韓国シネマ留学)「朴烈」イ・ジュンイク監督インタビュー(日本語版) | なりあやの韓国シネマ留学記

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2017年、3度目の韓国留学。
ソウルの大学院で映画を勉強します!

あにょはせよ。

韓国のネットニュース「TV REPORT」で載せてもらった「朴烈(박열)」のイ・ジュンイク(이준익)監督のインタビューですが、日本語版も出る出ると言いながらなかなか出ないので、こちらで。出たらひっこめるかもです(笑)

 

 戦後70年を迎えた2015年から、日本植民地時代を描いた韓国映画の公開が相次いでいる。その中でも、6月28日に公開された「朴烈」は異色だ。「日本人=悪」という単純な描き方はしない。そもそもタイトルは「朴烈」だが、主人公は朴烈(ぼくれつ)(1902~1974)と、その相方だった日本人の金子文子(かねこふみこ)(1903~1926)の二人だ。朴烈と金子文子は、皇室暗殺を企てたとして大逆罪に問われたアナーキストのカップル。事件当時こそ騒がれたが、韓国ではほとんど忘れられた存在だった。二人に光を当てた、イ・ジュンイク監督に話を聞いた。

監督と朴烈の出会いは、20年ほど前に遡る。「アナーキスト」(2000)という作品の製作中、資料収集の過程でその存在を知ったという。「多くの独立運動家たちがいたが、京城(現ソウル)や満州、上海で主に活動していた。朴烈は帝国主義の中心部、東京に自ら飛び込んで、活動したという点で特別な存在だ」と話す。韓国の慶尚北道で生まれ育ち、三・一独立運動を京城で経験後、渡日。関東大震災発生後に起きた朝鮮人虐殺を隠蔽しようとする日本政府と、大逆罪の裁判を通して闘った。

「韓国では日本植民地時代について、まだ整理しきれていない部分がある。民衆の歴史や王権の没落といった、もっとずっと以前からの脈絡で見なければ、日本植民地時代だけを切り取って整理できるものではない。『朴烈』という映画を通して、帝国主義の本質を丁寧に掘り下げる必要があると思った。朴烈は、映画の中のせりふにもある通り、日本の権力には反感を持っていたが、日本の民衆にはむしろ親近感を持っていた。脱国家的、脱民族的な行動が、ほかの独立運動家たちとの違い」

 その朴烈に扮するのは、若手きっての実力とカリスマを備えたイ・ジェフン。「建築学概論」(2012)の繊細で純真な大学生とは正反対の、お上にたてつく問題児を豪快に演じた。「イ・ジェフンという俳優が持っている震えるような緊張感が、朴烈が持っていた熱さに通じるものがある」

朴烈役にイ・ジェフンを提案したのは、文子を演じたチェ・ヒソだ。「鋭い目つきが、朴烈のイメージと重なった」と言う。チェ・ヒソは、今回が初主演。イ・ジュンイク監督の前作「空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~(原題:東柱)」にも日本人役で出演した。ネイティブレベルの日本語力もさることながら、監督はその演技力に全幅の信頼を寄せる。「金子文子という役を任せられるのは、チェ・ヒソ以外に考えられなかった」

 映画は、朴烈と文子の出会いに始まり、文子の死で終わる。「ある意味、二人の愛の物語」と言う。「生涯を描く必要はないと思った。当時の権力、日本政府と天皇制に対抗するアナーキストとしての行動を描くことが、朴烈という人物を描くこと。そしてそれは、朴烈一人の行動ではない。文子との関係性の中で生まれた行動だった」

 関連資料の収集や翻訳でも、日本語に堪能なチェ・ヒソが活躍した。監督は、この映画が実話に基づくことをたびたび強調する。それは作り話とも思えるほど、2人の行動が「劇的」だからだ。日本の法廷に朝鮮の民族服で出廷したり、留置所で手紙を交換したり。裁判の期間中にツーショットの写真まで撮っている。本を手にした文子の胸を朴烈が触る、そのふざけた写真が、監督にインスピレーションを与えた。「自由奔放な破格の写真を見ると、朴烈と文子の性格や気質が見えてくる。困難な中でも自尊心を失わない、信念の塊のような」。重くなりがちな素材だが、映画は意外に明るい。朴烈と文子、そして行動を共にしたアナーキストの仲間たちは、むしろ裁判を楽しんでいるかに見える。「人間は、どんなに厳しい状況でも、楽しみを見つけて笑おうとする性質がある。若者たちの明るく愉快な姿を描くのは、ごく自然なことだと思った」

現代を生きる若者たちへの応援歌のようにも感じる映画だが、「そんな意図はない」ときっぱり。「結果的にそうなったと言えるかもしれないが、監督としての目標は違う。朴烈や文子は手段であって、目標ではない。朴烈と文子を通して、その時代を見せたかった」

 チェ・ヒソと共に監督の全幅の信頼を受けて前作に続いて出演したのは、内務大臣、水野錬太郎(みずのれんたろう)役のキム・インウ。在日コリアンで、韓国を拠点に活躍している。本人が「めちゃくちゃ悪い役」と言う通り、朝鮮人虐殺を誘導し、隠蔽しようとした張本人の役。憎さを通り越して笑いを誘うほど、悪い。キム・インウのほかにも、日本語ネイティブの俳優が多数出演した。東京の劇団「新宿梁山泊」のメンバーが大半だ。代表の金守珍(キムスジン)にヘルプを求めたイ・ジュンイク監督は、「新宿梁山泊自体が、アナーキスト的な集団」と言う。金守珍は裁判長役を務めた。死刑判決をくだす役だが、朴烈と文子の法廷パフォーマンスに困惑し、朝鮮人虐殺について朴烈が語る場面では複雑な表情を見せる。「金守珍さん自身が在日コリアンゆえに出てきた表情かもしれないが、それだけでもない。裁判官という公的な立場で任務を果たす一方で、個人的な感情を持つことは、国籍と関係のないこと

 水野大臣の対にいるのは、朴烈と文子の無罪を訴えて闘った弁護人、布施辰治(ふせたつじ)。キム・インウ同様、近年韓国映画で活躍する山野内(やまのうち)(たすく)が演じた。「日本人はみんな悪い、なんてわけがない。布施辰治という存在も、水野錬太郎という存在も、日本全体の要素の一つ。国家の中にも個人の中にも、多様な立場と視線が存在する」。ステレオタイプでない日本や日本人の描き方が、映画に深みを与える。

 日本では7月、韓国での公開から1年半を経て、 「空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~」が公開される。監督は「『東柱』の興行が日本でうまくいけば、『朴烈』の日本公開も可能性が出てくるでしょう」と笑う。