったけど、なかなか発車しない。
「いや……行きづら……」
ひとりでにそう呟いて、百田先輩のスマホを手に店に帰った。入り口の引き戸を開けると、聞こえてきたのは部員達の歓声。
「えー!マジでー?!」
「すごすぎ!」
「外がいい人は中もいいんだね」
「もう逆らえないわ〜」
きゃっきゃっ騒いでいる部員達が気になって、そばに立っていた小林先輩に声をかけた。
「あの、どうしたんですか?」
「私達の会計…」
「え?」
「私達の会計、あの玉井詩織が払って行ったって」
「うぇっ!?」
驚いて変な声が出てしまった。
「ぜっ、全員分ですか!?」
「そう…」
はぁ〜、ここまで完璧な人がいるのか。
しかも2人のキス…だと思うものも見てしまったし、何より幸せそうだったなぁ、百田先輩。
「彼氏、欲しいなぁ…」
無意識にそう呟いてしまったようで、目を丸くした小林先輩がこちらを見つめる。
「よし、2人でもう一軒行こうか」
「えっ、ちょちょ先輩」
小林先輩に手を引かれ、私は夜の街へ駆け出した。