今回は、衆院選について考えられる様々なケースを検討します。
1.衆議院選挙について
衆議院議員の任期は4年ですが、参議院とは異なり、解散という制度があります。
※憲法7条の規定より、天皇の国事行為として衆議院の解散が行われますが、天皇の国事行為は内閣の助言と承認により行われるため、解散権を実質持つのは内閣です。
また、内閣は閣議決定により決まりますが、総理大臣は閣僚を自由に任免できるため、事実上は総理大臣の専権事項として扱われます。
※憲法7条…天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。(中略)衆議院を解散すること。
2.解散総選挙について
内閣はいつでも衆議院を解散できるわけではなく、国会開会中でなければ解散することはできません。内閣が衆議院の解散を決めると天皇の名の下衆議院の解散詔書が出され、衆議院本会議において議長が読み上げることにより解散が成立します。
※憲法54条に従い、解散された日から40日以内に総選挙が行われ、選挙の日から30日以内に国会(特別国会)が開かれます。
※憲法54条…衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
3.任期満了選挙について
任期満了選挙の場合、※公職選挙法31条の規定に則り、任期満了日の30日以内に行われます。
現在までのところ任期満了選挙が行われた例はロッキード選挙と呼ばれる1976年の衆院選のみです。12月10日の任期満了の直前である12月5日に投開票が行われました。
当然として、任期満了日の30日前には任期満了選挙の公示日と投開票日を決める必要があります。
※公職選挙法31条…衆議院議員の任期満了に因る総選挙は、議員の任期が終る日の前三十日以内に行う。
(中略)衆議院議員の任期満了に因る総選挙の期日の公示がなされた後その期日前に衆議院が解散されたときは、任期満了に因る総選挙の公示は、その効力を失う。
4.任期満了30日以内の解散について
法解釈上は任期満了30日をすぎ、選挙日程が決まってからでも衆議院を解散できるとされており、その場合、解散された日から40日以内に総選挙が行われます。つまり、これによって最大で任期満了日の40日後まで総選挙を先送りすることができます。
しかし、自治体の選挙においても任期満了日よりも前に選挙を行うことが常道であり、任期満了日よりも前に選挙を行うべきであるという解釈が一般的です。
また、選挙の日程が決まると各自治体は投票用紙、投票所入場券、選挙ポスター掲示板、広報用の横断幕などを用意します。
これらには必ず投票日の日付が記載されています。よって、一度決まった日程を変えるということは、これらを全て作り直すと言うことです。
当然、これらの製作費は各自治体の税金によって賄われています。
一度決まった投票日を変えるということは、これらに必要な税金が二重になってりまうということです。
これらを踏まえた上で、菅総理の退陣が確定した自民党総裁選において、新総裁が選出されたらどうなるでしょうか。
任期満了直前の総裁選という前例のない出来事ですので、様々なケースが考えられます。
ケース1 総裁選直後に臨時国会にて新総裁が総理就任、直後に任期満了選挙
憲政の常道として最適なケースです。
9月29日に新総裁が決まった後、9月29日、30日、10月1日、4日のいずれかに新総裁が臨時国会にて第100代総理大臣に就任、10月5日に衆院選公示、17日に投開票になります。衆院選後の特別国会で総辞職し、第101代総理大臣が就任します。
ケース2 総裁選直後に臨時国会にて新総裁が総理就任、所信表明、代表質問など一定の国会質疑を終えてから解散総選挙
最も起こりそうなケースです。
9月29日に新総裁が決まった後、9月30日あたりで臨時国会が開かれ、新総裁が第100代総理大臣に就任。所信表明演説、代表質問などが行われ、1,2週間の質疑が行われてから解散、任期満了後となる11月に投開票となります。衆院選後の特別国会で総辞職し、第101代総理大臣が就任します。
ケース3 総裁選後に臨時国会を開かず、菅総理のまま任期満了選挙、与党が勝利すれば新総裁が総理就任
最も可能性は低いですが、あり得ない話ではありませんし、私はこれで行うべきだと思っています。
総理大臣は自民党の総裁でなければならないというルールはないので、新総裁はあくまでも次期総理候補になるだけであり、衆院選で与党が勝利すれば新総裁が特別国会にて第100代総理大臣に就任します。
ケース1、2の問題点として、第100代総理大臣が極めて短命になるということがあります。衆院選の結果に限らず衆院選後の特別国会で総辞職しなければならない規定ですので、第100代総理大臣は1か月程度で辞職することになります。短期間で2度も首班指名や認証式を行わなければならないため、無駄が多くなります。
ケース1の問題点として、有権者はまだ何もやっていない新内閣をイメージだけで判断しなければならないということです。実質的には新内閣ではなく、安倍、菅内閣の評価で決めることになりそうです。
ケース2の問題点として、任期満了選挙の日程が決まった後の解散になりますので、県政の常道に反しますし、4.で述べた通り、選挙の費用が2倍となってしまいます。
ケース3は首班指名や認証式を衆院選後の1回で済ませ、任期満了内に選挙を行うことができるので、制度的な問題点は特にありませんが、自民党の議席数が最も減るケースですので、菅総理から刷新したいと考える自民党がこれを行うとは到底思えません。
さて、3つのケースを想定してみましたが、どのケースになるのでしょうか。
衆院選任期満了を直前に控えて与党第一党の党首が変わるという前代未聞の出来事が起こっています。
新総理就任は、衆院選は、どのようなタイミングで行われるのでしょうか。
今後の政界に注目です。